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【神無迷路】はかまいたちの夜ライクに物語の迷宮に挑めるコンパクトな良作【感想】

何を隠そう私はかまいたちの夜ファンである。学生時代、友達と一緒にどちらの選択肢を選ぶか思案し、展開に一喜一憂しながら楽しんだ思い出はは今現在までADVやノベルゲームを楽しみ続けている私のゲーム原体験の一つである。
というわけで今回は3時間くらいでさっくり遊べるかまいたちの夜リスペクト作品「神無迷路」のプレイ後雑記です


【概要】

入学試験に失敗し、3年間も浪人生活を続ける主人公、波立良志。

貧困に喘ぐ彼は、謎の地下研究所のアルバイトに応募する。

しかし実験の日、9年前に死んだはずの幼なじみ、小酒井澪と不思議に再会した。

懐かしい夏の記憶が蘇り、良志は混乱に陥る。

幼なじみの謎の復活、時間の逆行、閉鎖された空間での連続殺人...

良志は運命の迷路を抜け出し、逆境を覆す鍵を握る答えを探し出せるのか。

本作steamストアページより引用(https://store.steampowered.com/app/2876250/_/?l=japanese

といった具合でかなり見覚えのある青く半透明で影のような立ち絵の人物像、メッセージボックスではなく画面いっぱいにまるでノベルのように描写されるテキスト。とその様子は名作ADVかまいたちの夜を彷彿とさせる。


閉鎖空間での連続殺人などの王道サスペンス要素に加え、量子観測実験などの実在する科学要素から地続きで飛躍した並行世界などのオリジナリティの高いSF要素が魅力の作品。
フローチャートや「犯人はあなただ」がしっかり盛り込まれている点も嬉しい。

蜘蛛の巣ように分岐するフローチャートを探索する
様々な分岐で集めた情報をもとに推理

【好きだったところ】

SF要素
本作は選択肢によってシナリオや展開が分岐するわけだが、それによって生じる複数の展開を、ゲームにおけるifではなく、「並行世界」として作品の中核的テーマにおいている。


本編開始前に死亡している設定の主人公の幼馴染みだった少女が序盤から登場するなど、世界への違和感として並行世界が度々衝突してくる展開、また現実の実験に基づいた説得力のあるSF設定も魅力だ。



例えば、舞台となる地下研究所にて行われている実験は…
観測されると振る舞いを変える実験の過程10分時間を遅らせて被験者に観測させる。一方で研究者たちは実験の結果をリアルタイムで確認する。
つまり12時に研究者が結果を確認した実験の過程は、12時10分によって被験者に観測される。つまり結果は10分後の未来に過程を経る結果を表しており。もしその結果に観測されず振る舞いを変えない場合の結果が表示された場合。今過程を観測し続けている被験者は10分以内に結果の観測が困難な状況に陥ってしまう。という具合である。
かなり説明が荒くなってしまったが理解できた瞬間のカタルシスは大きい。とても良い設定のゲームだった。

・3Dモデルが丁寧
テキストの裏で動く3Dモデルのクオリティが高く、舞台となる研究所の部屋の様子や、殺人に使われたトリック、シーンの臨場感の演出に一役買っている。また、文章で表現することなくモデルの方で視覚的に表現をしている部分もあるため、テンポの意地やテキストの削減にもつながっているように感じた。

・テンポがいい
作品も3時間と短い。分岐があるものの複数のグッドエンドの先に真エンドがあるとかではなく、多数のうっかり死や唐突死系のあきらかバットエンドの先にグッドエンドがあるという感じ。
物語の迷宮という要素に関しては、バッドエンドによって「鍵」を入手したり犯人のヒントを得たりしながら、選択肢をアンロックすることで新たなルートに突入し、そして推理パートに戻って真犯人を特定するという具合。
ありきたりだが、本編のフローチャートの樹形図から逸脱した過去のシーンブロックが独立して存在し、物語のキーになっている様子も良かった

