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#153 腸内で形成されるバイオフィルムのお話。

毎日夜19:30に更新中!腸内細菌相談室。
現役の研究者である鈴木大輔が、腸内細菌にまつわるエピソードをお届けしております🦠

今週は、腸内環境とバイオフィルムという、ちょっとニッチなテーマについてお話してきました。ニッチである理由としては、腸内環境について、あるいはバイオフィルムについての研究は無数に存在するのに対して、腸内環境におけるバイオフィルムの研究は非常に限られている点にあります。例えば、アメリカ国立医学図書館の文献検索エンジンであるPubMedによると、腸内細菌叢である"gut microbiota"の検索結果は63302件、"biofilm"の検索結果は72888件ですが、"gut microbiota biofilm"の検索結果は598件と1/100以下となってきます。一方で、大腸がんや炎症性腸疾患関連菌にはバイオフィルムの形成能力が確認されていることから、腸内環境とバイオフィルムは重要な研究テーマでしょう。

では、今週の総括として腸内環境とバイオフィルムのお話をしていきます!

このお話は、聴いて楽しむポッドキャストでも公開しております!ぜひ遊びに来てください!

バイオフィルムとは何か?

まずは、バイオフィルムとは何かというお話から復習していきます。バイオフィルムとは、固体表面に形成される微生物と微生物の作り出す物質が形作る構造体を指します。なので、バイオフィルムは微生物コミュニティであると理解しましょう。

バイオフィルムは、地球上の水のあるところには必ずといって良いほど存在すると考えられています。水垢や歯垢が、私達の生活の中でも馴染み深いバイオフィルムです。バイオフィルムは、非常に強固な構造であり、物理的な破壊をしなければ除去することが難しいとされています。ですから、毎日の歯磨きやフロスによる歯垢の除去が大切になるのでした。

では、何も無い固体表面にバイオフィルムはどうやって作られるのでしょうか。水中には、タンパク質やイオンなど様々な溶質が溶けています。これらは、常に固体表面との吸着と脱着を繰り返します。その中でも、固体表面と親和性の高い物質が吸着し、コンディショニングフィルムと呼ばれる層構造を形成します。この上に、細菌が吸着と脱着を繰り返し、一部の細菌は吸着するという順序です。固体表面に吸着した細菌は、増殖、菌体外多糖の分泌を通して、バイオフィルムの足がかりを作ります。固体表面に存在する細菌の数が増え、やがて微生物コミュニティとしてのバイオフィルムが完成します。

バイオフィルム形成の際には、細菌同士がコミュニケーションを取ることが知られています。もちろん、私達のように目や耳が無いので、細菌達は自己誘導因子と呼ばれるホルモン様物質を体外に分泌し、この濃度によって周囲の細菌密度を感知する仕組みを備えています。この仕組をクオラムセンシングと呼び、バイオフィルム形成や病原性遺伝子の発現などに関与することが分かっています。

このように、小さな世界の会話によって形作られるバイオフィルムですが、腸内環境にはつくられるのでしょうか?

腸内環境におけるバイオフィルム形成

結論として、腸内環境でもバイオフィルムは形成されるというのが、最新の知見によるところです。この知見は、ここ数年の研究によるところが大きく、2015年の時点ではあまり詳しくは論じられていませんでした。

しかし、2021年や2022年には腸内環境におけるバイオフィルム形成の重要性が論じられるようになり、潰瘍性大腸炎を含む炎症性腸疾患や大腸がんなどの消化器疾患に関連するとされています。

また、2023年の最新の論文では、基本的には腸管の粘液表面にバイオフィルムが形成され、バイオフィルムと宿主の関係が崩れることが疾患の発症の一因になりうるとしています。

いずれにしても、腸内環境とバイオフィルムの研究は発展途上です。今後も進展があれば、こちらで報告させていただきます!

以上、腸内環境とバイオフィルムの関係についてのお話でした。

来週のテーマについて

さて、来週のテーマですが、腸内環境とリーキーガット症候群についてのお話をします。リーキーガット症候群の理解には、腸管上皮細胞の緊密な連携や腸内細菌叢との関わりが重要に成るので、この点について詳しくお話していきます!

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