ラヴィ・ダヴィ コード進行の件
先日のnoteでOCHA NORMAのアルバム曲「ラヴィ・ダヴィ」の魅力についてご紹介しました。例の怪文書中ではこの曲の攻めた構成やコード進行について熱弁しつつも、あまり作曲技術の詳細を深掘れていませんでした。
この度コード進行の分析を行い、コード譜の初版をChordWikiに投稿させていただきました。カバーやアレンジ、作曲理論の研究等にぜひ参考にしていただければと思います。
https://ja.chordwiki.org/wiki/ラヴィ・ダヴィ
今回は「ラヴィ・ダヴィ」で使われているコード進行がどんなものか?どこが好きか?を解説したいと思います。
注意事項
前述の通りジャズの教養がないため、ジャズ畑の方にとっては当たり前のことをさも目新しいかのように説明している箇所があると思いますが、お許しください。
ボイシングや転回形は分析していません。また、聞き取れてない音があって分数コードになっているところもあるかもしれませんのでご了承ください。
本楽曲はマイナーキーですが、数字を使ったコード表記はわかりやすさのため、その平行調のメジャーキーを基に数字を振っています。その方が(少なくともJ-POP畑の私は)和音の機能がわかりやすいためです。
ダイアトニックコード一覧↓
イントロ ・・・ 掟破りの高揚感
いともたやすくファンキー・ソウルフルになる魔法のコード III7(#9)
曲の開始早々鳴らされる、トランペットが煌びやなキメがB7(#9)です。このキメは曲全体を通して何回も繰り返される、この曲の顔と言ってもいいフレーズです。
数字表記で言うとIII7(#9)ですが、III7はマイナーキーのダイアトニックコードでお馴染みのドミナント7thで、メジャーコードなので長3度のv#が含まれます。
一方でオルタードテンション#9thは短3度vのオクターブ上の音です。結果、メジャーコードを特徴づける”泣き”のv#と、マイナーコードを特徴づけるクールなvを併せ持つ響きとなります。
この和音はソウルをルーツに持つ曲でよく使われているようで、有名どころだと泰葉 - フライディ・チャイナタウンのサビでIII7(#9)→III7(b9)の連結で使われています。ハロプロのファンク曲でも多用されてそうですね。
昨年Xでバズった「ひき肉ですのコード進行」でも重要な役割を果たしてします。
余談ですが、III7(b9)もとても好きな響きでついつい使ってしまいます。#9とb9、もっとオシャレに着こなしていきたいですね。
御法度の平行移動を、あえてやる
チキアーンの後に続く3小節はオーソドックスな4→5→6です。
その次に続くのがF/G→G/A→A/Bです。最初のF/GはルートのGからみて7th, 9th, 11thを重ねたコードで、ちょっとオシャレなJ-POPによくあるIIm7/Vと構成音がほぼ同じなのもあり爽やかな響きです。
そこから音間のギャップはそのままに全音ずつG/A→A/Bと上昇していきます。本曲では和音が平行移動で上がり下がりするフレーズがよく登場しますが、コンベンショナルな作曲理論では御法度とされる動き方です。ただしこの曲ではあえてドラスティックな高揚をみせるために掟破りがされているのだと推測します。
最後から3小節目は後で解説するので、いまは呪文だと思っておいてください。この曲をトリッキーたらしめている、肝となるフレーズです。
その後はオーソドックスな2→3の後、冒頭のキメIII7(#9)が繰り返されます。いわゆる「やってんな」のキメです。
Aメロ ・・・ "無言の熱さ"
シンプルなコードをリズミカルに連結
印象的な歌詞、無言の熱さだとか〜で歌い出されるAメロの進行はとてもシンプルです。最後の2拍以外はダイアトニックコードのトライアドと、IIm7とIIIm7の間を繋ぐII#m7だけで成り立っています(これも平行移動ですね)。
最後の2拍はVの3度viiをルートにしたV/VI、IIIm7-5/VI#はうまく説明できませんが、ルートがF#→Fと動いて上の声部が合わせた結果生まれたコードだと思われます。
Bメロ ・・・ 浮遊感からの落ちていく快感
転調からのふわふわ分数コードラッシュ
Bメロはこの曲で最も難解なセクションで、調性が安定しない感じで浮遊感があり、単純なAメロ→難解なBメロ→単純なサビと繋ぐことでサビのキャッチーさを引き立てています。
まず、Key: G minorに転調します。
最初のF/Gはイントロで既出です。ルートがVIの音なのでここではトニック扱いですかね。そこから平行移動で全音下ってD#/Fとなります。
次のFm7/A#はルートA#に対して5th, 7th, 9th, 11thです。A#はIなのでダイアトニックコードではIM7でメジャー7thなのですが、ここでは7thがフラットしてます。これはBb minorからの借用和音(モーダルインターチェンジ)と思われます。
次はJ-POPにまれによくあるI/IVです。サブドミナントですね。
最もトリッキーな1小節は、ジャズらしいアプローチ?