【人を選ぶ要素】


・魅力に欠けるキャラクターとやや俗っぽい要素
特に主人公に顕著である。ひょろひょろのメガネで3浪中、Vチューバーの配信を見ながら勉強するのが趣味というなんとも言えないキャラクター、リアリティがあるはあるのだが親しみやすくはない。
この上でゲームが故に女性キャラが満更でもない接し方をしてくれるわけだが、流石に受け入れられなかった。
(理由づけとしてメインヒロインの一人は主人公が大ファンのVチューバーの中身で、そのVチューバーの魅力を早口で捲し立てる主人公の様子を嬉しそうに眺め、味方になってくれるのだが正直君が悪いだけではないか…)
また、これもサスペンスADVのあるあるとして、登場キャラが次々と死んでいくのに事件の真相に近づけず、次はいよいよ自分の番となった主人公が武器を手にとり、「どこだ!出てこい人殺し!殺してやる!俺が殺す!出てこお多い!人殺し!殺してやるううううう!」と叫び散らかすような無力感発狂皆殺しエンド的なものもあるのだがネトゲとかでヒステリックに発狂するオタクにしか見えなくて残念だった。
(主人公の経歴について、一応物語の設定上、過去のトラウマ的出来事からそういった人間になってしまったという背景があり、並行世界ではイケてる感じの主人公として登場する。とは言えもっとやりようがあったのではないか)


Vチューバーの他にも馬娘などパロディをギャグパートに一瞬だけ登場させるなど、今ウケているだけのオタクコンテンツをシナリオとは無関係に投げ込む姿勢は10年後にプレイさせる気がないのかなと気になってしまった。長く愛されるゲームになれるだけのポテンシャルを感じたため、刹那的な流行りで現代社会の目まぐるしい消費スピードの荒波にライドしようとする姿勢はたくましい一方でもったいなくもあった。

説明不足
SF要素に感嘆したことを前述したが、その点を筆頭に作中の事件や設定がかなり説明不足である。
理解するために何度も読み直したし、こういったSF的な要素に親しみがない人はそもそも読み飛ばしてしまうのではないだろうか。せっかく凝っていたオリジナリティの高い斬新な設定があるのだからきちんとプレイヤーに伝えて欲しかった。
また、キャラの項目でも述べたが、ヒロインが惹かれていく様子をもっと掘り下げて欲しかった。(Vチューバーが自分のファンだからという理由で3浪のヒョロガリオタクを好きになるはずがないので)
とは言え、この点はプレイ時間の短さや展開のテンポ的な部分と喧嘩するので英断的なカットだったと思う。説明不足とは言え作品として真に描きたかったであろう描写やメッセージ性は確実に伝わっていたので。


3日…?
主人公たちは、閉鎖空間で三日間の実験に参加することになる。
が、3日目が訪れることは決してなく、最も生き残るルートでも2日目の明け方くらいまでである。様々なルートを試し、3日目までお話を進め重要な真実にたどり着く…と思っていたら話がそこまで達する前に事件が解決してしまった。ミスリードと言えばそうだし、そこまで気にすることじゃないと言われたらそうなのだが、冒頭で想像していたゲームボリュームとのギャップに驚いた

【感じたこと】


総評としてかなり満足している。楽しかった。安いしコンパクトにパクッと遊べる。
ゲームのシステムやUIなどは「かまいたちの夜」リスペクトだが遊び味はまるで違ったのでその点には留意すべきだろう。強いていうのであれば、かまいたちのメインエピソードではなく、「サイキック編」や「底蟲村編」のようなサブストーリーが近いだろうか。
SFの味付けで近いのは「極限脱出シリーズ」。分岐を巡り、情報を集め、メインのエピソードの軸に戻ってロックを突破していく物語の迷宮という観点では「この世の果てで愛を歌う少女YUーNO」や「あの素晴らしい  をもう一度」的な感じだった。
300円で数日でクリアできて満足感もある作品なので三連休とかで一気に遊んだりしちゃうのがいいんじゃないかしら。


軽いADVが続いたので次回は大作RPGでもやりたいぜ

それではまた次回


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