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ストーカー規制法の解説(2条1項1号~8号)

今回は、ストーカー規制法2条(定義)に関する解説です。

ストーカー規制法第2条第1項:つきまとい等の規定

第2条第1項本文(柱書)

条文の引用
「この法律において「つきまとい等」とは、特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、当該特定の者又はその配偶者、直系若しくは同居の親族その他当該特定の者と社会生活において密接な関係を有する者に対し、次の各号のいずれかに掲げる行為をすることをいう。」

柱書では、ストーカー行為の成立要件を3つの観点で規定しています:

  1. 感情の基盤:恋愛感情や怨恨感情など、個人的な感情を基盤とした行為であること。

  2. 目的性:行為が感情の充足を目的としていること。

  3. 反復性:規定された行為が複数回、繰り返されていること。

この枠組みにより、偶発的な接触や合理的理由に基づく行為は除外され、違法性の高いストーカー行為を的確に規制します。

第1号: つきまとい、待ち伏せ、見張り等

条文の引用
「つきまとい、待ち伏せし、進路に立ちふさがり、住居、勤務先、学校その他その現に所在する場所若しくは通常所在する場所(以下「住居等」という。)の付近において見張りをし、住居等に押し掛け、又は住居等の付近をみだりにうろつくこと。」

第1号では、物理的な接触を伴わない行為であっても、被害者の心理的平穏や生活の自由を著しく侵害する行為を規制しています。この規定は、以下のように細分化して解釈されます。

1. 「つきまとい」

  • 定義
    被害者が移動する際に意図的に後を追尾する行為を指します。これは物理的な接触を伴わない場合でも、被害者に不安感や恐怖心を与える場合に該当します。

  • 具体例

    • 被害者が通勤・通学中に後をつける行為。

    • 被害者が利用する店舗や施設で意図的に接触を図る。

  • 心理的影響
    被害者が行動を制限せざるを得ない状況を生むため、日常生活に深刻な影響を与えると判断されます。

2. 「待ち伏せ」

  • 定義
    被害者が頻繁に利用する場所(自宅、勤務先、学校など)で意図的に待機する行為を指します。被害者が現れることを予期して行う行動が該当します。

  • 具体例

    • 被害者の自宅近くの路上で待機する。

    • 被害者の勤務先の出入口付近で立ち続ける。

  • 要件
    待ち伏せが成立するには、被害者の動きを予測して計画的に行われることが求められます。

3. 「見張り」

  • 定義
    被害者の生活拠点(自宅、勤務先など)の付近で、その行動を監視する行為を指します。

  • 具体例

    • 被害者の住居付近で長時間車両を止めて監視する行為。

    • 被害者の勤務先周辺を徘徊しながらその行動を見張る行為。

  • 心理的影響
    被害者に「常に見られている」という感覚を与え、心理的平穏を大きく損ないます。

4. 「進路に立ちふさがる」

  • 定義
    被害者の移動を妨害し、その場に留まらせたり行動を制限する行為を指します。

  • 具体例

    • 被害者の通勤途中に突然現れ、進路を妨げる行為。

    • 被害者が移動中に声をかけながら立ちはだかる行為。

  • 心理的影響
    被害者が不安や恐怖を抱き、移動ルートや生活習慣を変更せざるを得ない状況を作り出します。

5. 「押し掛け」

  • 定義
    被害者の住居や勤務先に正当な理由なく訪問し、不安や恐怖を与える行為を指します。

  • 具体例

    • 被害者が拒否しているにもかかわらず、住居に訪問する行為。

    • 勤務先で大声を出したり、無理に接触を図ろうとする行為。

違法性の判断基準

  1. 行為の継続性
    単一の行為ではなく、反復的に行われることでストーカー規制法の対象となります。

  2. 被害者の心理的影響
    被害者が不安感や恐怖心を抱き、心理的平穏が著しく損なわれる場合に該当します。

  3. 社会的相当性の欠如
    行為が社会的に見て合理性を欠き、被害者に不当な負担を強いるものであることが求められます。

第2号: 行動監視を告げる行為

条文の引用
「その行動を監視していると思わせるような事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと。」

第2号では、被害者に対して「行動が監視されている」と感じさせる行為を規制しています。この行為は、被害者に恐怖心や不安感を抱かせ、生活の平穏を損なうものとして厳しく取り締まられます。行動監視を直接告げる行為だけでなく、被害者がそのように感じる状況を作り出すことも含まれます。

