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【Level8】ウヴェ・ローゼンベルクとは?大型戦略ゲームへの展開 —オーディンの祝祭・カヴェルナなど—
前回の記事では、ウヴェ・ローゼンベルク(Uwe Rosenberg)の収穫三部作(『アグリコラ』『ル・アーブル』『洛陽の門にて』)をご紹介し、農業や港湾都市といった身近なテーマを重厚な戦略ゲームに仕立てる独特の手腕を見てきました。今回はそこからさらにスケールアップし、より多彩なアクション数と“ポリオミノ”をはじめとする新要素を盛り込んだ“大型戦略ゲーム”へと向かうウヴェの歩みを紐解いていきます。
1. 農業からヴァイキングへ:壮大になる世界観
収穫三部作で“農業”や“日常的な労働”を徹底的にゲーム化したウヴェ・ローゼンベルクは、2010年代に入るとさらに多彩なテーマに挑戦します。その中でも**「より大型化・自由度拡大」という流れが顕著で、特に『オーディンの祝祭』(2016年)や『カヴェルナ』(2013年)などは、コマやタイルの量だけでなく、アクションスペースの数も膨大。いずれもプレイ時間が長く難易度が高い、いわゆる“ヘビー級ユーロゲーム”**に属します。
とはいえ、ウヴェらしさは健在。重度のワーカープレイスメントや食料供給の要素を引き継ぎつつ、より多彩な戦略や新たな仕掛けを組み込むことで、プレイヤーに**「自分だけの大きな世界を作り上げる」**体験を与えるのです。ここからは、それぞれのタイトルでどんな進化があったのかを見ていきましょう。
2. 『オーディンの祝祭』:ポリオミノ要素と拡張性の極み
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ウヴェ・ローゼンベルクの大型路線を代表する作品として、まず挙げたいのが**『オーディンの祝祭』(A Feast for Odin)**です。ヴァイキングを題材に、海を渡って略奪や交易を行い、自分の領土を広げながら得点を稼ぐワーカープレイスメント+パズルゲーム。大きな特徴は以下の通りです。
1. 膨大なアクションスペース
一般的なワーカープレイスメントよりも格段に多い(60以上とも)アクションが用意されており、その選択肢が毎ラウンド増えていくこともあって自由度が非常に高い。
2. ポリオミノ(テトリス状)タイルの配置
手に入れた資源や品物を、自分の個人ボードにパズルのように配置して空きを埋めていく。上手く埋めるほど得点ボーナスが入り、欠けた部分にはマイナス点が発生する仕組み。
3. 多彩な戦略ルート
略奪、狩猟、家畜、交易、探検… とアクションが多岐にわたるため、毎プレイ異なる発展ルートを模索できる。
【豆知識】
• 当初は「アグリコラの食料供給をタイルパズルで表現しよう」と考えた試みが出発点だったとか。そこから発展して“ヴァイキング世界”を大きく膨らませた結果、巨大なゲームに成長したといわれています。
• BGG(BoardGameGeek)での平均スコアは8.4前後と非常に高く、リリース後すぐにトップ100にランクインしました。
大型化の反面、ルールも多く初プレイ時のハードルは高めですが、慣れると「農業+冒険+パズル」が融合した贅沢なプレイ感を堪能できます。ウヴェ作品の中でも屈指の重ゲーで、ソロモードの充実も人気の理由です。
3. 『カヴェルナ』:地下世界を掘る農業ファンタジー
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次にご紹介するのは、収穫三部作のひとつ『アグリコラ』の流れを汲む派生作ともいえる**『カヴェルナ:洞窟の農夫』(Caverna: The Cave Farmers)**です。
• 農業+ファンタジー要素が組み合わさり、プレイヤーはドワーフ一族となって洞窟(カヴェ)を掘り進みつつ、地上で畑を耕し、家畜を飼育して発展を目指します。
• 『アグリコラ』から派生した部分が多いものの、カードがほぼ存在しない代わりに「冒険」のシステムを追加。ドワーフが武装してダンジョンを探検するなど、RPG的な楽しさが加わっています。
