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週日記 2024/08/11 - 17

08/11 Sun.

義母の実家がある唐津に帰省しようとしていた矢先に、弟から電話がかかってきた。祖母が倒れた。救急隊員が到着したときには心肺停止だったらしい。それから30分後、搬送された病院で息を引き取った。団らんのひと時から一転、青天の霹靂だった。電話越しの母と弟は動転していて、聞けば祖父は相変わらず表情に出さないらしい。帰省は取りやめて、それでも今日しか海に行ける日はないから、子どもたちを連れて高浜へ。少しだけ遊ばせてあげた。帰り道、4歳の楓芽が「おおばあばの病気が治るように」とゼリーを買っていた。「誰のバチでもない。死ぬのにいい人も悪い人もない。たまたま命を落とすんです。そして私たちはたまたま生きている。たまたま生きている私たちは、死を忌わしいものにしてはいけないんです」何度もシェアしてした、アンナチュラルでの松重豊の言葉が過(よぎ)る。僕が楓芽と同じ歳の頃、両親の離婚を機に祖父母と暮らすことになった。仕事で家を空けることの多かった母に代わって僕たちを育ててくれたのが祖母だった。正義感が強くて、まじめで、ちょっとイジワル。おおらかな長野家でつんつんしていたのが祖母で、その性格をそのまま引き継いでしまったのが僕だった。だからたくさん喧嘩した。家族の中で僕たちが一番喧嘩した。最後の喧嘩は4年前、泣いている楓芽をあやしているときだった。あれだけ頑固だった祖母が、初めて泣いて謝ってきた。喧嘩には勝ったのに、ちっとも嬉しくなかった。そんな性格をしていたから誰かとぶつかることも多かっただろうし、気疲れしてきただろうし、損もしてきたと思う。きっとそれは、似たもの同士の僕にしか分からない。歳を重ねるたびにそれが分かってきたから、ずっと悲しかった。もう頑張らなくていいよって言えたら良かった。思ってることをちゃんと言葉にしたくて今まで頑張ってきたはずなんだけどな。昨日は元気に買い物に行ってたのにな。明日ちゃんと伝えよう、まだ大丈夫。

08/12 Mon.

通夜の準備は夕方からでいいよと言われたので、革靴を新調するために夢彩都へ行く。「気持ちが追いつかない」というのはよく聞くけれど、気持ちは祖母がいなくなったことを理解していて、どちらかというと僕たちを取り巻く世界が追いついていない感じがする。楓芽も蒼空も、このお店で買い物をするときに何度も車椅子の膝に乗せてもらっていた。昨日の朝、祖父が焼く食パンのにおいをかいで「焦げくさいのがいや」と愚痴をこぼしていて、母が自室に猫を迎えに行ったとき、吐血して倒れたらしい。「誰しもいつその時が来るか分からない」と言った祖父が、通夜のあいさつでようやく泣いた。帰りがけに親戚みんなとハイタッチしてにこにこ笑っていた蒼空が、棺の中にいる祖母にもバイバイと手を振って、同じようにハイタッチを求めた。空(くう)を切る小さな掌が、生命の儚さを物語る。

08/13 Tue.

楓芽が朝早くから「おおばあばにお手紙を書く」と言う。仕事だった唯と蒼空の出発を見届けてから、2人で一緒に手紙を書いた。葬儀場へ着くと祖父や叔母に嬉しそうに手紙を見せていて、丁寧に棺の中へ入れてあげていた。唯や母が「怖がらずに骨まで見られるかな」と心配していたけれど、何度も何度も線香をあげて、顔をのぞきこんで話しかけている。その姿を見ていると大丈夫な気がして、火葬までの流れを教えてあげて本人の意思に委ねることにした。葬儀を終えて、棺の蓋が閉じられるとき、今まで口数の少なかった祖父が「今までありがとうございました…!」と涙ながらに頭を下げた。それまで着丈に振る舞っていた母も、弟も、僕も、その言葉ですべてが終わってしまうことを痛感した。つい数日前までは元気だったのにな。何度でも思う。そしてその度に苦しくなる。「おおばあば、ちっちゃくなってたねえ」火葬まで見届けて、骨まで拾ってくれた楓芽が言う。今は間違いなく、大人たちがこの子の底抜けに明るい性格に支えてもらってる。この子は強い。

08/14 Wed.

風邪気味だった楓芽と蒼空を連れて病院へ行って、それから蒼空を唯の職場に預けて実家へ出向いた。香典のまとめ作業をして、近所の親戚のところへ改めて挨拶に行って、少し休んでから三日参り。まだ気持ち的にも手をつける余裕はないけれど、仕事のメールやLINEがよく届く日だった。お盆休みも折り返しに差し掛かっていて、後半は唯がほとんど仕事なので日曜日を除いて子どもたちと3人で過ごす。明日の予定を考えるだけの思考力も残っていない。多少無理をしてでも自分を休ませなければ持たないと思って、普段は家で飲まないお酒に手を出した。似合わない荒療治。おつまみに食べた唐揚げも連日のオードブルですっかり食べ飽きている。

08/15 Thu.

朝から子どもたちを連れて科学館へ。館内のプラネタリウムが観られるセット券を買ったけれども、ドームに入って数分で蒼空が怖がったので暗闇の中そそくさと退散。仕方なく常設展で遊んで、カブトムシと戯れた。楓芽が物足りなさそうだった。お昼を食べに実家へ行くと蒼空の足の爪が根元から割れていて、細菌が入るといけないのでまた病院へ行く。唯に連絡を入れると「手足口病の後遺症だから行かなくていいのに、ていうかこの間それ話したんだけど」と言われた。そう言われるときは確実に唯が正しいのだけど記憶になくて、でも別に悪いことはしてないのにバツをつけられたのがちょっといやだった。こういう気持ちになりたくない。そのたび忘れっぽい自分がいやになるし、僕が僕を「暮らすのが下手」と言う理由のひとつでもある。社会にいる間はそんなことないのに、どうして家庭に戻った途端に覚えられなくなるんだろう。それを良しとも思っていないのに。

08/16 Fri.

今年に入って快さんと少しずつ話している子どもたちの居場所づくり。タイミングよく「毛井首の空き家をもらってくれないか」という相談が来たそうなので、一緒に内覧へ行った。話がきたときは大はしゃぎしてたけど、駐車場はないし、結構な修繕費がかかりそうだし、場所も理想とはちょっとちがう。現時点では正直デメリットの方が多い。可能性はゼロじゃないけど……という感じだった。それから子どもたちのごはんとお昼寝を済ませて、夕方は武次さん、makijakuさんと11月下旬に企画しているイベントの打合せ。まだ企画の全容は固まっちゃいないけど、ようやく輪郭が見えてきた気がする。

08/17 Sat.

今日も唯は仕事。たまには子どもたちをゆっくりさせてあげようと午前中は家でまったり(できるはずもないのだけど)。お昼前に不動産の人が来て、マンションの査定だけしてもらった。我が家よりもカブトムシの幼虫が入った虫かごのコバエ問題がかなり深刻になってきていたのでバルコニーで土を入れ替える。どうしてコバエは人の顔の前を飛ぶのだろう。お昼寝後に買い物を済ませて、借りている駐車場に除草剤を撒いて帰宅。9連休あったはずなのに1日も休めていない気がする。子どもたちの笑顔を見ればなんだって越えられる気はするけれど、だからと言って疲れが取れるとは思えない。ただ最近感じるのは、子育てにはこの浮き沈みが必要なんじゃないかということ。いや、子育てじゃなくてもそう。幸せしか訪れない人生はきっとつまらないと思う。

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