マップルの話
【マップルの話】
昼、印刷したいものがあったので家の近くのセブンに立ち寄った。
ふと入り口のそばに目を向けると、懐かしいものが売られていた。雑誌サイズで分厚いその本は、黒い背景に赤いりんごが際立つ。黄色の文字で「Super Mapple」と書かれたそれは子どもの頃父親のレガシーのダッシュボードにいつも入っていたもので、よくペラペラめくっていたあの手触りと質量を思い出す。
ずっと立ち読み程度に弄ばれているだろうマップルは、きらきらとまう埃の混じる陽射しを浴びて、まるで日向ぼっこをする定年退職者のようだった。確かに、紙の地図はもう需要無いだろうなと物寂しい気持ちになる。
父と母は色んなところへ出かけたのだろう。父は車が好きで、運転も好きだ。ふたりがデートしていたころは黒のスカイラインだった。助手席でマップルを見ながら道案内をする母さんと、それを頼りに運転する父さんが思い浮かぶ。ふたりは幸せそうだ。
そんなふたりから生まれた私も、幸せなのだろう。