北朝鮮の新しい自動車工場・自動車合弁会社
北朝鮮は古い歴史がある勝利自動車工場やかつて韓国と合弁で設立した平和自動車を除けば、バス工場などが細々とある程度で目立ったものはなかった。
しかし現在、北朝鮮は中国との合弁会社や新たな自動車工場創立の流れが強まっている。この動きは2010年代に入ってから急速に見られ始めた。ここではそれらの合弁会社に簡単ではあるが触れていく。
・チョンプン (清風) 合弁会社
2012年の第13回平壌春季交易会に参加しており、少なくともその頃から活動していると思われるが情報は皆無だった。しかし、北朝鮮が発行する貿易誌「Foreign Trade of the DPRK」の2017年No.4にて掲載され、2018年に対外宣伝サイト「わが民族同士」においても、『新型の自動車「ネナラ」号』と題して記事がアップされた。この記事では社名は伏せられ簡易なスペックが書かれているのみ。ネナラ(내나라)とは「我が国」を意味し、記事によれば、
とあるが、豪華装備は一部の上級モデルのみという指摘もある。車種はいずれも中国のFAW(中国第一汽車集団)及びFAW傘下のブランドの自動車で、上の画像のラインナップでは、
SUV…Senia R7(中央)、左下から順にクロスオーバーMPV…Senya S80、セダン…天津一汽夏利汽車 Vita V5、バン及び救急車タイプ…Jiabao V75またはV77、トラック…Jiabao V80となる。ただ、Foton(福田汽車)や金杯汽車、BYD、長城汽車の車種が清風のエンブレムを装着している画像があるためFAWで統一されている訳ではないようだ。他にも耕運機らしき機械やトラクターも含まれるようだが全く情報が無く不明なままだ。
・クムピョン(金平)自動車工場
2015年にポータルサイト「ネナラ」で紹介された自動車工場。公開されている車種から、中国の瀋陽金杯自動車のトラックを輸入し組立生産するトラック専門の工場と見られる。中国メディア等で詳しく報じられたところによれば、この工場は中国の資参堂実業集団と北朝鮮の鷹揚貿易会社がそれぞれ7対3の割合で出資して2014年3月に設立した金平合営会社のもので、雇用された従業員は114人。瀋陽金杯自動車から2回技術者を派遣して指導したという。工場は平壌の力浦区域の紹新1洞に建設された。年間2万台を生産すると言われるが、明らかに誇張された非現実的な数値である。25年間の契約を結んだが、制裁決議の影響で中国側が手を引かざるを得なくなった (口述)。
・トクチュン(徳中)自動車合弁会社
(ネナラ、2015-09-06)
引用元の通り2013年6月創立の合弁会社。勝利自動車工場と中国企業の合弁会社のようで、実際に同工場に組立ラインを併設して組立生産している。勝利自動車は2017年からSINOTRUCKのHOWO L2を新型5tトラックとして生産開始したことが報道されたが、それより前からSINOTRUCKを生産する準備は整っていたようだ。
・サムフン (三興) 自動車合弁会社
天池 (チョンジ、白頭山の山頂にあるカルデラ湖の名称) というブランドとしてトラックを中心に組立生産する。ダブルキャブスタイルのトラックが中心らしい。生産モデルはいずれも福汽福田汽車 (フォトンモータース) のトラック。
・朝鮮ピョンウンチュンソン合営会社
2015年に創設された会社で、中国商務省と北朝鮮対外貿易省が審査し、丹東朝鮮辺境貿易省と朝鮮首都旅客運輸指導総局がそれぞれ54対46の割合で投資した。共同投資額は約800万ユーロ(約108億ウォン)。北朝鮮初の貨物トラック会社として金正恩も関心を寄せているという。年々高まるトラックやバスの需要に応えていく形で、チョンマリ(千万里)貨物トラックやクムガンサン(金剛山)バスを生産している。また、ピョンウンチュンソンの工場と見られる建物が大同江の畔にある。
・ラソンペクホ (羅先白虎) 貿易会社“サムデソン (三大星) 自動車工場”
2009年設立の貿易会社で海洋製品加工等に加え、三大星 (サムデソン) という工場でトラックを生産している。
・朝鮮彗星 (ヘソン) 貿易会社“プッククソン (北極星) 自動車”
2013年の第16回平壌春季国際交易会 (16th Pyongyang Spring International Trade Fair) にて複数のトラックを出品した。トラック専門と見られる。
・プソン (부성)
2016年に開催された第9回平壌春季国産商品展示会でポスターが貼られた謎のトラックメーカー。
・羅先全強(ラソンチョンガン)加工会社
羅先の加工会社で、中国では一般的なタイプの三輪自動車をチョンガン (全強) の名称でリリースしている。この内ルーフがないタイプ (上画像) は、元々は中国のFeicai 7Y-1150D-2というモデルのようでエンブレムがそのままになっている。
冷戦期はソ連や東欧諸国といった旧東側の自動車を輸入しコピーしていた北朝鮮だが、2000年代~2010年代に入ってからは中国車が大半の比重を占めるようになり、現在はほぼ全てが中国車の組立生産という状態である。勝利自動車工場など一部は未だにソ連の遺産のような旧式の生産を行っているが、合弁会社が次々と現れ北朝鮮のエンブレムを付けた中国車がラインに並ぶ光景は当たり前になりつつある。
しかし、2017年に発表された国連安保理の対北朝鮮制裁決議案2375号では、第18項に北朝鮮企業との合弁事業や共同事業体の開設、維持及び運営の禁止の項目が盛り込まれており、中国を含め全会一致で採択されたため合弁事業にて中国側の撤収が不可避となったと報じられた。更に現在ではコロナの世界的流行で中朝国境が閉鎖され厳しく監視される状況になってからは中朝国境地域の合弁事業も深刻な財政難に悩まされているという報道もある。2024年現在の北朝鮮の自動車合弁事業の現況については不明。
参考文献
http://naenara.com.kp/main/search_first
https://www.chinacarforums.com/threads/north-korea.2791/page-4
https://nkrecognition.proboards.com/board/80/samdaesong-3-great-stars
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https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/unsc/page3_003268.html
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