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#150 腸内にバイオフィルムは形成されるのか?2015年時点の知見を概観する。

毎日夜19:30に更新中!腸内細菌相談室。
現役の研究者である鈴木大輔が、腸内細菌にまつわるエピソードをお届けしております🦠

今回のエピソードでは、腸内環境とバイオフィルムに関連したお話をしていきます。バイオフィルムは、水のあるとこに頻繁に見られる固体表面の微生物コミュニティです。歯には歯垢としてバイオフィルムが確認されますが、消化管、例えば腸内環境はどうでしょうか?水で満たされているし、沢山の腸内細菌もいますが、細菌がマイクロコロニーの形成を経てバイオフィルムを形成できるかどうかは難しい問題です。ヒトは、上皮細胞の一部から粘液を分泌することで粘液層を形成しています。粘液層は外粘液層と内粘液層に分けることができますが、通常内粘液層には細菌がほとんど存在しないことで知られています。外粘液層は、言葉の通り液体なのでバイオフィルムが形成されるのは難しそうです。このように、腸内環境とバイオフィルムの関係は難しいので、先人の知恵を借りることにしましょう。今回は、2015年WN. de Vosの"Microbial biofilms and the human intestinal microbiome"を元に、お話していきます!

このお話は、聴いて楽しむポッドキャストでも公開しております!ぜひ遊びに来てください!

腸内環境におけるバイオフィルム形成の知見は食事や便のバイオフィルムに関する研究を参考にしている

まず、結論からお話すると、腸内環境におけるバイオフィルムの存在について調べた論文は、かなり少ないということです。つまり、腸内環境とバイオフィルムの研究分野は発展途上であるといえます。

その中でも、腸内環境におけるバイオフィルム形成について、実験的な工夫をした上で論じる研究があったりします。例えば、微生物に被覆された食品粒子の顕微鏡による観察、発酵試験などです。腸内において粉砕された食品粒子が存在することは容易に想像できますし、発酵も常に行われています。つまり、腸内において起こっている現象を体の外で再現したときに、バイオフィルムが形成されるのかを確認するのです。このタイプの先行研究では、食品粒子に付着した細菌叢は、その他の環境に存在する細菌叢と比較して異なることが示唆されています。つまり、腸内においてもバイオフィルムは形成されていそうだということです。

腸管にバイオフィルムは形成されるのか?

でも、本当に興味があるのは、私達の腸管にバイオフィルムが形成されるのかということです。バイオフィルムが形成されると、特殊な細菌叢構成によって私達の健康や疾患に深く関係することが考えられるためです。

まずは、大腸の上皮細胞を含む粘膜生検体についての解析についてですが、この検体には糞便や腸管内容物とは異なる細菌叢が確認されています。つまり、腸の粘膜においては特殊な細菌組成を示すということです。実際に、粘膜から分泌されるムチンと呼ばれる粘性物質と結合する糖タンパク質を、様々な微生物が発達させていることが示されています。

しかし、観察事実としてはヒト腸管においてバイオフィルムが観察されていません。この原因としては、粘液層の存在が挙げられています。つまり、粘液層がバリアとなることで微生物は定着できないのではないかと考えられているのです。実際、粘膜層や粘液層の成長は早く、小さな細菌がバイオフィルムを形成するのは難しいのではないかと考えられています。

バイオフィルムが形成される可能性があるとすれば、成長速度がそれほど早くない粘液層や粘膜層への局所的な形成であることが考えられます。

さて、ここまでのお話は健常者に絞ったお話です。では、炎症性腸疾患患者についてはどうでしょうか。炎症性腸疾患患者の腸内では粘膜の乱れており、実際に粘膜を覆うバイオフィルムが形成されることが報告されています。つまり、疾患によってはバイオフィルムが形成される可能性があるということです。

ここまでのお話からわかるように、腸内環境におけるバイオフィルムの形成についての知見は、2015年の時点は不足していました。腸内環境においてバイオフィルムの形成を難しくしている原因としては、粘液層や粘膜層の成長の速さなどが関係しています。2020年以降のバイオフィルムと腸内環境に関する研究については、次回のエピソードでお話していきます!

以上、2015年時点の知見から腸内にバイオフィルムは形成されるか否かについて議論した研究のご紹介でした。

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本日も一日、お疲れさまでした。

参考文献

de Vos, Willem M. “Microbial biofilms and the human intestinal microbiome.” NPJ biofilms and microbiomes vol. 1 15005. 25 Mar. 2015, doi:10.1038/npjbiofilms.2015.5

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