端角と右玉~対嬉野流の手筋の研究
はじめに
居飛車党が対嬉野流でなんとなくノリで駒組みをしていると「△3四歩を突いた相掛かり」みたいな陣形になりがちである。
すると、手強いタイプの嬉野党はこの浮いている横歩を狙って▲2四歩△同歩▲同飛と動いてくる。
そして、この動きへの対応が悩ましいのである。
後手はすでに一歩損が避けがたいが、その後の方針をしっかりと持っておかないと、腕力自慢の嬉野党の思う壺となる。力戦で競り負ける未来が見える。
この記事はこの嬉野流からの横歩取りへの対策、一歩取られた後の後手の方針を検討してみたそのまとめである。
ただし、それの前置きとして、先手が横歩を狙わずに普通に斜め棒銀で攻めてきた場合の対策も検討したので、それもまとめておく。
普通の斜め棒銀の対策→横歩狙いの対策という構成になる。
ちなみに手っ取り早いのは何かって言うとぉ……
断っておくと、この記事の内容はめんどくさい。ややこしいと思う。
(だからこそ、筆者も文章書いてまとめておこうか、と思ったのだし)
ここまで記事を読んでみたけど、そんなのまどろっこしいぜ! 手っ取り早い話が聞きたいぜ! という人には棒銀をおすすめする。
横歩を取る動きは、手数をかけて一歩得するだけの戦果にしかならないので、後手が持久戦につき合わず、とっととパワーで殴れば有望な局面となるのが道理だ。
上の図は、後手が横歩を取られている間に一直線に棒銀にでた図だが、こうなれば後手が有望だと思う。
棒銀こそが手っ取り早い対策なのである。
棒銀最強! 棒銀最高!
構えと狙いについて
対嬉野流で、居飛車党がノリで駒組みするとなりがちな構えはだいたいこんなところだろう。
ここでクソ真面目になって後手の構えの狙いについて考えてみよう。
この△7四歩は次に△7三桂を跳ねる狙いだと見ていいだろう。
居飛車党がノリで指しているとなんとなくで右桂を活用しがちであり、その事実とも完全に一致している。
先手はいずれ▲4六銀から▲3五歩と攻めてくるが、後手の構えはちょくせつ3筋攻めの防ぎにはならないのが明白だ。
後手の狙いはしっかりと攻めを受け止めることではない。
しっかり受け止めないのであれば、いずれ2,3筋方面は突破されてしまう。
では、後手から早い攻めがあるかと言うと、それもない。めちゃくちゃ早い攻めが好みの人にはやはり棒銀をおすすめする。
消去法的に、後手の狙いはカウンターになると思っていいだろう。
先攻はできずとも攻めの準備はしておき、相手の攻撃で左辺が突破されてしまう前にカウンターを当てるイメージだ。
さて。具体的な局面で考えていこう。
▲4八銀上 △7三桂 ▲3六歩
話が前後するが、この構えでは基本的に△3三角とは上がらない。それよりも攻めの準備の手をたくさん指したいところだ。
また、△5二玉と立つ自然な一手も指さないでいいと思う。居玉でがんばってみよう。
△6四歩
この先は個々の局面の話になっていく。
狙いの話の最後に、狙いとはすこし違うのだが、後手の気持ちとしては7三の桂が活躍する展開にしたいというのがある。せっかく使った桂である。
検討してみて、手順を見てみて思ったのだが、後手の構えの良いところはやはりすばやい桂の活用である。
カウンターの手順でも、この桂がカギを握る。手順とは違うが、これもポイントである。
▲7九角の変化
この記事では、先手の▲4六銀~▲3五歩の斜め棒銀の攻めを四つの変化に分けてみた。
それに対して、後手はだいたい二種類のカウンターを撃ち分けるイメージになる。
まずは一つ目の変化。
▲6九玉 △6二金 ▲7九角 △6三銀
▲4六銀 △7五歩
△7五歩の7筋位取りが一つ目のカウンターの筋である。
