総括するとスタバのお兄さんがイケメンだったというはなし
連日の猛暑の中、如何お過ごしでしょうか。溶けるような暑さというか、もはや溶けて消えてなくなってしまいたい来世はペンギンになりたい、などと軽度のメンヘラ気分にさえなってしまう、そんな暑さに私もまいっている最中でございまする。
というわけで本日は、少しでも涼しさを感じていただければいいなという気持ちで、ひとつお話したいと思います。
◇◇
「ドライブ中に喉も渇くし、スタバで飲み物買っとくかあ」
そんな一言から、友人と一緒にスタバの長蛇の列に並んでいたところからおはなしは始まります。
「サイズもトールサイズにしようかな。ショートじゃ足りぬ」
「暑いしね」
カップのサイズを確認しながら、そういえば、私がアメリカに留学してたとき、毎日スタバに通って毎日飽きもせずグランデサイズのキャラメルマキアート買って飲んでたわ〜〜ってことをふと思い出しました。「グランデ!?よく毎日飲んでたね」と苦笑する友人。
「さすがにあれじゃ太るわ。実際5キロ太ったしね。ブヒ」
みたいな、豚さながらの会話を繰り広げているうちに、レジ前に辿り着き注文の順番が回って来ました。
サクッと注文を済ませ、店員さんが用意してくれるのを待ちます。その待ち時間のあいだじゅう、友人と饒舌に軽快にお喋りを展開しながらも、店員のお兄さんイケメンだなあ爽やかだなあ大学生かなあときちんとチェックしている私は素直に器用だと思う。
そんな私に、“それ”は突如として降り注がれました。
「留学って、どのくらいの期間行ってたんですか?」
突然。
突然イケメン店員さんが声を掛けてきたのです。予期せぬ事態に、思わず硬直する私。
このお客さんの数からしても相当に忙しい時間の筈なのに、まさか私たち愚民の会話に耳を傾けているとは1ミクロンも思わないじゃないですか。ましてや声を掛けてくれるなんて。
「あ、留学って言ってもほんとたいしたことなくて、半年とかそんなもんで……」
「じゅうぶん凄いじゃないですか!どこ行ってたんですか?」
「えっとアメリカのほうに……」
「アメリカ!いいですねえ」
「あ、めちゃよかったでsしす」
緊張のあまり驚くほど面白いこと言えない上に噛む。
「海外に興味があるんですか?」「大学生ですか?専攻は?」とか、いくらでも話を広げられたはずなのに、なんも言えない。仮にも関西に四年間居住していた人間が、こんなにも会話のキャッチボールが出来ないなんて現実が、あってよいのか。
結局、お兄さんの質問にイエスかノーで答えることしかできませんでした。マジ嘲笑。
「お待たせしました!」
と最後に飛び切りの爽やかスマイルで商品を手渡して貰って、もちろんそれ以上はなにもないまま、我々はスターバックスを後にしました。
「まさか声掛けられるとはな(笑)」
「いやほんまなんなん……まず話聞かれてると思わんやん……私ブヒブヒしか言ってなかったよな……?もっと可愛い話しとけばよかった……わたあめの話とか…」
お兄さんのキラキラオーラの余韻に浸りながら、暫く呆然としていると、
「カップに連絡先とか書いてくれてたりして(笑)」
もちろん冗談ですが、友人がそんなことを言うから。
「っっっっsそれやああああああ!!!!!!」
血眼になってテイクアウトしたカップを凝視。
すると、
っな、
なんということでしょう……!
連絡先ではないものの、カップには『MJ』という文字が、黒いマジックでハッキリと刻まれているじゃあありませんか。
「こ、これは……、お兄さんのイニシャル!?!」
「やべえマジだwww」
「マツモト・ジュン!!?」
こういう口説き方ってほんとうにあるんだ。スマートでカッコイイ。やっぱりイケメンってやることが違う。イケメンがイケメンと呼ばれる所以はなにも顔面だけじゃない。総じてイケメンなのだ。『イケてる面(めん)』でイケメンなのではなく『イケてるメンズ』の略がイケメンなのだ。
興奮冷めやらぬままストローを口に含み、私は待ち望んでいた水分を吸い上げた。喉の奥でフルーティな夏のテイストを感じながら、脳内でなにかが弾ける音を確かに耳にした。
『MJ』がお兄さんのイニシャルではなく私の注文した『マンゴー・ジュース』のことだったと気付いたのは、一通り盛り上がってから3秒後のおはなし。ご馳走様でした。