1. 「行動を監視していると思わせるような事項を告げる」

  • 定義
    被害者に対して、行動が監視されていることを示唆する内容を伝える行為を指します。この行為により、被害者は自身の行動が常に監視されていると感じ、不安感を抱きます。

  • 具体例

    • 被害者に対して、「昨日の夜、○○にいたね」と発言する。

    • 被害者の買い物や移動ルートを詳細に述べる。

    • メッセージやSNSで、「あなたの行動は全て把握している」と送信する。

  • 違法性のポイント
    行為者が被害者に直接的に監視を伝える意図を持っていることが重視されます。また、被害者が恐怖心を抱くことが想定される内容であれば適用されます。

2. 「その知り得る状態に置くこと」

  • 定義
    被害者に直接告げるのではなく、行動監視の事実やその可能性を暗示する状況を作り出す行為を指します。

  • 具体例

    • 被害者の自宅ポストに、「最近のあなたの行動は分かっている」と書かれたメモを入れる。

    • SNSで被害者の行動を暗示する投稿を行い、被害者がそれを確認できるようにする。

    • 被害者の周囲に監視カメラやGPS機器を設置し、その存在をほのめかす。

  • 心理的影響
    この行為は、被害者に「監視されている」と感じさせることで心理的平穏を大きく損ないます。

違法性の判断基準

  1. 行為が監視を示唆しているか
    直接的または間接的に、被害者が「自身の行動が監視されている」と感じる内容であることが必要です。

  2. 被害者が恐怖を抱いたか
    被害者の立場から見て、不安感や恐怖感を抱く内容であれば違法性が認められます。

  3. 行為の継続性と意図
    単発の行為ではなく、監視行為が繰り返されることで被害者の心理的負担が増大する場合に、より高い違法性が認められます。

第3号: 義務のないことの要求

条文の引用
「面会、交際その他の義務のないことを行うことを要求すること。」

第3号は、被害者が法的または社会的に応じる義務のない要求を行い、被害者に心理的負担を与える行為を規制しています。この規定は、被害者の自由意思を尊重し、不当な要求から保護することを目的としています。

1. 「義務のないこと」とは?

  • 法的義務や社会的義務を超える行為
    被害者が応じる必要のない行為全般を指します。これには、法律上の義務はもちろん、社会通念上の義務を超えた行為も含まれます。

  • 具体例

    • 面会の強要:被害者が断っているにもかかわらず、直接会うことを要求する。

    • 交際の要求:恋愛関係の成立や復縁を繰り返し迫る。

    • 金銭や物品の要求:被害者に金銭や高価な贈り物を提供するよう求める。

    • その他の不当な要求:被害者にイベントへの参加や写真を送るよう求める行為。

  • ポイント
    「義務のないこと」とは、被害者の生活や自由意思に負担を与える要求であり、合理性を欠いたものが該当します。

2. 「要求する」とは?

  • 直接的な要求
    被害者に対し、直接的に「会いたい」「交際を始めてほしい」と伝える行為。

  • 間接的な要求
    被害者がそれを要求と感じるような態度や行動を繰り返すこと。
    例:SNSやメールで執拗に関心を示す、第三者を通じて要求を伝える。

  • 手段の多様性
    要求が口頭、文書、電子メール、SNSメッセージなど、どの手段で行われても適用されます。

違法性の判断基準

  1. 被害者の意思に反するか
    被害者が要求を拒否しているにもかかわらず、繰り返し行われる場合に違法性が認定されやすくなります。

  2. 要求の不当性
    要求内容が社会通念上、被害者に負担を強いるものであることが基準となります。合理性のある依頼や、一度限りの要求は適用外となる場合があります。

  3. 行為の継続性
    単発の行為ではなく、繰り返し行われることで違法性が高まります。

第4号: 粗野または乱暴な言動

条文の引用
「著しく粗野又は乱暴な言動をすること。」

第4号では、被害者に恐怖感や不安感を与える「粗野」または「乱暴」な言動を規制しています。この規定は、言動が社会通念上許容される範囲を超え、被害者の心理的平穏や社会的生活を侵害する行為を対象としています。

1. 「粗野または乱暴な言動」とは?

