異境備忘録的なあれの話 ⑤ 「山頂の神社」
今でも年に一、二度ほど訪う場所がある。おそらくは夢のなかでの事なのだろうが、記憶があまりにもはっきりしているからか、実際に通っていた場所であるようにさえ思える。
電車を降りて駅を出る。電車とはいえ、せいぜい三車両ほどしかないものだ。電車というよりは汽車といったほうがしっくりくるかもしれない。
当然のように無人駅となっている小さな駅舎を後にして、整備されてはいるが車通りの無い高架下を道なりに歩く。すると道沿いに続く森が姿を見せてきて、さらに誘い込まれるようにその中に足を踏み入れる。
森の中に入りしばらく歩くと登山道に出る。登山道とは言っても、さほどキツくもないものだ。ときどきは山の勾配を利用してつくった階段を上ったりしつつ行くと、やがて山の頂に細く道があらわれる。その向こうには大きめな神社があるが、基本的には霧がかり全容を隠しているようでもある。
神社のなかには女神がいる。気難しい性格のように思える。特別に親しいわけでもないが、相互に顔は見知っているといった関係性だ。社殿の外、御簾の前で挨拶をした後には鳥居から続く石段をおりて温泉街へ。温泉街とはいえ、流行り賑わっているわけではない。どちらかといえばのんびりとした風情のある場所だ。
温泉街を過ぎて再び駅へ向かう。そうして電車に乗って戻ってくるのだ。
余談ではあるが、わたしがあちら側から戻る際によく使うのはなぜか電車であることが多い。普通にJRの駅のように思えるが、行先などが書かれた文字はいまひとつ記憶していない。なお、普通にSuicaなどを使ったりする。