就活生が志望業界・志望企業を絞り込むときに、意識してほしいこと
1dayインターンシップのプログラムづくりを通して、就活中の学生の方々が「意識しておくといいかも」と思ったことを書き留めます。
はじめに
私は、グループ全体で従業員5000名くらいのメーカーに勤めています。会社としての主事業はオフィス家具などの製造・販売ですが、コーポレートメッセージとして掲げている『人を想い、場を創る。』に象徴されるように、近年はプロダクトとしての家具だけでなく、空間づくりや働き方の提案などを通して、人々が幸せになれるような「はたらく」を創る、という価値を社会に提供しています。
私自身の本業は、マーケティング、営業戦略企画、社内の働き方改革の推進などで、HR領域のプロではありませんが、入社以来14年間に渡り、営業職・営業支援職・研究職・マーケティング職と4つの職種を経験しながら、一貫して「はたらくを創る」ことに携わってきました。
昨年から、営業・企画職向けの1dayインターンシップの企画・運営と、モデレータ的な講師役を務める機会があり、このインターンのプログラムづくりを通して、また、学生の方からの相談をたくさん受ける中で、「こういう考え方をもって就活をしてほしいな」と強く思ったことが 3 つありますので、書き留めておきます。
就活中の方、これから就活を始める方にとって、少しでも参考になれば幸いです。
【1】 作り手になると、ものの見方は大きく変わる
社会人になって色々な仕事を経験する中で、世の中で見聞きしたり体験したりできることの多くは、作り手としてそれをつくる側になると、大きく見方が変わることがある、ということを度々実感しました。
利用者の立場では良いと思っていたものが、作り手となってみると案外そうでもないと感じたり、逆に、良さを感じることができなかったものが、作り手の視点で見直すと素晴らしいものだと気づくこともあります。
また、「○○が好き」という自分の好みも、色々な経験を積み、年を重ねるとともに変化することもあります。5年後、10年後の自分が、何に興味を持ち、何が好きになっているかは、他の人はもちろん、自分自身ですら分かりません。
「私は○○が好きだから、この業界を志望するんだ」という想いをもって業界や会社を選ぶことは決して悪いことではありませんが、「○○が好き」という気持ち自体が、作り手になると変わる可能性がある、ということは頭の片隅に置いておくべきだと思います。
もちろん、好きだったものをつくる側になって、より一層好きになれたら、それは非常に幸せなことですが、組織に所属して働く上で「仕事が楽しい!」と思えるかどうかには、「○○が好き」以外にも、社風や文化、人間関係、働き方、給与、制度、福利厚生など、様々な要素が影響してきます。
「○○が好き」という想いにこだわりすぎず、少し視野を広げて、「自分はなぜ○○が好きになったんだろう?」、「○○が好き、という自分の嗜好性は、もう少し広く解釈すると、どんなことに興味を持っていると考えられるんだろう?」と、自分を見つめてみると、自分に合う業界・企業に巡り合える可能性は高くなると思います。
【2】 その会社が世の中に提供する価値を見定める
就活を通して色々な企業をみていく中で、「ある企業が提供する製品・サービスに惹かれるかどうか」ではなく、「ある企業が世の中に対して提供する価値に惹かれるかどうか」が大事です。
まだ就業経験のない学生の方々は、世の中にはどんな業界があるのか、どんな企業があるのか、どんな職種・仕事があるのかを、ほとんど知らない状態で就活をスタートすることになります。
そのため、就活のはじめの一歩として、自分が好きなもの、自分にとって興味のあるもの、見聞きしたり利用したことのある製品やサービスを思い浮かべ、それらをつくっている企業をみていく、という人も多いようです。
ここには一つ落とし穴があって、ある企業がつくっている製品や提供するサービスなどの「商品」に惹かれることと、その企業が事業を通じて世の中に提供する「価値」(=何をもって社会に貢献しようとしているか)に惹かれることとは、必ずしも一致するわけではなく、全く異なる場合もあります。
ひとつひとつの「商品」は、それらをつくる会社が世の中に提供しようとしている「価値」を、部分的に具現化したものとも言えますが、「価値」そのものではありません。私の会社の商品でいえば、「快適な座り心地のチェア」の本質的な価値は、「座っていて快適なこと」ではなく、「そのチェアを使う人の仕事が捗ること」にあります。