  • 粗野な言動
    礼儀や品位を欠き、威圧的または侮蔑的な言葉や態度を指します。

    • 具体例:

      • 被害者に対して大声で罵る。

      • 公共の場で侮辱的な発言を繰り返す。

  • 乱暴な言動
    身体的な暴力行為に近い態度や行為を指します。必ずしも直接的な接触を伴わなくても、威圧的な行動で被害者に恐怖を与える場合に該当します。

    • 具体例:

      • 被害者の前で物を投げつける。

      • 家や職場で大声で怒鳴る。

  • 「著しく」の意味
    社会通念上、通常のやりとりでは許容されない程度に行為がエスカレートしていることが要件となります。

2. 違法性の判断基準

  1. 行為の程度
    粗野または乱暴な言動が被害者にとって日常的な心理的平穏を著しく損なう程度であることが求められます。

  2. 被害者への影響
    言動によって被害者が恐怖感、不安感、または心理的苦痛を受けた場合に違法性が認められます。

  3. 行為の継続性
    単発の行為よりも、繰り返されることで違法性が強まります。

第5号: 無言電話や執拗な通信

条文の引用
「電話をかけて何も告げず、又は拒まれたにもかかわらず、連続して、電話をかけ、文書を送付し、ファクシミリ装置を用いて送信し、若しくは電子メールの送信等をすること。」

第5号は、通信手段を利用したストーカー行為を規制する規定であり、特に電話や電子的なメッセージを介した執拗な行為を対象としています。この号が対象とする行為は以下の通りです:

  1. 無言電話

    • 被害者が電話を受け取っても一切話さない行為。

    • 被害者に恐怖感や不安を与えることを目的としたもの。

    • 電話が1回であっても、行為の背景に悪意が認められれば適用される可能性があります。

  2. 連続した電話

    • 1日や短期間のうちに複数回電話をかける行為。

    • 被害者が拒否しているにもかかわらず継続されることが問題となります。

  3. 著しく困惑させる通信

    • SMSやメール、SNSメッセージ、FAXなどを通じて不快感や困惑を引き起こす行為。

    • 内容が脅迫的でなくても、執拗であれば適用されます。

行為の違法性の判断基準

  • 被害者の心理的影響
    無言電話や執拗な通信は、被害者に心理的圧迫感を与え、生活の平穏を害します。このような行為の結果として、被害者が不安や恐怖を抱いた場合、違法性が認められます。

  • 通信手段の多様化
    電話だけでなく、SNSやインターネットメッセージングアプリを利用した通信も「困惑させる通信」として認定される場合があります。

  • 行為の継続性
    単発の行為ではなく、繰り返し行われることで、より違法性が高まります。

第6号: 汚物、動物の死体、その他著しく不快又は嫌悪の情を催させる物の送付等

条文の引用
「汚物、動物の死体その他の著しく不快又は嫌悪の情を催させるような物を送付し、又はその知り得る状態に置くこと。」

第6号は、被害者に精神的苦痛や不快感を与えることを目的とした行為を規制しています。この号は以下の行為を具体的に対象としています:

  1. 物の送付

    • 被害者の住所や勤務先に汚物や動物の死体を送る行為。

    • 例として、生ゴミや腐敗した食品を送りつける行為が挙げられます。

  2. 知り得る状態に置く行為

    • 被害者がその物を視認したり、接触する可能性がある場所に配置する行為。

    • 例として、被害者の玄関前や自宅敷地内に汚物や死体を放置する行為が含まれます。

違法性の判断基準

  • 不快感や嫌悪感の評価
    被害者が「著しく不快又は嫌悪の情を催させる」と感じる物かどうかが判断基準となります。社会通念上、通常の感覚で不快感や嫌悪感を抱く物であれば該当します。

  • 配置の意図
    行為者が被害者に心理的負担や精神的苦痛を与える目的で行ったことが要件となります。

  • 被害者の影響
    被害者の平穏な生活が侵害された場合、違法性が認められます。

第7号: 名誉毀損や侮辱

条文の引用
「その名誉を害する事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと。」

第7号は、被害者の社会的評価を損ない、心理的苦痛を与える行為を規制しています。この規定では、次の要素が重要となります。

1. 「名誉を害する事項」

  • 名誉感情と社会的評価
    「名誉を害する事項」とは、被害者の社会的評価を低下させるだけでなく、個人の名誉感情を損なう内容も含まれます。
    例として、被害者を侮辱する内容や不快感を与える事柄が該当します。

