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【人的資本経営ストーリー作成塾】第4回 人的資本経営モデル(その2)

CHROFYは、「人的資本」や「人的資本経営」に関する専門家たちのご協力のもと、人事・経営に役立つ情報を定期的にお届けしています。

【人的資本経営ストーリー作成塾】では、事業創造大学院大学 一守靖教授から、人的資本経営や人的資本経営のストーリーを作成する上でのポイントなどを解説していただきます。
第4回は、「人的資本経営モデル」についてお届けします。

人的資本経営モデル (2/5)

「人的資本経営モデル」は5回に分けてご紹介する予定ですが、今回から、「人的資本経営モデル」を構成する各要素についてご説明します。

図1 人的資本経営モデル

はじめは、「企業の存在意義」

「人的資本経営モデル」(図1)は「企業の存在意義」から始まります。
法人を設立する際には「法人(設立時)の事業概況書」を作成して税務署に提出したり、また任意で「設立趣意書」というものを作成したりするでしょう。企業の存在意義はそうした際に意識され示されるものです。これは、少し前は「ミッション」といわれ、最近では「パーパス」といわれるものに相当します。

次に出てくるのは、「企業文化」

人的資本経営モデルで次に出てくるのは、「企業文化」です。
これも「企業の存在意義」とともに、企業経営者の考えが強く反映する、あるいはさせるべきものです。
企業文化は、何が良く何が悪いということはありませんが、企業の存在意義との関連性という意味で、「適している・適していない」、という考え方はできるかもしれません。
次いで企業は、その存在意義を果たすために企業戦略を策定し、企業戦略を達成するために企業内に様々なルールを作りながら組織運営をします。それらもまた企業の存在意義や企業文化の影響を受けながら形作られていきます。

企業目標・企業戦略、組織構造、人材マネジメント戦略、人材マネジメント施策のつながり

ここで「人的資本経営モデル」の左側にある、企業目標・企業戦略、組織構造、人材マネジメント戦略、人材マネジメント施策のつながりについて考えてみましょう。

 本連載の第3回で紹介した「人材版伊藤レポート」(2022年5月発表)でも、VUCAの状況下において企業戦略は柔軟性と対応の早さが求められ、企業戦略と人材戦略の連動は欠かせないという点が強調されています。
もともとこの「企業戦略と人事戦略の連動」は、戦略的人的資源管理(SHRM=Strategic Human Resource Management)という領域でも強調されてきました。
これは例えば、「企業目標の達成を目的とした、計画的な人的資源の配置と運用のパターン」(Wright & McMahan,1992)や「組織を取り巻く環境と各種人材マネジメント施策、ならびにその運用に関わる社内の人々、組織の有効性を評価する社外のステークホルダーとの相互関係を構築すること」(Jackson et al.,2014)などと表現されています。

「組織は戦略に従う」という言葉をお聞きになったことがある方は少なくないと思います。これはハーバード大学経営学の教授で、経営史の研究家として知られるチャンドラー(Chandler,1962)による有名な言葉で、企業戦略と組織構造は自ずと連動するものであるという考えが表現されています。
このチャンドラーの考えに誘発された形で、その後も多くの研究者が、事業戦略あるいは企業を取り巻く環境と組織構造の連動について述べています(例えばMiles & Snow  1984)。
このMiles & Snow と同時期には、企業戦略と組織構造との連動をさらに拡げて、人事戦略や人事施策などとの連動も重要であるという考え方がでてきました。その代表的なものに「ミシガン・モデル」と「ハーバード・モデル」というものがあります。
「ミシガン・モデル」というのは、1984年にミシガン大学の研究者を中心に提案されたモデルです。
ここでは、企業戦略の要素としてミッション、経営戦略、組織構造、人材マネジメントをあげ、これらの各要素が互いにフィットしていると同時に、組織の外部の環境ともフィットしていなければならないと主張しています。
「ハーバード・モデル」というのは、同じく1984年にハーバード大学の研究者によって提案されたモデルです。
ここでは、企業を取り巻くステークホルダーの利害、従業員の特性、労働市場などの状況要因と人材マネジメント施策がフィットすれば、Commitment(従業員のコミットメント)、Competence(従業員の能力)、Cost Effectiveness(コスト効率性)、Congruent(組織目標と従業員目標の整合性)が強化され、さらには従業員の幸福や社会の繁栄につながるという主張がされています。

人的資本経営モデルでもこれらと同じ立場をとり、企業のパーパス、企業文化、企業戦略、組織構造、人材マネジメント戦略、人材マネジメント施策の連動が重要であると考えています。

こうした仕組みの中で、企業は個を強くし、その強い個と個を結び付けて強い集団を作っていく。それが企業の業績を高め、企業価値の向上につながる。これが「人的資本経営モデル」と呼ぶモデルの考え方なのです。

次回は、「企業で「個」を強くするにはどうすれば良いか」について考えます。

(参考文献)
Chandler, A. D. (1962). Strategy and structure: Chapters in the history of American industrial enterprise. London, England: MIT Press.
Jackson, S. E., Schuler, R. S., & Jiang, K. (2014). An aspirational framework for strategic human resource management. The Academy of Management Annals, 8(1), 1–56.
Miles, R. E., & Snow, C. C. (1984).Designing Strategic Human Resources Systems.Organizational Dynamics, Summer, 36-52.
Wright, P. M., & McMahan, G. C. (1992). Theoretical Perspectives for Strategic Human Resource Management. Journal of Management, 18(2), 295-320.


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