「自分が知っている製品やサービスに惹かれた」というのを、ある企業に興味を持つキッカケにするのは構わないのですが、本気でその企業を志望するかどうか、最終的に就職するかどうかを決めるにあたっては、「その企業が、商品や事業を通じて世の中に提供しようとしている価値は何か」をちゃんと見定めることが大切です。
ある企業が創り出す価値が何なのかを理解しないまま、製品やサービスだけをみて就職先を選ぶのは、相手の性格を知らずに外見や印象だけで判断して恋人をつくるようなものだと思います。
いま、この時代に、ある企業から販売されている製品・サービスの表面的なところだけを見て、業界選びや企業選びをしてしまわないようにしましょう。
【3】 "生きる" の中に、"はたらく" を描く
就活中の学生の方から質問や相談を受けると、「どうして今の業界を選んだんですか?」「今の会社を選んだ決め手は何ですか?」「職種はどうやって選んだんですか?」といったことを必ずといっていいほど聞かれます。
そういったやり取りをしていて、多くの学生の方は、"シューカツ" を「世の中に数多ある仕事の中から、業界・企業・職種の3つのフィルターをかけて、自分の仕事を決めること」と捉えているような気がしてなりません。
そこで、「将来、どんな風に暮らしたい?」「どんな生き方が理想?」「将来の夢や、やってみたいことはなに?」という感じの質問を投げかけると、業界・企業・職種の3つのフィルター以外に、その人にとって譲れない条件がいくつも出てくることがあります。
例えば、海外で生活したい、海の近くに住みたい、小説を書きたい、NPOを立ち上げて二足の草鞋を履いて仕事がしたい、地元のコミュニティを大切にしたい、カフェを開きたい、などなど。
そういった、"生きる" ことを豊かにし、仕事のモチベーションを高めることにも繋がるような「こんな風に暮らしたい!」という想いがあるにも関わらず、就活の業界選び・企業選び・職種選びの段になると、そういった想いが途端に影を潜めてしまう人が多いように見受けられます。
就職先を選ぶ上で、こういった「仕事と直接的には結びつかないものの、その人にとって譲れないこと・大切にすべきこと」が実現できる環境かどうかは、業界や企業の規模や職種などと同じくらい(あるいはそれ以上に)重視すべきポイントだと思っています。
"はたらく" は人生の全てではありませんし、同時に、人生の中で "はたらく" だけを切り分けて捉えるべきでもありません。"はたらく" は "生きる" の中にあって、どんな風に "はたらく" を描くかは、人それぞれです。
"生きる" の中に "はたらく" を描くことは、「どんな風に暮らしたいか」を考えること。仕事だけではなく、"生きる" を形づくる他の要素を大切にすることが、仕事を楽しむことに繋がり、ひいては自分の人生そのものを楽しめるようにもなる、というのが、社会人を14年続けてきて思うことです。
おわりに
「どの会社に就職しようか」と悩むことができるのは「内定が複数出た場合」に限られるので、必ずしもすべての就活生に共通することではありません。
しかし、どれだけたくさん選考を受けようと思っても、何万社も選考を受けることは時間的に不可能で、応募できる企業の数には限度があります。
一方で、「どの会社の選考を受けるか」「どの業界を志望するか」という入り口の段階では、平等に機会が与えられているといえるでしょう。
「なんとなく知っているから」「人気が高そうだから」「両親にすすめられたから」といった理由だけで、業界を絞り込んだり、選考を受ける企業を限定したりしないようにしてほしいものです。
世の中には、皆さんが知らない仕事がたくさんあります。知らない企業・知らない業界も、たくさんあります。どういう仕事が、どの会社が、どの業界が、自分に合っていて、楽しく "はたらく" ことができるのか、という答えは、皆さん自身にしか見出すことはできません。
自分の "生きる" は、自分だけのものです。"はたらく" を、自分の人生にとって価値のあるものにできるよう、自分で考え、自分で納得し、自分が満足できる就活をして、ステキな社会人になってほしいと強く思います。