#152 腸内環境に形成されるバイオフィルムは腸管粘液表面に存在する。
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現役の研究者である鈴木大輔が、腸内細菌にまつわるエピソードをお届けしております🦠
今回のエピソードでは、腸内環境に形成されるバイオフィルムに関する最新の研究についてお話します。この研究は、2023年1月23日に発表されたもので、なんと今週の月曜日に生まれたできたてホヤホヤの成果です。本成果は、Journal of Experimental Medicineに掲載されている"Gut microbiota biofilms: From regulatory mechanisms to therapeutic targets"に掲載されていて、腸内細菌叢のバイオフィルム形成についてレビュー論文の形で論じています。感染症などと密接に関係するバイオフィルム形成ですが、腸内環境ではどのような役割があるのか、早速お話していきます。
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腸内環境におけるバイオフィルムは、腸管粘液表面に形成される
この論文のスタンスとしては、健常者においては腸管の粘液表面にバイオフィルムが形成されれ、バイオフィルムと宿主の関係が崩れることで疾患発症の一因になりうるとしています。つまり、腸における疾患発症の素因は、だれもが抱えていると言えるでしょう。
腸内環境において腸内細菌叢が取りうる形態としては、プランクトンとして浮遊性の状態で存在する場合と、バイオフィルムとして腸管表面に定着する場合が考えられています。また、これらの形態は相互に関係しており、成熟したバイオフィルムから一部の細菌がプランクトンとして浮遊性の形態になることも明らかとなっています。
バイオフィルムの形成が疾患に関連することも報告されており、炎症性腸疾患や大腸がんに関連するとされています。バイオフィルムの形成過程はプロテアーゼや酸素、鉄代謝など様々な宿主要因を受けて変化することを報告されています。このような宿主とバイオフィルムの相互作用は、皮膚、肺、膀胱でも起こることが研究されています。
また、バイオフィルム形成を促す生物も確認されるようになりました。食中毒の原因となるCampylobacter jejuniやGiardia種の感染モデルから、これらの感染が常在菌における病原性遺伝子の活性化を促し、バイオフィルム形成につながることが見いだされています。これによって、腸内細菌の腸管上皮細胞への接着能力が増加すること、付着に伴い大腸炎が悪化することが明らかとなっています。
腸内におけるバイオフィルム形成についてのまとめ
腸内についてのバイオフィルム形成についてまとめると、健常者においても疾患患者においても腸内環境にてバイオフィルムは形成されています。今日においては、バイオフィルム形成が問題なのでは無くバイオフィルムの乱れや腸管上皮細胞への細菌の接着が、疾患に関連すると考えられています。
この論文では、結論の部分で、以下のようにも述べています。
腸内細菌の善玉菌や悪玉菌といった分類は、明らかに単純化しすぎた腸内細菌に対する解釈であるということです。なぜなら、通常の状態では安定的なバイオフィルムを形成する無害な細菌であっても、環境圧によってバイオフィルムからプランクトンとして有利したり、他の微生物の影響を受けて病原性を発現するなど、白黒つけることは難しいからです。
腸内におけるバイオフィルムへの理解は、まだ始まったばかりですが、今後バイオフィルムに対する理解が医学や薬学で重要になっていると室長は考えています。以上、2023年現在の腸内環境とバイオフィルムの関係について分かっていることをお話しました。
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本日も一日、お疲れさまでした。
参考文献
1) Buret, Andre G, and Thibault Allain. “Gut microbiota biofilms: From regulatory mechanisms to therapeutic targets.” The Journal of experimental medicine vol. 220,3 (2023): e20221743. doi:10.1084/jem.20221743
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