• 大量のタイルを配置して洞窟をカスタマイズできる点も特徴。採掘スペースや居住スペース、畑などをどう配置するかで戦略が分かれます。
【豆知識】
• 発売当初(2013年)は「アグリコラの上位互換」とまで言われ、BGGランキングでトップ10入りを果たしました。
• ドイツのボードゲーム賞では大衆路線向けの評価は得られずとも、重量級ゲーマーから絶大な支持を受け、世界各国で拡張キットが登場しています。
初心者にはやや取っつきにくいものの、『アグリコラ』で農業の厳しさを知ったプレイヤーには「洞窟を掘る」という新鮮な要素が好評。「より自由に自分の領土を組み立てられる」と感じる人も多く、農業テーマをさらに壮大にパワーアップさせた作品と言えるでしょう。
4. 『アルルの丘』:2人用とは思えない重量感
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大型路線といえば多数プレイヤー向けが定番に思われがちですが、ウヴェ・ローゼンベルクは2人専用でも豪華な重量級を作り上げました。その代表例が**『アルルの丘』(Fields of Arle)**です。
• ドイツの東フリースラント地方にある“アルル”を舞台に、農業や家畜の飼育、道具の製作、沼地の干拓など多方面の作業を進めます。
• 季節(夏と冬)の概念があり、季節ごとに異なるアクションが解放されるため、1年のサイクルを体感しながら経営を組み立てる楽しみがあります。
• ゲーム盤から個人ボードまでコンポーネントが非常に豊富で、2人専用ながらプレイ時間は2時間を超えることも珍しくありません。
【豆知識】
• 「2人専用なのにテーブルを広く使うので、カフェなど狭い場所だと苦労する」というエピソードが有名。
• ローゼンベルクいわく、祖母の出身が東フリースラント地方で、自分が慣れ親しんだ農村風景をゲーム化したかったそうです。
実際に遊んでみると、細部のルールに至るまで非常に丁寧に作りこまれており、2人でじっくりと農業世界を満喫したいというニーズに応える一作となっています。「コマを置く余地が多く、あまり干渉しあわない」という点から、「ライバルとの衝突が少なめの重ゲーを落ち着いて遊びたい」という方におすすめです。
5. ワーカープレイスメントの進化とウヴェ流のこだわり
収穫三部作をはじめ、ウヴェ・ローゼンベルク作品では欠かせない要素となったワーカープレイスメント。大型戦略ゲームでは、その枠組みをさらに拡張し、以下のような方向で進化を遂げています。
• アクション数の大幅増加
『オーディンの祝祭』のようにアクションスペースが60を超えるケースもあり、選択肢が増えるほど初期の「競合」以上に、自分の最適解を組み立てる思考が中心になります。
• 別メカニクスとの融合
「ポリオミノ配置」や「冒険システム」など、ワーカープレイスメント+αの要素を加えることで、ゲーム体験の幅を広げる。
• ソロプレイや2人専用の充実
『アルルの丘』のように、対人インタラクションを抑えても一人もしくは二人で深く没頭できるデザインを追求。
そして何より、ローゼンベルクが徹底しているのは**“生活感”**。例えば『カヴェルナ』のドワーフや『オーディンの祝祭』のヴァイキングといったファンタジーや歴史テーマであっても、農業や狩猟、手仕事といった地道な営みを丁寧に描き込みます。これがウヴェ流の「リアリティ」であり、プレイヤーが愛着を持って“自分の村”を作り上げる喜びを支えているのです。
6. まとめと次回予告
重厚な農業シミュレーションから一転、ヴァイキングやファンタジー要素を取り込むことで、ウヴェ・ローゼンベルクのゲームは一段と壮大かつ多彩になりました。『オーディンの祝祭』で見られるポリオミノ配置はのちの作品にも影響を与え、『カヴェルナ』や『アルルの丘』では収穫三部作に続く“農場拡張”の面白さを別の切り口で体験できます。
とはいえ、ウヴェ作品は“ヘビーゲーム”ばかりではありません。次回(【第4回】)は、パズル要素にフォーカスした軽・中量級ゲーム、たとえば『パッチワーク』や『ノヴァルナ』などへの展開を見ていきましょう。ポリオミノを用いた抽象的なパズル作品がどのように誕生し、なぜ新たなファン層を魅了しているのか。その秘密を探りますので、どうぞお楽しみに!