【映画感想】アナザーラウンド
「なんとなくしんどい」時ってあると思う。
仕事もプライベートもうまくいかない。決定的に悪いこと(例えば病気とか、事故に遭うとか)があるわけじゃないけど、なんだか気分が暗い。人との間に壁を感じる。
私もそういう経験が多々ある。
ついこの間も、恋人との間に壁を感じて辛かった。
…今回はその話はさておくが。
『アナザーラウンド』を観たのは、ちょうど恋人とのいざこざの後。まだぎこちなかったので、彼に黙ってひとりで観に行った。
結果。
すごく、よかった……!!!!
「人生は希望で満ち溢れている!」というテーマの映画は、よくある。『アナザー・ラウンド』も人生に希望を与える映画だ。けれど、例えば『グレイテスト・ショーマン』や『ラ・ラ・ランド』、『プラダを着た悪魔』とは違う。
どこが違うかというと、登場人物とストーリーから違う。言葉が悪いがとても、平凡だ。
主人公は、どこにでもいそうな40代の教師。妻と2人の年頃の子どもがいる。妻は夜勤もあり、生活はすれ違いだ。学校では歴史を教えるも、退屈そうな生徒たち。夢もなく、楽しみもない。40代の生活は徐々に、しかし確実に、悪い方へ向かうようだった。教師仲間でもある長年の友人もみな、家庭のあるものは家庭に悩み、家庭のないものは結婚出来なかった自分に負い目を感じている。
そんな彼らがある仮説の検証に挑む。その内容は「血中アルコール濃度を常に0.05%に保てば、仕事の効率があがり、人間関係も改善する」というものだ。この映画は、ありふれた悩みをかかえる、ありふれた主人公が、ありふれた、誰もが思いつきそうな方法で立ち直る映画だ。夢を求めてオーディションに挑戦したり、出世を目指したり、観客を感動させようとはしない。ただ現状の脱却を図るのみ。
主人公はまるで、等身大の自分のようだ。40代の日常も、不思議と20代の自分に重ねて真剣に体験してしまう。少し嬉しいことがあるかと思えば、幸せはその形を保つつもりがないようである。
作中のキルケゴールの「青春とは?夢である。愛とは?夢の中のものである」という引用には、観賞後、「しかし、」と続く言葉を誰もが考えたくなるだろう。
初めは、切なげな引用に悲壮感を感じてしまうが、最後まで観れば悲壮感は感じない。
自分が変われば変えられることもある。取り戻すこともできる。
私は、
「青春とは?夢である。
愛とは?夢の中のものである」
「しかし、
夢は何度でも見ることができる」
と信じたい。
✳︎
制作的観点でいうと、音楽も俳優のマッツ・ミケルセンも最高だった。
全て含めて、人生のバイブルとなりそうな良映画なので是非おすすめしたい。