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銚子つりきんめ ~高級魚・キンメダイ~

 金色に輝く大きな目と,鮮やかな赤い体色のキンメダイ(金目鯛)
 銚子を訪れたらぜひ召し上がって頂きたい高級魚です。

キンメダイ(銚子市観光協会)

 キンメダイの旬は地域によって異なりますが,銚子のキンメダイは一年中脂が乗っていて,いつでも美味しくいただけます
 刺身にしても焼いても美味しいですが,最も美味しい食べ方は,なんといっても煮付けです。口に入れた瞬間,ふわっとした食感とともに,極上の旨みが口の中に広がります。

キンメダイの煮付け。美味。


 キンメダイは,「鯛」という名前が入ってはいますが,真鯛などのタイの仲間とは異なる魚です(キンメダイ目キンメダイ科)。
 太平洋側では北海道東部沖から南,日本海側では新潟以南に分布していますが(佐藤魚水「金目鯛の目はなぜ金色なのか」39頁),沿岸漁場としては千葉県が北限です。
 千葉県のキンメダイの漁場は,銚子沖・勝浦沖・東京湾口の3つがあります。

 キンメダイは深海魚です。
 水深200~700メートルの大陸傾斜上部の岩礁付近に棲息しています(前掲佐藤39頁)。水深200メートルといえば,ビール瓶が破裂する水圧です。
 深海魚の眼は,大きくなるか,退化するかのどちらかですが,キンメダイは大きい眼を持ち,そしてその名の通り金色に輝いています。
 目が金色に輝くのは,網膜を通った光を反射させる「タペタム(輝板)」という構造を持っているためです(新潟市水族館マリンピア日本海「いきもの情報・キンメダイ」)。夜行性である猫も夜に眼が光りますが,それもタペタムによるものです。

 キンメダイは深海魚ですが,ふ化したばかりの仔魚のときは,なぜか仰向けになって海面近くを群れます。そして3日も経つと腹を下にした正常な姿になって成長し,やがて深海に移動していきます(前掲佐藤40頁)。
 また,キンメダイは,夜になると(特に月夜の日)海底から70~80メートルも上に上昇して,餌を求めて動きます(前掲佐藤40頁)。そのような上下動による水圧変化に耐えるため,浮き袋はあまり発達しておらず,釣り上げても他の深海魚のように腹部や眼が膨らむことはありません。

 銚子のキンメダイは,「銚子つりきんめ」のブランド名で有名です。
 地域団体商標制度という,地域ブランドの保護のための「地域+商品」の商標の制度があります(商標法7条の2。2006(平成18)年開始)。銚子つりきんめは,2013(平成25)年4月,千葉県内の水産物では初めてこの制度で商標として登録されました(商標登録第5573587号)。
 また,銚子つりきんめは千葉ブランド水産物生鮮第1号にも認定されています。


 「つりきんめ」という名が示すとおり,銚子・外川(とかわ)のキンメダイは,立縄(たてなわ)漁法によって,一尾ずつ丁寧に釣り上げられています。
 キンメダイはお肌が非常に弱く,網で漁獲してしまうと傷ついてしまうため,こうして一匹ずつ釣り上げるほうが良いのです。
 また,店に並ぶキンメダイは全身が綺麗な赤色ですが,これは死んだ後に変化したもので,生きている間は背側だけが赤色で腹側は銀色をしています。釣り上げたあとに,すぐに氷水でしめて鮮度落ちを防ぐことによって,徐々に体全体が鮮やかに赤く染まります。


 今はこうして有名になった銚子のキンメダイも,1990年代までは全くの無名でした。
 県外の大型トロール船がキンメダイを大量に漁獲していたことに危機感を持った外川の若手漁業者たちが,「漁業を変えたい」という強い意思を持ち,資源管理と知名度向上に取り組んだことで,今のように高品質のキンメダイをいつでも味わえるようになったのです(田口さつき「キンメダイを次世代に ―挑戦し続けるJF銚子市外川支所―」,JF全漁連「Sakanadia」)。

外川漁港の銚子つりきんめベンチ


 先日,外川漁港の先に「犬岩」という奇岩があることをご紹介しましたが,その犬岩は,中生代ジュラ紀(2億年前~1億5000万年前)の非常に古い地層でできた岩です。
 そして今回ご紹介したキンメダイも,その祖先は,約1億3000万年前の中生代白亜紀に出現したといわれています(前掲佐藤41頁)。

 地球の壮大な時の流れと,今の地元の皆さんの取り組みによって,おいしく味わうことのできる銚子の高級魚,キンメダイ。
 皆さんもぜひご賞味ください。


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