次はとうぜん△7六歩と突けばよい。
この位取りはタイミングがポイントで、先手が▲4六銀と上がった時に歩を突く。これよりも早いと、先手にも▲6六銀と上がる余地があるためだ。
それまでの間合いをはかるところでは△6二金~△6三銀のように右辺の駒を活用しておけばいいだろう。
△7五歩の局面になれば▲3五歩はもう間に合わない。早いがこれ以降は局面は省く。
ともあれ先手も▲7九角とは引きにくいと思っていいだろう。
8八角型の変化
今度は▲7九角を引かずに攻めてみよう。先手は前変化の▲7九角に替えて▲4六銀と出る。
▲6九玉 △6二金 ▲4六銀 △7五歩
後手は同じように△7五歩と突く。
ここでも▲4六銀のタイミングで△7五歩としている。この呼吸がポイントだと思う。
今度は先手も▲3五歩から攻める余裕がある。
この歩は△3五同歩と取る。後手は▲同銀のタイミングでカウンターを繰り出す。
▲3五歩 △同歩 ▲同銀 △8六歩
▲同歩 △8五歩 ▲同歩
後手は8筋に継ぎ歩をした。パッと意図がわかりにくい継ぎ歩である。
ただし、手抜くと△8六歩~△8七歩成の攻めが早いため、先手も素直に取るくらいだ。
△7六歩 ▲2四歩 △7七歩成 ▲同角
△同角成 ▲同桂 △7六歩
△7六歩の突き捨てが狙いすました一手だ。
▲同歩だと十字飛車がかかる。これが継ぎ歩の狙いだった。
先手は手抜くことになり、以下は攻め合いになる。手順は一例だ。
相手が8八角型であっても、△7七歩成から7七のマスを攻めると、7三の桂が働き出すのがわかるだろう。
△7六歩と打った局面は、次に△7七歩成▲同金△8五桂のように継ぎ歩した歩を桂で取る狙いがある。
こうなれば桂のうしろに控える飛車も働いて全軍躍動である。
まだまだ難しい局面だが、このあたりで説明を打ち切る。形勢は後手有望としておく。
居玉の変化
三つ目の変化に入る。ここからは別のカウンターの筋を使うパターンだ。
▲4六銀 △6二金 ▲3五歩 △同歩
▲同銀 △8六歩
この変化は先手のだいたい最速の攻めである。
▲6九玉が省略されているのが前の変化との違いだ。
▲8六同歩 △同飛 ▲8七歩 △5六飛
この場合は5六の歩を取りにいく。この5筋の横歩を取るのが第二のカウンターの筋だ。
先手が居玉の時はこの筋が有力だ。
この歩を取ることで、のちの△5五角の飛び出しが生じたりもする。
▲6九玉 △8六歩 ▲同歩 △7五歩
8筋の合わせの歩は、のちに飛車が追われた時の逃げ道を作っておく意味。
そして、△7五歩と位を取る。
この局面では▲2四歩が気になるはずだが、まずは先手が▲4六銀と自重した場合を見てみる。
分岐:先手が受けに回ると
▲4六銀
△8六飛 ▲8七歩 △8一飛 ▲5八金
△8六歩 ▲同歩 △8五歩
後手は8筋に飛車を戻しておくのだが、△8一飛の局面は次に鋭い狙いを秘めている。
それが△8六歩からの継ぎ歩攻めで、5筋で一歩得しているため△8六歩と垂らす歩が足りるのだ。
これは後手ペースだと思う。
先手は▲7九角と引いて▲8八歩の受けを用意するくらいだが、それなら△7六歩と突いた手が取れない形のため、後手の手が続く。
本線:▲2四歩へのカウンター
さて。▲2四歩からの攻め合いを見ていく。
2筋を攻めるのは当然の継続手だと言える。自然な手だ。
▲2四歩 △同歩 ▲同銀 △5五角
▲2四同銀の時に△5五角が狙いの攻防手。これが角を脱出させて2筋の攻めをかわす手になっている。
▲3七歩 △6五桂 ▲5八歩 △7六歩
△6五桂は5七のマスに不成で飛び込む狙い。
先手が5筋を受けたら△7六歩と突いていく。
こうなると攻めの手が続く格好で、先手の2筋の攻めは重く、速さが足りないッ!
