#138 腸内の毒素産生菌を増やす食事とは？
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現役の研究者である鈴木大輔が、腸内細菌にまつわるエピソードをお届けしております🦠
今回お届けするのは、大腸がんの発症に関連するとされるコリバクチン産生菌のpks陽性大腸菌を増やす食事についてのお話です！前回のエピソードまでに、コリバクチン産生菌は色々と知られるようになってきて、かつ腸内環境に普通に検出される腸内細菌であることや、大腸がんの発症にコリバクチンがつながるメカニズムについてのお話をしてきました。しかし、統計を理解するだけでは、自分の大腸がんリスクを減らすことはできません。そこで、大腸がんのリスクファクターとしてコントロールできる食事についてのお話をしていきます！
このお話は、聴いて楽しむポッドキャストでも公開しております！ぜひ遊びに来てください！
コリバクチンの復習
まずは、コリバクチンの復習からしていきます。コリバクチンとは、ヒトのDNAを損傷させる毒性をもつ、遺伝子損傷性毒素です。コリバクチンと大腸がんの関係は古くから研究されており、大腸菌やクレブシエラなどの腸内細菌が産生することで知られています。現在では、コリバクチンが大腸がんのリスクファクターの１つとして認識されています。ここで、注意点としてはリスクファクターとして認識されているだけで、コリバクチンが大腸がん発症の決定的な要因では無いことには注意が必要です。
コリバクチンを作る腸内細菌を減らしたい
ここで、コリバクチンを作る腸内細菌を減らしたいという欲求が生じてきます。コリバクチン産生菌を減らすことは、私達に対するDNA損傷のイベントを減らすこと、ひいては大腸がんの発症リスクを減らすことに繋がると考えられるためです。
そこで、腸内細菌叢に影響を与える要因として、食事に着目します。私達の摂取する食事は、直接腸内細菌にとっての餌になります。腸内細菌と一括に表現しても、何を食べるか、何を排出するかは様々です。ですから、食事を変化させると、食事に応じて腸内細菌叢も変化することになります。
今回のエピソードでご紹介する研究は、ハーバード大学と熊本大学の共同研究で、西洋式の食事に注目しています。西洋式の特徴としては、加工肉を始めとする肉を多く摂取することが挙げられます。この研究では、肉の摂取量とコリバクチン産生菌である大腸菌の関係を調査していきます。
研究対象は、アメリカの2つの集団で、134887名の参加者について前向き研究をしていきます。4年ごとの追跡を行い、食事の内容を詳細に調査します。また、追跡期間中に発生した大腸がんの腫瘍から、コリバクチンを作れるpks陽性大腸菌のDNAを調査していきます。
西洋式食事スコアと大腸がん罹患者の関連を解析した結果、pks陽性大腸菌が腫瘍に存在する場合に強くでることがわかりました。つまり、pks陽性大腸菌が関連していると考えられる大腸がんについては、西洋式の食事スコアが高い傾向にあったのです。
これは、加工肉を豊富に摂取する西洋式の食事が、pks陽性大腸菌による大腸がんの発症に関連していることを示唆しています。
この結果は、2011年Chanらの、加工肉や赤肉などが大腸がんの発症リスクを有意に高めるという研究結果にも一致しています。
今回紹介した研究は、2022年10月に発表された論文なので、生まれて3ヶ月の新しい知見です(2023年1月現在)。ですから、大腸がん発症リスクの食事によるコントロールは、今後期待される研究内容です。今回は、その一例として、 腸内の毒素産生菌を増やす食事についてお届けしました！
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参考文献
Arima K, Zhong R, Ugai T, Zhao M, Haruki K, Akimoto N, Lau MC, Okadome K, Mehta RS, Väyrynen JP, Kishikawa J, Twombly TS, Shi S, Fujiyoshi K, Kosumi K, Ogata Y, Baba H, Wang F, Wu K, Song M, Zhang X, Fuchs CS, Sears CL, Willett WC, Giovannucci EL, Meyerhardt JA, Garrett WS, Huttenhower C, Chan AT, Nowak JA, Giannakis M, Ogino S. Western-Style Diet, pks Island-Carrying Escherichia coli, and Colorectal Cancer: Analyses From Two Large Prospective Cohort Studies. Gastroenterology. 2022 Oct;163(4):862-874. doi: 10.1053/j.gastro.2022.06.054. Epub 2022 Jun 24. PMID: 35760086; PMCID: PMC9509428.