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#11 フィジー諸島の閉鎖的な社会では、ヒトの細菌はどれくらい似るのか?

現役の腸内細菌研究者がお届けする、腸内細菌相談室。
室長の鈴木大輔です。

本日は、社会の中で細菌がどのように移動、伝搬していくのかを調査した興味深い研究を紹介します。 (参考文献は文末に添付)

ヒトのもつ細菌叢は、ただそこに存在する細菌以上の重要な意味を持ち、今ではもう一つの臓器として考えられているほどです。

しかし、日常的な対人接触が細菌叢組成の形成に及ぼす影響については、ほとんど知られていません。著者らは、フィジー諸島の比較的「閉鎖的」な287人の集団において、個人の腸および口腔マイクロバイオームにおける推定上の細菌伝播を調べました。

この内容はポッドキャストでもお楽しみいただけます!

調査対象と方法

今回の調査は、フィジー諸島のバヌアレブ島の互いに約50マイル離れた2地区、5つの村に住む約300人の腸内・口腔内マイクロバイオームのインタビューとサンプリングで構成されています。サンプリングはすべて4週間以内に行われています。

各世帯主に対しては、調査の一環としてたとえ血縁関係がなくても、その世帯のすべてのメンバーを含む家系図を提供してもらいました。特に、結婚している場合は配偶者の名前と、子供の数と年齢を報告していもらいます。また、夫婦の同居年数は、一番上の子供の年齢から推定しています。

多くの細菌について弱い伝播パターンが確認され、家庭内と配偶者間では強い伝播パターンが明らかになった

ヒトの細菌叢は、長い期間にわたり、構成が安定していることから、菌のやりとりがなされているのかという疑問が湧いてきます。

ここでは、細菌の伝播を評価するため、遺伝子型の存在が共通していることを伝播としています。ここでの遺伝子型は、一塩基多型、つまり1つの塩基配列レベルで遺伝子型を分類する手法が使われています。一塩基多型のことを、英語でSNPs(スニップス)といいます。

結果、腸内細菌および口腔内細菌の両方において、細菌の伝播パターンが確認されました。

家庭内では、母子間、そして最も顕著なのは、遺伝的血縁関係のない配偶者間で、腸内細菌叢に高いレベルの株の類似性が確認されました。同居期間の長さは、菌株の非類似性の指標と弱いながらも正の相関があり、これは親密さやライフスタイルの長期的な変化を反映しているのかもしれないことを示しています。

伝播パターンが確認された生物について、全体としての共通性は確認できず、個々のペアに応じたものでした。ここから、細菌の伝播は存在量に影響を受けると仮説を立てて検証したが、仮説は肯定されませんでした。

また、疫病が蔓延する際に考えられるスーパースプレディングを、今回の調査にも適用して考えてみます。このモデルは、社会的ネットワーク内の特定の個人がネットワークレベルの全体的な伝播に及ぼすという考えに基づいています。この研究では、スーパーシェアリングと呼ぶことにします。

腸内細菌叢のスーパーシェアリングが強い個体は、口腔内細菌叢のスーパーシェアリングと状況が異なることから、常在菌の伝播経路の違いが示されました。また、ネットワークを考える上で重要な次数(接続数:degree)や中心性(centrality)とスーパーシェアリングの関係は確認されませんでした。

また、腸内細菌叢や口腔細菌叢の共有は、女性間での関連が強く、年齢との関連は有りませんでした。これには、職業や生活にともなう行動習慣の違いが性差を生み出しているのでは無いかと考察しています。

今回の研究の要点をまとめると、

  • 細菌の伝播が確認された

  • 家庭内では、母子間、そして最も顕著なのは、遺伝的血縁関係のない配偶者間での伝播が示唆された

  • 腸内細菌叢や口腔細菌叢の共有は、女性間での関連が強く、年齢との関連はなかった

前回のポッドキャストでお話したように、ヒトに住まう細菌を個性として考えると、個性が伝播していくというのは不思議であり、面白いと感じます。

今回は、①閉鎖的な島の中、②大規模な研究能力があるからこそ実現した、社会の中での細菌の移動に着目した研究をお届けしました。

現在、Twitter、Instagramにて、①腸内細菌、②腸内環境、③腸活に関する質問を募集しています!沢山の質問、待っています。Twitter、Instagram、Note、Spotifyのフォローも、お待ちしております。

それでは、本日も一日、お疲れさまでした。

参考文献

Brito, I.L., Gurry, T., Zhao, S. et al. Transmission of human-associated microbiota along family and social networks. Nat Microbiol 4, 964–971 (2019). https://doi.org/10.1038/s41564-019-0409-6

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