  • 事実の摘示は不要
    名誉毀損罪(刑法第230条)とは異なり、特定の事実を摘示する必要はありません。被害者の名誉や感情を害する内容であれば十分です。

  • 公然性は不要
    名誉毀損罪や侮辱罪(刑法第231条)では行為の公然性が要件となりますが、本規定では、対象者自身が認識すれば足り、公然性は問われません。

2. 「告げる」

  • 意味と方法
    「告げる」とは、対象者に直接その名誉を害する事項を伝達する行為を指します。その方法には限定がなく、以下が含まれます:

    • 口頭: 面と向かって相手を侮辱する発言をする。

    • 文書: 手紙や書面で相手を侮辱する内容を伝える。

    • 電子メールやSNS: メールやチャットアプリで被害者に不快感を与える内容を送信する。

3. 「知り得る状態に置く」

  • 意味
    「知り得る状態に置く」とは、対象者に直接伝達するのではなく、被害者が日常生活でその内容を知る可能性がある状態に置くことを指します。

  • 具体例

    • 物理的な方法:
      公共の場所で、被害者に関する内容を掲示する。例として、自転車に「○○は詐欺師だ」と書かれたメモを貼る。

    • オンライン掲示:
      被害者がアクセスする可能性のあるインターネット掲示板やSNSに、被害者の名誉を害する投稿を行う。

行為の違法性

  • 行為の結果は問わない
    名誉毀損罪では、実際に社会的評価が低下したかどうかが問題となりますが、本規定ではその結果は問われません。行為自体が成立要件を満たしていれば規制の対象となります。

  • 対象者の認識が要件
    名誉を害する事項が被害者本人に認識されることで違法性が認められます。

第8号: 性的羞恥心を伴う写真や映像の送付または公開

条文の引用
「その性的羞恥心を害する事項を告げ若しくはその知り得る状態に置き、その性的羞恥心を害する文書、図画、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下この号において同じ。)に係る記録媒体その他の物を送付し若しくはその知り得る状態に置き、又はその性的羞恥心を害する電磁的記録その他の記録を送信し若しくはその知り得る状態に置くこと。」

第8号は、被害者の性的羞恥心を損なう行為を規制しています。これには、被害者のプライバシーや性的な尊厳を侵害する内容が含まれ、主に以下の行為が対象となります:

1. 送付行為

  • 具体例:

    • 被害者の同意なく性的な内容を含む写真や動画を送信する行為。

    • 性的な侮辱を含む画像や動画を電子メールやSNSを通じて送信する。

  • 心理的影響:
    被害者が不快感や羞恥心を抱き、心理的平穏を著しく損なう場合に違法性が認められます。

  • 典型的な手段:
    メール、SNS、郵送、あるいは物理的に渡す形での送付が含まれます。

2. 公開行為

  • 具体例:

    • 被害者の写真や動画を、被害者の同意なくインターネット上に公開する行為。

    • 被害者のプライベートな写真を第三者に共有する行為。

  • 影響範囲の広がり:
    特にインターネットを通じた公開は拡散性が高く、被害者の社会的信用や心理的平穏に深刻な影響を及ぼします。

3. 内容の告知行為

  • 具体例:

    • 被害者が知らない間に撮影した映像の存在を伝える。

    • 被害者の性的なプライバシーに関わる情報を「暴露する」とほのめかす行為。

  • 意図と影響:
    告知そのものが、被害者に羞恥心や恐怖感を与え、生活の平穏を損なうものとして違法性が認定される場合があります。

違法性の判断基準

  1. 被害者の性的羞恥心を害するか
    被害者の立場から見て、行為が性的羞恥心を損なうものであれば違法性が認められます。行為者の意図よりも被害者への影響が重視されます。

  2. 被害者の同意の有無
    被害者の同意がなく、意図せずに送付・公開された場合に規制の対象となります。

  3. 行為の拡散性と持続性
    公開された内容がインターネットを通じて拡散し、被害者が継続的に影響を受ける場合、違法性が高まります。

まとめ

ストーカー規制法第2条第1項とその8つの行為類型は、被害者の安全と心理的平穏を守るために不可欠な枠組みです。これらの規定は、現代の多様な加害手段に対応しつつ、個人の権利を保護するための基盤を提供しています。

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