私が寝ている間に
久しぶりに部屋から出た。
ずっと寝ていたので。
ひと月前にどうにもダルい日が続くから、まさかねぇ…と思いながらもテストしたら陽性。コロナじゃなくて、妊娠。でもその幸せは2週間でおわり。
赤ちゃんがお腹の中で亡くなっちゃった。
繋留流産。
「赤ちゃんの心臓が止まってます」
そう言われたからといって、赤ちゃんが消えるわけじゃない。
つわりもあるし、朝起きたら胸がパンパンに張ってる。それなのに、前日までどれだけ安静にしてても止まらなかった出血はなぜか減ってきて、数日で止まった。
自然排出の経験談を必死にネットで探すものの、その気配もなく一日また一日と過ぎていくと、奇跡的に助かったという記事をさがしてしまう。
そのうちに「万が一」の期待が心を乗っ取って、食事も動きも奇跡に備えてしまってた。
でも、もう腹痛も恥骨痛もおちついて本当に生きてると思い込み始めた頃に自然排出はやってきた。
お腹が痛いし気持ちも悪い。体勢を変えてみたらめちゃくちゃ腰も痛いじゃん。生理痛なんてお話にならない。そのうちに寝てることさえままならなくなって、それならいっそ…とトイレに座り、何枚もタオルを体に巻きつけて降りてくるのを待った。
怖くてたまらなかった自然排出。でもここまで来たのだから、母としてしっかりやり遂げたいという気持ちになってきた。生かしてやれなかったけど、せめて最後は二人で終わらせようね、と。
激痛に耐えること30分くらいか…冷や汗がダラダラでて全身に鳥肌が立ってる。もう意識も朦朧としてきた時、ギューッとお腹と尾てい骨をひねり上げるような強い痛みと同時にぬ〜っと何かが降りてくる。
「あぁああぁぁあーーーーー!!!」
大声とともに大きな塊がドサッと出た。
足がしびれが切れるのと同じようにスーッと目に見えて痛みが引いていく。
大きな塊は丸くてグロテスクで、中に白っぽい小さな恐竜みたいな子がいた。
このタイミングで旦那が帰ってきて、見せてというので紙に包んだそれを見せたら、ウッと一瞬顔をしかめた。そうだよ、それが普通の反応なんだよ。ドロドロの血の塊だもん。でも、私には可愛くて愛おしかった。可愛くて可愛くて、申し訳なかった。弱い母さんでごめん。
一段落ついて、時計を見たら5時間近くたってた。旦那がずっと我慢してたお寿司とビールを買ってきてくれたけど(なんで私食べてんの?なんの意味がある?)と思えてきて半分以上残した。
もう泣くのはやめようと思ったのに、ぼーっとしてると大粒の涙で目は飽和状態。無気力で食は細くなるし、1週間ほどボサーっと寝て過ごした。
この間になんと旦那はコロナになって、復活した。
色々あって部屋から出たのは約4週間後。
二人分の命を意識しながらウキウキで歩いてた穴ボコだらけの通勤ルートは舗装が済んで平になってた。
Tシャツで歩いてた人たちがセーターやダウンを着てるし、ポンヌフの露天商もミネラルウォーターをやめて焼き栗を売ってる。
私の人生で一番辛いことが起きてても、ただただ無気力に寝ていても、外の世界は関係なくどんどん進んでいくんだなぁ…と、当たり前だけどしみじみ思った。私が幸せでも、どん底でも、誰にも関係ない。
そんなときにクリッシー・テイゲンの死産のニュースを知った。たしか、私がはじめて出血した頃に妊娠を発表していたような…そうか…ダメだったの…つらいよね。
亡くなった赤ちゃんをパートナーと抱えている姿を見て、ひとしきり泣いたら気持ちがスッと軽くなった。私だけじゃない。同じ悲しみを抱えた人たちがたくさんいる。お構いなしにどんどん変わっていく世の中でも、どこかで同じ苦しみを味わいながら一生懸命乗り越えようとしてる母親がいる。だから私も頑張ろう。すんなりそう思えた。
クリッシー・テイゲンは「そんなことまで晒すの?」「おおっぴらに話すことじゃない」などなど散々叩かれてしまったけれど、私は彼女に救われたよ。というか、そもそもよ、文句言ってるのアンタ誰よ?外野がとやかく言うことじゃない。この話題は本当に話すのが辛くて、周りが知れば知るほどこちらは説明の負担が増える。話せばどうしても悲しみが思い出されて辛くなる。それでもシェアしてくれた勇気はすごいし、この子達が存在したという事実を記録として残せて良かったねと思う。お互い、心も体も早く回復しますように。いつか赤ちゃんが帰ってこられるようにがんばろうね。
ここまで書いて、公開しないまま2年が経っていました。この自然排出から数ヶ月後、再び妊娠と稽留流産を経験しています。そこから夫婦関係が悪化し、夫から「子供を持つことを諦めてほしい」と言われ、自暴自棄になったときもありましたが、なんとか乗り越えて現在妊娠13週に至ります。ここまでの道のりは人生で一番辛かったけど、大切なのは夫婦2人が幸せであるために努力をすることだと学びました。
いつかこの闇の2年の話も書けたらなと思っています。
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