【CROSS†CHANNEL】生きている人、いますか?【微ネタバレ感想】
CROSS†CHANNELは群青学院放送部に在籍する八人の男女によって展開されるコミュニケーションや関係性、自己の存在意義にせまる学園青春アドベンチャー。
Switch版あり。
作品に興味を持ってもらうため、刺激的な部分を中心に微ネタバレがあります。オチは損わないけど序盤あたりまでは開示しちゃうので注意。
【作品の概要】
あらすじを大雑把に紹介すると、
すけべ大魔王で容姿にコンプレックスを持つ主人公、黒須太一。群青学院放送部に所属する彼は様々なきっかけの積み重ねで離別、決裂、裏切り、瓦解に至ってしまった放送部員八人の仲を修復するために奔走する。そして一週間後、太一の手によって集められた放送部員たちは、電波放送用のアンテナを完成させる。それは不格好で完璧とは呼べない。彼ら八人の関係性も未だ不完全だった。でも今はそれでよかった、はずだった。そして部員の見守る中。太一は放送を始める。
「生きている人、いますか」
そして一週間は繰り返される…
という作品。所謂ループもの。
作中では物語を語る上で欠かせない前提条件が多く秘匿されており、ループを重ねるたびに少しずつその前提条件がプレイヤーに開示され、これまで歩んできたループへの理解度が明かされた瞬間に加速するカタルシス。同じ展開に飽きてしまいがちなループものを楽しませる工夫であり、物語としても重要な展開に関わる。
作品のテーマは人と人との関わり合い。
普遍的でありながらも一般的とは言えない、語ることを憚られるような観点から切り込んでいく本作。傷口に直に触れるような、痛みを伴うコミュニーケションのデリケートな部分にほんっっとうにクソ真面目に向き合う。
上記ほんの一部、コミュニケーションの本質に向き合い続ける。
【好きだったとこ】
・ループを繰り返すたびに物語上で開示される決定的な設定。深まる謎
プロローグにあたる1ループ目の最後のセリフ、「生きている人、いますか」に代表されるこれ。普通の学園青春ものとして物語が進んだ結末でのこのセリフの衝撃ときたらもう。そして次の瞬間冒頭の展開が再び進行し、1週間は振り出しに戻る。ここでこの作品がループものであることに気づかされる。それから明かされる学園の真実、主人公の真実、そして八人の部員がそれぞれ抱える真実。これらは作品を理解する上で不可欠な情報にも関わらずループを繰り返す中で段階的に提示される。だからこそループの同じ展開においても情報得てからでは180度世界が変容する。飽きさせないね。
特にクリア後にプレイする1周目なんかはね…
・テーマに対して真摯に、マージで真摯に向き合うところ。
人と人の関わり合い。そんなテーマに本気で向き合っている。一般的な恋愛ADVや青春ADVは人のコミュニケーションのど真ん中ストレートである恋愛や友情を取り扱うにあたりそのシュミューレションであるがゆえにそれは物語的に王道である場合がほとんどである。そりゃゲームだからね。
しかし本作。その人間関係は現実のそれ以上に屈曲し、複雑化し、拒絶され、傷つき続ける。そして、それなのにどうして人は他者との関わりを求めるのか。あるいは、そもそもその関わり合いは必要なのか。
そんな風にコミュニケーションという曖昧かつ普遍的な概念に正面から挑んでいる。自己とは。他者とは。その差とは。答えなんてない。でも納得したい。そんなテーマだ。
・魅力的なキャラ
往々にしてキャラの個性は加点方式にて形取られることが多い。好きな食べ物。趣味。特技。口癖。そんな具合に。
だが本作のキャラはそれ以上にマイナスを以って語られる。トラウマ。コンプレックス。憎しみ。ハンディキャップ。こうやって削られて浮き彫りになった各キャラクターの輪郭は鮮烈な存在感をプレイヤーに刻みつける。
・読後感あるいは余韻
感情が揺さぶられ、動かされるから「感動」。そんなわけで本作、以上のような設定がゆえにプレイヤーの情緒は揺さぶられっぱなしである。ジェットコースターを降車した後、それまで莫大なエネルギーに晒されていた肉体が海のように遠大な虚脱感に包まれることと同様。この作品が終わり、プレイヤーを解き放つエンディングの余韻は格別にして唯一無二だった。
【人を選ぶ要素】
・エログロ
エロ、元がエロゲーだってことを加味しても過激。かと思えば度を超えたセクハラの連続。20年前の作品だからこそだな…。しかし、これもまた作中において重要な要素である。これもまた作品の味、とかそんなレベルではなく。本作を構成する大切なポイントではある。あるんだけども、人を選ぶレベル。
グロ、とってもスプラッター!でも暴力表現がADVを刺激的にするのはやっぱりそう。プレイヤーだってどこか求めてる。でも苦手な人は注意。
とっても刺激的
・ADV経験者向け
作品構造やテーマ、序盤の展開などからまずはゲームついていく力が必要ではある。名作だし面白いけど初めて遊ぶADVには向かない。ダンガンロンパやら逆転裁判やらを遊び、ADVおもしれ!ってなって428とかシュタゲとかした後がちょうどいいんじゃ無いだろうか。
【感じたこと】
他者とは。自己とは。
他者は壁のようなものなのかなと。もし世界に自分一人だったら。世界と自分の境界はどんどん曖昧になり、世界に希釈され、自己は現象として世界に溶け込んでしまうだろう。
でも他者がいる。コミュニケーションを通じて他者とぶつかり、押し戻される。もちろん傷つくこともあれば柔らかくて癒されることもある。その感触に世界と自己との境界を見出すことができる。自己を知り、心を育むことができる。そしてもう一度と繰り返し他者とぶつかることで今度は他者を知ることができる、かもしれない。他者は壁だ。でもそれは自己を閉じ込める檻ではない。世界と自分との境界線。それが他者。僕がいて、君がいる。その理由。なのかなと思いました。
【終わりに】
ADV史に残るレジェンドだけあって。めーっちゃ面白かった。やってよかったしこれからの人生で擦りまくる一作になった。ADVほど古典が強いジャンルもなかなか無いのではなかろうか。技術や映像表現などによって過去を更新し続けるRPGなどとは異なり、物語一本勝負のADVは作る側も古典を超えようと挑むし、プレイヤーも古典を超えるものを探し彷徨っている気がする。しかし、そんな古典がハードの都合や時代背景の都合から遊びにくくなっている現状。もっと名作、移植してくれよ。
ちなみにプレイ時間は全エンド全スチル回収で13時間くらい。私が読むの早すぎではあるので普通に遊んだら20〜25時間くらいじゃないかしら。
間違いなく人生や心が寄りかかることのできる名作です。未プレイのADV好きは遊んでみてくれ!
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