製造について考えはじめたベンチャーが、最初に知るべき鉄則(その2-2:要求・要望の整理とコミュニケーション)
このマガジンで紹介する考え方の基本原理の一つは必要最低限を速習しつつ、プロの力を最大限に活用し、プロジェクトを進めていくことです。今回は特にその考え方が色濃いnoteです。
前回のnoteでは、ベンチャーの製造の一歩目として要望、要求、要件、仕様、設計 を整理をすることの重要性について話しました。
ざっくり図でまとめると下記のようになります。
今回は、もう一歩進めて、要望・要求を具体的に整理する方法を紹介します。また、ベンチャーと製造のプロフェッショナルが協力して、ものづくりをするプロセスについても書いていきます。
*本noteをベースにした、情報整理用メモをGoogleDoc形式で作りました
豊富な知識と技術を持つ製造のプロフェッショナル。
彼らの力を借り、課題を解決するためには、多くの判断・決定をしながら「製造」というプロジェクトを推進していかなくてはなりません。
そのための一歩目として、まずは「自身の行いたいことを、適切に整理し、開示する」必要があります。フレームワーク的な整理・開示をしていき、プロフェッショナルとともに完成形を目指すという進め方です。
ベンチャー側の姿勢について
具体論に入る前に、伝えておきたいことがあります。それは、ベンチャー側の姿勢の話です。自分たちだけではできないものを、他者を巻き込み作っていくのだから
①コミュニケーションをとり続けること
②ベンチャーが製造においても、主体的であること
③完璧主義でありすぎないこと
④相手をリスペクトし、適切に任せる
という点を心に留めて進めていかないといけません。
少し補足すると
①はシンプル。自分にないスキルやアセットを持つ相手と共に良いものをつくる。そのためには、コミュニケーションしていくことは必須です。
②はマインドセットの話。「相手がプロだから」と全てを丸投げにする感覚でなく、自分たちの責任で決断をしていくことが必要です。
最低限必要なものは適宜学ぶ、もしくは、きちんと納得できるようにコミュニケーションしていかなくてはなりません。
③もマインドセットの話。「全てを学んでから初めてスタートする」のは遅すぎるし、効率が悪いです。「武器は走りながら拾え」という言葉のとおり、走りながら対応していかないと、結局何もできずに止まったままになってしまいます。
④は言葉の通りです。ヒト・モノ・カネが不足しがちなベンチャーにとって、自分よりも知見があるプレイヤーを仲間に巻き込めるか否かは死活問題です。発注者-受注者の関係はあるものの、協力して、より良いものを共につくるパートナーになってもらうためにもリスペクトは必須です。
①〜④は、それぞれ相反しているように感じる部分があるかもしれません(②と③、②と④など)。
しかし、大事なことは、わからない部分があってもいいので、全体感をざっくり想定して、「相手を巻き込みながら」進めることです。
それぞれの項目の完成を目指すというよりも、ざっくりフレームを作った上で、足りない項目を埋めたり、各項目をブラッシュアップし続けるイメージ。そして、ベンチャーが主体的に関わり「より良いものをつくっていく」ことです。
ベンチャー側での事前整理
さて、ここからが本題です。「どう整理すれば良いのか?」ですが、下記の項目を抑えていくと伝えやすいです。
(1)大きなビジョン
(2)今までの経緯と、これからのロードマップ
(3)今回、(製造を通じて)短期的には何を成し遂げたいのか?
