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「かつ、かつと回廊に足音が響き渡る。」
ちょっと読み進めて、さてこれは誰の足音だったかと思いました。
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日向夏著『薬屋のひとりごと3』(主婦の友社、2015)
物語としてはですね、1巻2巻で積み上げられてきたわずかな 謎、というか違和感を、さらに補強するような謎が追加されていきます。
これが薬屋のおもしろいところ。
ひとつひとつの事件は解決するし、猫猫や壬氏がどうこうするわけでもないんですが、そこになんとなく違和感が残る。
これが巻をまたいで連なっていって、だんだん大ごとになっていきます。
まるでバタフライエフェクトのような、些細な違和感。
それが物語全体を覆っているような感じです。
さて、冒頭については、これが誰のものか明記されないものの、壬氏の夢だということがわかります。
けっこうわかりやすく不穏な夢ですよねぇ……
というか、「かつ、かつ」という足音って、なんか不穏じゃないですか?
擬音語ってすごいですね。
この夢の表していることがあまりに曖昧なこと。
それは壬氏という人物の曖昧さそのもののようにも思えます。
薬屋の3巻は壬氏の夢ではじまり、そして壬氏の現実で終わります。
今まで曖昧で夢のような存在だった壬氏が、だんだんと現実味を帯びた存在になっていきます。
こうだと思っていた人物が、実はそうではなかった。
夢の中の壬氏が勘違いしていた、おそらく意図的にそうさせられていたように、猫猫もこうだと思っていた人物が実はそうではなかった、というのを知らされていきます。
が、ことなかれ主義の猫猫なんで、全力で無かったことにしようとしますが。
そりゃそうだよ、貴人の秘密など知りたくないよ、面倒だもの。
まあ、ここを転換点として、壬氏は猫猫にもっと絡むようになるし、猫猫はお偉いさんのあれこれに深く首を突っ込むことになるわけですが。
物語だからね、仕方がないね。
薬屋は表向きの物語がころころと転換していく一方で、本題は亀のように歩みが鈍いのが特徴のような気がします。
読み返すとわかることがやまほど。
じっくり楽しみたい人にとっては、いい作品だなあと思います。
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