2023年Jリーグ第1節 vsコンサドーレ札幌 で起こった誤審について
先日のJリーグ開幕戦の74分に、サンフレッチェ広島のMF川村拓夢がヘディングで押し込んだシュートを札幌のGK菅野孝憲が防いだシーン。現場の判定はノーゴールでVARチェックが入ったものの、VARもその判定をフォローしたためゴールが認められませんでした。
しかし、DAZNの映像ではゴールラインとボールの間にハッキリと緑色が見えており、視聴者的には明らかにゴールではないかと話題になりました。
まさかVARが導入された現代においてゴールorノットゴールの微妙な案件が我が身に降りかかるとは思いませんでしたね。今回は、審判委員会の緊急ブリーフィングが開かれるなど大事になったので、どういう事象・経緯でこうなったのかを整理して将来のためにまとめておこうと思います。
①当該事象に関するオフィシャルの見解
試合から4日後の2月22日(水)に審判委員会の扇谷委員長が緊急ブリーフィングを開き、今回の事象が誤審であったことを認め、広島・札幌双方に謝罪をしたことを明らかにしました。会見でどのような話をしたかは紫熊倶楽部の書き起こしが一番詳しそうです。
扇谷委員長の説明を端的にまとめると次の通り。
川村のシュートはボールが完全にゴールラインを越えているためゴール
ミスの原因は機材ではなくVARの技術・判断によるもの
競技規則の適用ミスではないため試合結果は確定(再試合なし)
1と2については③で後述するので割愛するとして、3の「競技規則の適用ミス」とは「サッカー競技規則に従っていない」ことを指します。事象を正しく認識しているが、適用するルールを間違えたようなケースですね。
この「競技規則の適用ミス」は日本でも近年2回発生しています。1つは2018年の第98回天皇杯・名古屋グランパスvs奈良クラブの一戦で、PKの取扱いを間違えてしまったもの。PK戦から再試合となりました。
次に起こったのは記憶に新しい2022年のJ2リーグ第8節・モンテディオ山形vsファジアーノ岡山で、PA内でバックパスを捕球したGKに対してレッドカードが提示されたことが誤った判定だったというもの。こちらも4ヵ月後に当該シーンから試合を再開する運びとなりました。
翻って本件では、「ボールがゴールラインを完全に越えていない」と誤った認識をして、「ボールがゴールラインを完全に越えていないのであればノーゴール」という正しいルールを適用しているので、「競技規則の適用ミス」ではなく「判定ミス」となります。すなわち再試合はありません。
この試合は上記スタッツの通り広島が試合の9割以上圧倒する内容でした。当該シーン以外でもGK菅野とポストがすごかったからこその結果だったので、仮にゴールが認められていれば広島が勝利していた可能性は高いはず。
そう考えるとなかなか受け入れがたい結論ではありますが、サッカーはこういうものなんだなという風に整理して次に進むしかないです。
②勘違いされがちなことの確認
本件について明らかな誤解がいくつか見受けられたので先に整理します。
紫熊倶楽部をはじめとして「なぜオンフィールドレビュー(主審が実際に映像で確認すること)をしなかったのか」という意見が多かったのですが、本件はOFRの対象とはならないものです。
また、際どいシーンであるにもかかわらず判断の時間が短すぎるのではないかという指摘ですが、上記の通り、90秒を要しているので特別短いものではなかったとのこと。我々は試合を止めてからの時間で見ていますが、VARは当該シーンから確認を開始しているので肌感覚が違うんでしょうね。
そして主審と副審は何をやっていたんだという話ですが、映像を見れば分かるようにCKからのシーンなので主審はPA内全体が見れる位置にポジショニングしています。副審は当然オフサイドラインを確認する位置にいますし、今回のような際どい判断ができるはずがありません。
大前提として、今回の事象が問題となったのは「VARが導入されているのに防げなかった」からで、VARがなければそもそも問題になりようがないシーンです。だってそんなん無理やん。
なので、ピッチ上の審判団を批判するのは筋違いです。気をつけましょう。
③なぜ誤審が起きたのか
話を戻して誤審が起きた理由を扇谷委員長は次のように説明しています。
このように、VARは従来の指導通り静止画をズームしたところ判別が難しくなってしまい、主審のフォローをしてしまったそうです。しかし、今回のようなケースではループ映像を用いるなど工夫すれば防げた案件であると。
したがって人為的なミスであるというのが審判委員会の結論でした。
上記のようにJリーグジャッジリプレイで家本氏が指摘していた機材スペックの問題に関しては、次のように説明しています。
もちろんカメラスペックが良ければ今回の事案は生じなかった可能性はありますが、そうでなくてもVARの技術・判断で防げた事象ということですね。
④今後の改善案は
今回のような事象を二度と起こさないために考えられる方法はいくつかあります。その1つがGLT(ゴールラインテクノロジー)です。
カタールワールドカップで「三笘の1mm」と話題になりましたが、このシステムを導入すれば基本的に問題は解決されるでしょう(そうはいってもGLTの誤判定で問題となったケースもあったりしますが)。
しかし、GLT導入には高い壁があります。
特に課題となるのが導入可能なスタジアムと不可能なスタジアムがあること。これはJリーグ全体が良いスタジアムを作っていく必要があるわけで、一朝一夕に解決できる問題ではないでしょう。
今回の事案はヒューマン・エラーであると審判委員会は結論づけており、VARとAVARには改めてトレーニングが課されます。
一方で、ゴールライン上のカメラだけでもアップデートするのは「ありな方策」なんじゃないかとは思います。コストをどこにかけるかという議論になりますが、ヒューマン・エラーは絶対に起こることなので、できる限りシステムや運用で解決して欲しいですね。
⑤まとめ
というわけで今回の事象はVARの技術・判断によって生じたもので、その結果は覆されることはないが、今後トレーニングによってVARの質向上を図っていくということで落ち着きました。
この判断に対してサンフレッチェ広島が声明を発表しました。スピーディ且つ対外的に求められてるお手本のようなコメントだったので素晴らしい。
ここでも指摘されているように審判団への過度な誹謗中傷は止めましょう。1試合は選手にとってもサポーターにとってもメチャクチャ重いものですが、同時にサッカーを見続けていればどこかで起こるものです。
広島も過去10年で今回を含めて少なくとも3回はありました。
ただ、こういうのは被害側しか覚えていないので、ちゃんと得したパターンもありました。最終的には収束するんでしょう。きっと。
また、札幌のGK菅野は試合後「自分自身では(ノーゴールの)確信があったので、落ち着いて待っていた」と話していますが、GKの角度からゴールorノットゴールなんて判断できるわけもありません。そう思い込むのは仕方がないことだし(むしろ自信を持って言えるあたりがその偉大なキャリアに繋がってると思う)、審判委員会の会見後のコメントを見る限りちょっと良くない反応が多かったんじゃないかと少し心配になります。やめようね。
酒のつまみが新しく1個できたと受け止めつつ、とにかく今回のことがあったから悔しい思いをしたとならないように、頑張って応援しましょう。
ただし、菅野の1mmって茶化したJリーグ公式。てめーはダメだ。
サポートして頂いた金額は、広島のスタジアム建設募金に全額寄付する予定です。