ここで、イントロにも登場したこの曲で最もトリッキーな1小節「ぜんぶ〜ぜんぶ〜」が来ます。上の声部が下がっていくので、浮遊してたところから落ちていくような気持ちよさがあります。乗ってるメロディも音を取るのがだいぶ難しそうですが最新のOCHA NORMAはしっかり歌いこなしてます。
コード進行は一見して何のことかさっぱりわからず、ここの解釈が一番悩みましたが私の結論はこうです。
①最初の2拍はサブドミナントのIVM7(9)、後の2拍はBb minorからの借用和音であるIm7(9, 11)
②上記の構成音の中で、劇的な1小節を演出するためにルートがA#→D#→G#→C#とツーファイブで連結するように選び、あとは各声部がうまく繋がるようにトライアドを選択した結果、上記分数コードの4連続になった
上記の解釈が合っているとしたら、あらかじめコードが提示されていて、テンション含めその中でどの音を鳴らしてもよいというアプローチはまさにジャズ的な気がします。
その後はKey: E minorに戻ってイントロと同じ進行でサビに突入します。
サビ ・・・ オシャレだけど安心感
ドラマチックなメロディを、あるある進行で下支え
テンションが乗ってる以外は概ね典型的なコード進行です。一般論としてサビのオケは攻めない方がバランスが取れていいのですがこの曲もしっかり従っています。
ここだけ聴けばハロプロでよく聴く雰囲気で、ハロドリ。やハロ!ステの任意のグループのライブ映像が目に浮かぶようです。
最初の4小節は2→2/5→1→6ですが、ホーンの半音下降に伴い途中で挟まるD#/G#がいい味出してます。
次の2→3はIIIがaugな上に#9thまで乗っかってソウルつゆだく一丁といった感じです。でも派手じゃないですよね。IIIをaugにするテクは最近自力で発見して、最近作った曲で使いまくってます。
後半は2→2/5→3→6でみんな大好き4536の亜種ですね。余談ですがサビが2で始まる曲は少し珍しく、私はaiko - アンドロメダが一番好きです。
例のキメを挟んで、2番に突入します。
2番サビまでは1番と同じです。
2番サビ後の間奏
C/DはF/Gとかと一緒ですね。G#m7/C#は C#m7(9,11)omit3という解釈でいいと思います。
間奏の後半はAm7/Dの後に平行移動で上がったり下がったりしてる動きとなります。
Cメロ ・・・ 懐メロ感
みんな大好きIV#m7-5
筒井澪心さんの素晴らしいソロの後ろで鳴っているのは、アニソンでよく聞く進行です。特にIV#m7-5はみんな大好きです。全人類好きなんじゃないでしょうか? 4n+1小節目に挟むと切ない響きがするやつです。
最近のハロプロでは BEYOOOOONDS - 求めよ…運命の旅人算 のサビ5小節目で使われていますし、ClariS - コネクトのイントロ5小節目、雀が原中学卓球部 - 灼熱スイッチのサビ後半頭が有名かと思います。ちょうちょ - Authentic Symphonyという名曲もあります。
急に転調が来たので(QTK)
田代すみれさんのソロ「Darling, don't stop〜」の頭から、3小節間だけC# minorに転調してます。この部分だけ、リズムも相まって80年代のシティ・ポップや90年代の小室哲哉の香りがプンプンしてます。
この前Xで、サウナに入りながら田代さんのソロだけをループして聴いているという猛者をみかけましたが、その方にとってはこの曲はKey: C# minorなわけです。
3小節後、西﨑美空さんのソロの途中でKey: E minorに戻ります。何だったんだ…
大サビ
基本的にサビとコード進行は一緒ですが、「覚悟しても〜」の部分が挟まっています。ここは先ほども登場したIV#m7-5を挟んで、すごくシンプルなトライアドが続きます。盛り上がるところだからあえてシンプルなコードにしたのでしょう。
アウトロ
最後のコードはEm7(9)omit5です。テンションをたくさん重ねたときは5度を抜くと濁りが抑えられていい感じになります。
おわりに
以上です。
皆さんも以上のうんちくを踏まえて、またラヴィ・ダヴィを聴いて違った味を発見していただければと思います。
これからもラヴィ・ダヴィとOCHA NORMAを盛り上げていきましょう!!
【追伸】
星部ショウさん。お忙しい中とは存じますが、ハッケン!音楽塾での本人解説、心からお待ちしております!!