(4)具体的な手段についての構想
実は、(1)〜(3)が要望の整理となります。また、(4)が要求の内容(の一部)です。前回のnoteで記したように要望と要求が混ざった状態はトラブルのもとですので、切り分けられるようにしてください。
多くの人はいきなり、(4)の要求部分のはなしをしがちです。
しかし、(1)から(4)全てを端的に話した方が結局は伝わりやすいです。
また、背景の情報を適切に伝え、解像度をあげていくことで
「その目的ならば、この方法がある」
というような、専門家ならではの知見を引き出し、より良いものを作ることもできます。
以下に簡単な説明をつけていきます。
(1)大きなビジョン
こちらは、今回のnoteで紹介したいメインの部分ではありません。しかし、人を巻き込む中では必須な項目です。
その技術が、究極的に世の中に行き渡ると世界がどう変わるかということ。
科研費などでの新規プロジェクトの背景や将来の展望を話す感じ。もしくは、ピッチなどでのプレゼンの資料に近いといえばイメージがつきやすいかもしれません。
中学生が理解できるくらいに噛み砕くことを目標にしてみてください。
<参考書籍>
目次はこちら
ICCのようなピッチも参考になるかもしれません
(2)今までの経緯と、これからのロードマップ
今回製造したいものにつながる
・ベースとなる研究成果
・「プロトタイプ」や「モック品」など。過去にどこまで、考えたり作ったりしてきたか。
・今後、どのような風に世の中に普及させていくか(将来的に想定している、使用者の属性やシチュエーションなど)
・量産や資金調達の計画(助成金などの計画も含めます)
を考えてみて下さい。
注意点としては、詳細まであまり語りすぎないことでしょうか。
(研究者属性の人は、特に研究分野において、ついつい話が長くなり、結局の伝えたいことが霞むこともあります。「すぐには全ての内容の理解はできない」という割り切り方で、重要な数点に絞って話すといいと思います)。
最初から一方的に話すのではなく、相手からの質問を待って対話をするくらいでも良いと思います。
また、今まで作ってきたプロトタイプ(写真や動画でも可)があると、聞いている側の理解度はグッと高まります。
参考:プロトタイプやモック品などの用語の違いについてはこちら。
(3)今回、(製造を通じて)短期的には何を成し遂げたいのか?
製造に向けてのキーとなる部分です。
「何を作りたい」だけを伝えるのではなく、「それによって、どのような状態を作りたいのか」も合わせて伝えることが重要です。
・誰が、どのようなシチュエーションで使用するのか
・現在考えているPoCの内容、注意しないといけない点
・成し遂げたいことの中での優先順位
なども考えないといけません。
成し遂げたいことに比べると、製造して何かを作ることはツールの一つでしかありません。
逆算するような形でアイデアを生み出すことも多々あります。
(予算や納期が切迫している場合など特に)
(4)具体的な手段についての構想
既に明確なものがある場合は、そちらを伝えれば良いと思います。
きちんと要件定義まで明確化できているのであれば、製造委託という形で取り組んでくれる会社も多くあります。とくに、図面まで引けていると、かなり低コストでの依頼も可能になります。
しかし、(1)〜(3)を踏まえて相談することで、やりたいことから逆算して「必要最低限のものを低コストでつくる」や「より目的にフィットする、良いものをつくる」などを検討できることも多くあります。
また、細かい部分までイメージできていない場合は、その旨を伝えれば良いです。
できる範囲で現在考えていることを整理しておき、必要に迫られたタイミングで人に相談するというのも良いです。
なお、(4)に加えて、費用やスケジュールなどの各種条件を加えると、コミュニケーションに使える「要求」のベースができます。
コミュニケーションのための適切な開示をするためのコツ
(1)〜(4)という形で、自身の作りたいもの・必要なものを整理する方法を紹介しました。
実際に整理するための情報整理シートも作ってみましたので、活用してみてください。
---->情報整理シート(GoogleDoc形式)
シート内に各項目の書き方のヒントや例も記載しています。
今までのマガジンの内容は、やや抽象的なものだったかもしれません。
ここまで読んで、自身の作りたいもの・必要なものを実際に書いてみると、分からなかったり、自信の持てない部分も見えて来るかと思います。
自身の手でそれをブラッシュアップするのも良いでしょう。
その際のコツは
・分かりやすいか(専門用語を使っていないか、中学生程度でも分かるような内容になっているか)
・端的に説明できるようになっているか。箇条書きを使うと整理しやすい
・いきなり全てを説明しようとしていないか。まず話すべきことだけに絞る。優先順位をつける
・理解を深めるための資料を用意しておく(過去に作ったものの、現物や写真・動画など、詳細なドキュメント、パワーポイントなどの資料、写真や動画、特許や論文など)
ただし、準備をやり過ぎるといつまで先に進めません。出来るところまで整理をしてみて、製造の知見を持つプロフェッショナルと話すステージに進む方法をオススメします。
次のステージは、いよいよ製造のプロフェッショナルと話す段階です。
「製造のプロフェッショナルにはどのような種類があるのか」、「どうやってコンタクトすると良いのか」など、次のnoteで書こうと思います。
(リバネス:長)