この局面は後手ペースだろう。
先手の普通の攻めに対しては、後手が7筋の位取りと5筋の横歩取りの二つのカウンターを使い分ければ十分に戦えることがわかった。
▲2四歩からの歩交換の戦いへ……
かなり前の局面に戻る。
後手が△3三角を省いているので、先手も▲2四歩は行ってみたいところでもある。
分岐:角で歩交換をする変化
▲2四歩と、その後の▲3四飛の横歩取りを巡る攻防を見ていくのだが、その前に軽くこちらの変化を見ておこう。
▲7九角 △7三桂 ▲6六銀
引き角を生かして▲6六銀から角で歩交換をしようという変化である。
後手が居玉のため2四に角を出れば王手になるのもあり、先手はこの順を指してみたくなるかもしれない。
△3三角 ▲2四歩 △同歩 ▲同角
△同角 ▲同飛 △2二銀
▲6六銀のタイミングで△3三角と上がるのがポイントだ。この場合はすぐの角頭攻めがないのが大きい。
先手は▲2四歩とくるが、これで角交換が発生した。
嬉野流側が角道を開けないため、後手は居角のラインで構えていても意外と角が使いづらい。
それならば角は交換にして持ち駒になったほうが使いやすいと思う。
▲2四同飛には△2二銀と受けておく。歩を打たないのは横歩を取られた時のためである。
(2三に歩を打たない効果は、将来の△2三銀が指せることだったりもする)
ここで▲2八飛と引くなら、後手も8筋の歩交換ができるため一局だろう。
先手は▲3四飛と取る。
▲3四飛 △3三桂 ▲2四飛 △8六歩
▲同歩 △同飛 ▲8七歩 △8一飛
▲2八飛 △2七歩
後手は▲3四飛に△3三桂と受ける。
これは2二の銀を動かさない対応で、2筋の歩を手持ちのままにしたい意図だ。
手順は一例だが、▲2八飛に△2七歩と進めば後手が一本取っているだろう。
この歩は取れば△5四角が打てるが、この歩が取れずに飛車を逃げて持久戦に進むのでは先手が作戦負けだ。
この変化は角交換に持ち込むのがポイントで、後手が問題なく戦える。
本線:横歩取りの変化~骨子の△1三角
先手としても飛車で歩交換をするのが本線だと思う。こちらを指してくる人のほうが多いのではないか。
▲2四歩 △同歩 ▲同飛 △1四歩
▲3四飛 △1三角
▲2四同飛の時に△1四歩と突いておくのがちょっと目新しい手だ。
以下▲3四飛には△1三角と覗く。
これが骨子である。
この角の意味は……。
まず銀取りなのだが、他に▲2四飛と戻る手の防ぎになっている点も見逃せない。
まず▲4八銀上がいちばん嬉野流の形としては自然なのだが、これはとうぜん△2八歩と打たれてしまうため駄目である。
先手は他の受け方をしなければいけない。ここは手が広い。
▲5八金の変化
▲4八銀上が無理だとなれば、右銀の代わりに右金で銀取りを受ける手は考えられる。
▲5八金
ただし、金を上がった形は陣形全体のバランスが良いとは言えない。
後手はそこに目をつける。
△8六歩 ▲同歩 △同飛 ▲8七歩
△8五飛
後手は歩交換から中段飛車に構えた。次は△2五飛と回る手が狙いだ。
たとえば、ここで▲7六歩くらいの手だと、以下△2五飛▲2八歩△3八歩の叩きの歩一発で先手が参ってしまう。
▲5八金によって金が3筋から離れているのも大きい。4九金型ならば△3八歩はなんでもない手だった。
△2五飛の転回は見た目以上に厳しいことがわかる。
▲3六飛 △2五飛 ▲2六歩 △3五飛
▲同飛 △同角
▲3六飛と引き、飛車の利きで▲2六歩と受けるのは苦心の順だろう。
後手は△3五飛とぶつけ、強引に飛車交換にしてしまう。
▲5八金と上がっている先手陣は、低くバランスの良い後手陣よりも飛車交換に弱い。
この局面は後手ペースだと思う。次は△2七飛の打ち込みも狙いになる。
▲7九角の変化
△1三角の局面に戻る。
次は▲7九角で銀取りを受ける変化を見てみる。
右側の金銀を動かさない受け方だが、この手にも角が使いづらくなる意味はある。
▲7九角 △8六歩 ▲同歩 △同飛
▲8七歩 △8五飛
後手は同じように中段飛車に構える。
今度は飛車を回っても簡単に受けられてしまう形だが、後手は受けさせるのが利かしだと見ている。
▲3六飛 △2五飛 ▲2八歩 △6二玉
△2五飛の後で、△6二玉とひねり飛車風に指すのが狙いの構想だった。
また、見方によっては後手陣は横歩取りの後手番に似ている。
先手は7,8筋方面を攻める形にしづらいのだ。さりとて、右辺からも攻めづらい。
