介護から解放された日
_____________________________________________________________
[登場人物]
・私 (都会で夫と二人暮らし)
・夫
・お義母さん(夫の母・2023年秋から同居後、2024年に老人ホームに入居)
・お義父さん(夫の父・地方でお義母さん、弟と3人暮らしだったが2023年夏前に他界)
・弟(夫の弟・お義父さんの死後、うつ病統合失調症を発症し保護入院)
・叔父さん(3人兄弟のお義父さんの弟・妻と同地方で2人暮らし・子供なし)
・叔父さんの妻
・叔母さん(3人兄弟のお義父さんの妹)
_____________________________________________________________
特別養護老人ホームに入居する日の当日、
午前中からお義母さんの朝食作りから歯磨き、着替えなど
いつもどおり見守りと介助をする。
これで最後。そう思いながら、
お義母さんには申し訳ないけど高揚感が高まる。
予約しておいた介護タクシーにIKEAの大きな青い袋1つと、
旅行バッグ1つを積んでもらって、施設へと向かった。
お義母さんは少し不安と緊張感を漂わせていたが、
すんなりと上着を着てくれて、すんなりと車椅子に乗ってくれた。
お義母さんの性格が穏やかで、比較的強く拒否したり、嫌がって暴れたりしない人なので、この辺はとても助かった。
恐らく、いやなことがあっても私が話を聞いてはなんとなく宥めてきたのもある。
私もお義母さんの気持ちに寄り添う余裕が無くて、
お義母さんの「嫌」をさらりと交わしてしまっていたのだ。
自分のストレスを増やさない策としてしていた事だけど、
お義母さんの心にしっかりと私は寄り添えなかったな、と
介護タクシーの中で車窓を眺めながら思っていた。
施設に着くと、ケアマネージャーさんが迎えてくれて、
真っ先にお義母さんに声をかけてくれた。
「大丈夫?疲れてない?少し緊張してるみたいね。私のこと覚えてる?」
と、笑顔。
お義母さんの心に寄り添う余裕がなかった自分との違いに、
やっぱり私に介護は無理だったんだと思い知らされる。
介護を仕事にしている人は本当にすごい、と呆気に取られた。
お義母さんを同じ階で暮らす利用者さんに紹介してもらい、
一緒にリビングでおやつを食べている間に、
ケアマネージャーさんや看護師さん、事務職員さんなどに
契約を交わし、諸々の説明を受ける。
その後、お義母さんにあてがわれた部屋で荷解きをした。
とにかく広い。わりには家具が小さめのクローゼット以外なにもなく、殺風景。
荷解きをしたところでそのほとんどは洗面台とクローゼットに収まってしまい、生活感のない部屋に仕上がってしまった。
棚ぐらいは買わないとな、、と思いつつ、部屋をあとにした。
リビングで居るお義母さんに全ての用事が済んだので帰ると伝えた。
不安そうな顔に戻るお義母さん。
「また生活変わるからちょっと不便なこともあるかもしれないけど、
少しずつ慣れていくと思うから、何かあったらすぐ職員さんに言って。
来週、また〇〇(夫)さんと様子見に来るからね」
また来週来るというワードで、少し安心したような表情を見せた。
施設を出た私は軽快だった。
大した事もしていなかったのに、
まるで何年もかけて取り組んだ大プロジェクトが成功を収めて
大団円で終幕したかのような達成感。
施設内でつけていたマスクを外し、空気をいっぱい吸った。
もう介護しなくていい!
自分の時間が戻ってきた!
最高!!
顔のニヤケがとまらない。
地下鉄で数駅ある自宅までの距離を、なんと歩いて帰ってしまった。
途中ひとりランチもした。
スタバでコーヒーなんか買ってしまった。
歩きながらコーヒーをのみながら、
街が煌めいて見えた。
多少罪悪感を抱えたままでもいいじゃないか。
ほとんど会話したことがなかったお義母さんを、
必要に駆られて同居しないといけなくなってから私はがんばった。
たった3ヶ月だけどがんばった。それでいいじゃないか。
がんばったんだから。
罪悪感が開放感を消していく。
それを言い訳が慰めてまわる。
スッキリしないまま、静かな部屋が戻ってきた我が家で、
夫と私は久しぶりにぐっすり寝た。