北朝鮮の謎多き試作セダン 白頭山
白頭山の名前を冠する車というと以前取り上げたメルセデス・ベンツW201のコピーがあるが、実はもう一つ別の白頭山という車が存在する。日本では恐らく殆ど知られていない一台である。
https://note.com/chosunautomobile/n/n24aba74f6503
この白頭山が最初に目撃されたと思われるのは、1979年にアメリカ人ジャーナリストのブラッドリー・K・マーティンという人物が訪朝した際のこと。彼は平壌の社会主義建設成果展で手造りのセダンを見たといい、ガイドからはもうすぐ量産がされるというアナウンスがあったそうだ。これは彼の著書「Under the Loving Care of the Fatherly Leader: North Korea and the Kim Dynasty」で触れられている。なお、写真を撮影したが紛失したのか見つからずどんな車かもあまりはっきり記憶していないようだ。彼はその後再び訪朝したがその車は消えており、代わりに二台のメルセデス・ベンツのコピー(前回取り上げたコピー)が展示されていた。実際の目撃情報はこれが恐らく最初と思われるが、この前年の「朝鮮画報」1978年3月号には緑色の白頭山の写真があり、既にこの時点で存在していたようだ。
彼が目撃した車について、ソ連のGAZ M20ポピェータのコピーではないかとも推測されているが、もしかしたら別のセダン、つまり白頭山を指しているのかもしれないが今となっては確認のしようがない。
だが2018年、映画やアニメ等に登場する自動車に関するデータベースサイト「IMCDB」で白頭山では?と注目されたのが、北朝鮮で放送された映画「열네번째 겨울」(1980)と「우리가 사는 거리」(1982)に登場した謎のセダンだ。このセダンにはハングルの「백두산」(白頭山)と思われるエンブレムが付いていた。このことから、白頭山と見られるセダンは少なくとも二本の作品に出演していること白頭山が登場する二本の作品は幸いにもYoutubeに二本ともアップロードされている。二本を比較すると気づくのが、1980年の「열네번째 겨울」の白頭山はドアミラーが黒なのに対して1982年の「우리가 사는 거리」では無塗装かメッキなのか、シルバーになっている。また後者の方が登場シーンは多いが、古い映画のため細部や車体後方は見えにくい。
気になるのが、量産されてない筈の白頭山が何故二本の映画に当然のように登場しているのか。二台存在したのか、細部を変えただけで一台のみなのか、実際にはもう少し生産されたのか……いずれにせよ、あまりに情報が無さすぎて推測というか妄想しか出来ないのが歯痒いところだ。なお、白頭山は生産後に現在の三大革命展示館の前身である中央工業農業展覧会にて展示された。
2021/1/25追記
この白頭山の正体についてフィアット125Pではないかという指摘があった。フィアット125PはポーランドのFSOがフィアットと契約して生産したフィアット125の派生型である。確かに外観や内装は似ているため可能性はある。あるいは原型のフィアット125かもしれないが、やはりベースを特定しこれだとはっきり断定するのは困難。外観に多少手を加えたためベースが分からなくなっているようにも思える。いずれにせよ、情報が非常に少ないこともあり何もかも謎のままであることは確実だと思われる。
2021/6/22追記
白頭山が登場する作品が新たに確認された。「네거리초병」という映画にて、ほんの一瞬カメラ前を横切っている。一瞬とはいえ形状やブルー系の塗装が一致しており白頭山の可能性が高い(下に添付した動画の37分34秒付近)。
2022/6/6追記
1979年の「우리 옆집 문제」と1980年の「우리 아래집 문제」の二本の映画にて、白頭山の登場を新たに確認した。
2023/3/6追記
海外アカウントが「시련의 해」という作品で白頭山を確認した。冒頭に僅かに登場する。
参考文献
白頭山が登場する映画
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