2筋に歩を打たせたのもポイントで、これは先手作戦負けだろう。
以下は一例だ。
▲3八金 △3三桂 ▲4八銀上 △4二銀
▲5八玉 △4四歩 ▲2七歩 △4三銀
こうなれば後手は一歩損しているのが気にならない。
先手も一歩得くらいでは割に合わないだろう。
7九の角は使いづらく、▲5六歩と突いてあるせいで飛車も横に使えない。
まだまだこれからといった戦局だが、後手が指せる展開だと思う。
▲4六銀の変化
5七の銀取りの対応が意外と面倒くさいことがわかってきたと思う。
最後に▲4六銀と出て銀取りを受ける手を見てみる。
右側の金銀を動かさずに受ける手で、これも考えられる。
▲4六銀 △8六歩 ▲同歩 △同飛
▲8七歩 △5六飛
後手は横歩を取る。
これも飛車を横にひねる手だと見ることができる。
▲5七歩 △5四飛
▲5七歩の時に飛車が狭いようだが、強く飛車をぶつけていい。
ここで▲3六飛は気合い負けで、以下△2四飛▲2八歩△2五飛くらいが一例で先手が苦しいと思う。
この△2五飛は次に△3五歩と打つ狙いだ。
露骨すぎる狙い筋だが、こうなると飛車取りの受けがなさそうだ。
そこで、先手も飛車ぶつけは取る。
▲5四同飛 △同歩 ▲3八金 △2二角
▲5八玉 △7三桂 ▲4八銀 △4二銀
後手は5三の空間が気になる形だが、▲5三飛△5二飛の進行は受かっている。すぐの打ち込みは大丈夫だ。
以下は一例である。
途中の△2二角が臨機応変の一手だ。この展開ならばラインを戻したほうが角がよく働く。
後手陣は一見まとめづらそうな形だったが、△2二角~△4二銀となれば形が引き締まる。居玉でも安定した形だと思う。
これは一局だと思うが、後手のほうが伸び伸びと指せそうだ。この変化も後手が指せる。
この△1三角と覗く構想は有力だと思う。これらの展開は一歩損でも後手が指せると思いたい。
(もちろん、先手には▲3四飛と取らない手もある。それはだいたい一局だろう)
△1三角に耐性のある形~そして右玉へ
先手としては△1三角が銀取りになるのの味が悪いことはあった。
そこで、銀にひもをつけてから横歩を取るという構想も考えられる。
具体的にはこれまでの先手の指し方をミックスするのである。
▲7九角 △7三桂 ▲2四歩 △同歩
▲同飛 △1四歩 ▲3四飛
▲7九角は角での一歩交換を見ているので、上にも書いたように後手は△7三桂と応じる。
しかし、そこで横歩を取りにいけばすでに5七の銀にはひもがついている。
後手はそれでも△1三角とするが、この手が先手にならない。
△1三角 ▲3六飛 △3三桂 ▲5五歩
△2二銀 ▲6九玉 △2三銀
▲3六飛に△8六歩~△8五飛としても▲2六飛が間に合うため、ひねりの展開にはできない。
そこで、後手もすぐの飛車先の歩交換を見送ったが、それならと先手も▲5五歩で8六のマスを受けた。
△2二銀から△2三銀は好形で、こう組めば意外と端角は安定している。
後手は形はまずまずで駒の活用もできている。後はどういう構想を描くかだ。
このあたりからは展開の一例だが。
▲2六飛 △6四歩 ▲4八銀上 △6三銀
▲3六歩 △2五歩 ▲2八飛 △8六歩
▲同歩 △同飛 ▲8七歩 △8一飛
△6三銀で左銀に続いて右銀も活用していく。
こうなると空中戦という形ではなくなる。
△2五歩で先手の飛車を追って後手も一歩交換ができたが、飛車は一番下まで引くのがいいだろう。
だんだんと構想が見えてきただろうか。
後手の最終形は右玉である。
組み切れればこれはこれで飛車が使える形となる。
▲1六歩 △5二金 ▲4六銀 △6二玉
こうなれば一局だろう。先手の一歩得なのだが、それで後手が苦しいということもないと思う。
後手は駒の働きが良い。筆者は後手持ちとしておく。
▲2四歩からの歩交換の動きに対しても、後手が△1三角の構想を軸にひねり飛車や右玉に組んでいけば十分に戦えることがわかった。
さいごに
書いてみての感想だが、やはりというか入り組んだ内容になったと思った。
ほとんど自分用のメモみたいな内容だ。
文章量もかなりのサイズになった。
筆者としては満足だが、読む方は大変だったと思う。
ここまで読んでくれたことを本当に感謝している。ありがとうございます!
筆者は実戦でこの構想を試してみるつもりなので、よかったら皆も試してみてくれるとなお嬉しい。
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