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エヴァンゲリオンのパイロットとして目覚めた日

プロゲーミングチーム所属ではなくなり、個人事業主――悪い言い方で言えば無職になり、やるべきことは何なのか。

それはパチンコだ。

この考えが無職とパチンコに強い紐づきがあるという偏見200%のステレオタイプであることを否定しない。それでも、僕の心の中ではプロゲーマーがゲームに向き合わなければならないのと同様に、無職はパチンコと向き合わなければならない気がしていた。

念のため言っておくと、チームの所属期間中にパチンコ店に行くことを禁止されていたわけではない。ないけれど、公人たるプロゲーマーがパチンコ店に入り浸っていては何かしらの反感を抱かれても不思議ではない気がしたから、僕はパチンコ店を意識的に遠ざけていた。つまり、プロゲーミングチームに所属していない今のタイミングこそ、パチンコを打ちにいく絶好のタイミングなのだ。

最近、何故パチンコ店が流行っているか確かめるために一か月パチンコ生活をしていたコイチさんという人がいる。噂によれば一か月生活を終えても足しげくパチンコ店に通っているらしい。文章を読む限りでは何故流行っているのかどうかはもう十分確かめられた気がするのだけれど、パチンコにはまだ確かめたい何かがあるんだろうか。

コイチさんに限らず昔は格闘ゲームやカードゲームが強かった中年のおじさん達が最近パチンコ店に入り浸っているのをLINEグループで確認していたので、一報を入れ、先輩方のご指導を承りに行くことにした。

「おれは打ちませんが」という力強い言葉と共に同伴してもらった。

当日

パチンコ店が開店する10時前に集合してびっくりしたのは、上野にはこの時間から開店している居酒屋があることだ。パチンコ店の整理券をもらってから早朝から居酒屋にいくことで、

酒⇒パチンコ⇒昼食に酒⇒パチンコ⇒酒

というコンボが決められることを教えてもらった。『GGXX』のソル=バッドガイで特定の技を複数回当ててループコンボを決める、通称Dループを思い出した。格闘ゲームおじさんは、歳を取って現役から退いても、別のところでループコンボを決めている。

開店前、どんな台に座ればいいのかまったくわからなかったので、今は何が面白いのか聞いてみたところ、満場一致で「エヴァに乗れ」と返ってきた。今のパチンコはエヴァに乗るのがメタらしい。実際訪れた店舗でもエヴァのパチンコの台数は群を抜いて多く、その人気を伺わせるものだった。

整列してパチンコ店に入るあの独特の高揚感を味わいながら、数年ぶりに入ったパチンコ屋はキレイだった。僕が昔行っていたころから既に分煙化は進んでいたが、今ではたばこの匂いもなければ、台の音量も控えめだ。そして店内が明るい。変わった人達がそれなりにいるのは昔から変わらないものの、思いのほか治安が良い場所になっていて驚いた。

その日の結果だけ先に言えば、勝った。それも、途方もなく。朝から4000円も使ったところで運よく大当たりし、それから僕の知らない黒いエヴァンゲリオンに乗り、カヲル君と会い、心地よく振動するレバーを押し込んでエヴァンゲリオンを動かすなどしていたら、出玉が増え続けた。勝っているので当たり前なのだけれど、この台は確かに面白いと思った。体感型エンターテイメントの最先端を走るパチンコ台の神髄を見た。人間を興奮させる演出とはこうであると言われているほど完璧だった気がしたし、いちいちドキッとさせたりワクワクさせたりする仕組みが唯一無二だと思った。

僕の隣で打っていた青年は、僕の台のことをことあるごとにのぞき込んでくる人だった。はっきりいってうっとおしかったのだけれど、僕が朝からラッシュを続けまくるものだから、8連続目の大当たりが確定したあたりで台の横についている飛沫ガードをピシャッと開いてきた。コロナ期間中も頑張って営業していたと思われるパチンコ店の工夫、飛沫ガードの思いもよらない使い方。そしてあまりにも勢いよく飛沫ガードを広げるものだから、なんだかちょっとおかしかった。

皮肉にも飛沫ガードされた後も順調に大当たりを繰り返し、最終的には40000発ほども出してしまった。あまりにも出来すぎていて、中年のおじさん達が師と仰いでいるT田さんに「これは年一レベル」とまで言わせてしまった。このとき、僕の天職はエヴァンゲリオンのパイロットなのだと思った。僕が使徒から地球を守らなければ、この星は滅んでしまう。

例えばこれが僕のはじめてのパチンコ屋だったとしたら、このままパチンコにのめりこみ、数年間を費やすことになっても全くおかしくなかったと思う。恐ろしい話だ。過去の無職だった時代にパチンコ屋に十分通っていて、ギャンブルがなんたるかを学んでいてよかったと思った。若いころに経験しておけというのは最近になってしみじみと感じることで、若いころにインターネットで恥ずかしい思いをしたのも大事だったし、パチンコ屋に通っていたのも大事なことだった。大事なことは、後になってわかる。

その日は早めに切り上げて、周辺の店でお酒を飲むことになった。帰りの飲み会で「ちょもすは格闘ゲーム十分上手いよ。お前の尖ったところを削っていくと格闘ゲームのプロゲーマーになる」と格闘ゲームが上手い人から言われたのはなんだか嬉しかったし、学びでもあった。

結局、パチンコはきっかけでしかなくて、近しい感性の人が集まって雑談することに意味があって、学びがあって、その先がある。今集まってるこの人達も、そういうところに魅力を感じているんだろうと思った。コミュニケーションが主体なのであって、パチンコやギャンブルが主体にあるわけではないのだ。この人達はギャンブル依存症なのではないか?という僕の心配は杞憂だった。

2~3杯お酒を飲んだところで、飲み屋を出て解散した。久々に非日常的で充実した休日を過ごせた余韻に浸りながら帰りの電車に乗っていると、僕のスマートフォンにLINEの通知がポップアップした。

そこに送られてきたのは、その日負けていた人達が解散後にもう一度パチンコ屋に赴き、パチンコの演出で狂喜乱舞している動画だった。中年のおじさん達が、パチンコ店でまたしてもおおいに盛り上がっている。解散とは、一体なんだったのか。

前言を撤回しよう。ギャンブルは恐ろしい。自分もいつだってこうなりうるのだと強く自戒しながら、これからもエヴァンゲリオンのパイロットとして地球を守ろうと誓った。


使徒は、僕が倒します。

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