それは忘却を上書きする再演のIF ~CHAOS;CHILD(カオスチャイルド)感想・考察~
※本編を履修済みであることが前提の記事ですので、未プレイの方が読むことは御遠慮ください
今回はカオスチャイルド本編ではなく、カオスチャイルド らぶチュッ☆チュッ!!(以下「LCC」と呼称)についてちょっと考えてみたいと思います。
LCCのTRUEでは、それまで通過してきた個別ルートの正体が妄想シンクロが見せた夢であることが明かされます。
これはある意味で本編における個別ルートの正体に対する答え合わせという意味合いもあったように思います。
つまり本編で見た個別ルートはTRUEとパラレルな関係にある偽史ではなく、LCCにおいてそうであったように、全て「妄想シンクロを通じて、拓留とヒロインたちが実際に経験したこと」だったのではないでしょうか。
そのあたりの考察についての詳細は以下の記事に書いておりますので、気になる方は別途そちらを御覧ください。
……話を進めます。
LLCと本編の最大の違いは、本編の個別ルートの記憶をヒロインたちは「覚えていない」のに対して、LCCでは「覚えている」ということです。
いわば本編で失われた個別ルートの記憶を、LCCでは少しばかり違う形で追体験するような格好になったわけですね。
例えば有村雛絵ならば、拓留の住むトレーラーに転がり込んでくる。
例えば山添うきならば、橘結衣が生きている幸せな日常(なので形式上は結衣ルート)。
例えば香月華ならば、能力の暴走により引き起こされる騒動。
……とまあこんな具合です。
そんなLCCのプレイ当初、私の中で最も評価が高かったのは雛絵ルートでした。
というのも彼女のシナリオはストレス要因が薄く「らぶチュッ☆チュッ!!」というフレーズから期待させられる甘く能天気なイメージに最も近い内容だったからです。後はシンプルに話の出来が良かった。
雛絵シナリオに対する高評価は今でも変わりがありませんが、最近になって個人的に再評価が進んでいるのが乃々シナリオです。
当初、LCCにおける乃々ルートに対する私の印象は必ずしも良いものではありませんでした。もちろん良い部分もいっぱいあるのですが、拓留を見舞う事態が、
「だんだんと笑い事じゃすまなくなってくる」
ことが本編で起きた陰惨な事件の記憶を嫌が応にも私に思い出せてくれます。
本編は本編で名作だとしても、これはあくまで「らぶチュッ☆チュッ!!」です。バカンス気分で浮かれていたところに水を差されたような気分、とでも言えばわかりやすいでしょうか。
……しかしながら、今になって思うのは「ああ、これはいわば本編の再演なのだな」ということです。そして再演であることにこそ、このシナリオの大いなる意義がある。
ここでちょっと軽く本編のおさらいをしてみましょう。本編では、
「泉理の抱えている秘密が一端となって拓留の身に危機が迫る」
という事態が起きます。そんな中で泉理は、けっきょく最後まで自分から真相を打ち明けることができずに終わります。
TRUEでは眠っている間に変身が解けてしまって強制的にバレてしまいました。
そして個別ですら真相を暴露したのは世莉架であり、言い逃れのできない証拠を突き付けたのは拓留です。
TRUEのその後は、
「症候群の影響で南沢泉理の姿が来栖乃々に変化してしまい、泉理もまた自分が来栖乃々であると思い込んで今日まで過ごしていた」
と虚実を織り交ぜながら真相を伏せ、世間を欺いて泉理は過ごしています。事実を知るのは家族を含めた一部の関係者だけです。
一方で、LCCの泉理が置かれている状況もこれに似ています。
LCCの泉理は家族や仲間たちには真相を打ち明けつつも、対外的には来栖乃々を演じて日々の生活を送っています。
……そしてまた本編の出来事を再現するかのように、泉理の抱える秘密が一端となり拓留の身に危機が訪れる。
このとき、無実の罪で糾弾された拓留が取った選択は……あえて自らが罪を背負うことで泉理とその秘密を守ることでした。
あわや吊し上げという状況。そこに飛び込んできたのは乃々——泉理でした。
乃々——泉理は、皆の前で変身を解いてみせ真相を打ち明けます。
本編では最後まで真相を打ち明けられずにいた泉理が、LCCでは拓留を守るために自らの意志で正体を明かしたわけですね。
「大切な者を守るために秘密を抱えたまま全ての罪を背負う」
LLCでの拓留の行動は本編における彼の選択に重なるところがあります。
そして「真相を打ち明ける or 打ち明けられない」という泉理の逡巡と葛藤もまた、本編の彼女に重なります。
そのうえで、
「我が身とその秘密を守るため拓留ひとりに罪を負わせ犠牲にする、そんなことは絶対にしない」
という決意とともにLCCの泉理は、自ら衆目の前で真相を告白したと。
これは「本編では最後までできなかったことをLCCの泉理はできた」ということを意味すると同時に「本編のTRUEにおける拓留の選択に対する、泉理からの回答」でもあるのではないでしょうか。
「世莉架を守るために、秘密を抱えたまま一切の罪を背負う」
そんな拓留の選択を泉理なりに尊重しつつも、
「家族としてけして拓留を独りにはしないし、そのために世間に後ろ指を指されることになったとしても構わない」
という「これから」に向けての彼女の意志と覚悟を現しているような気がします。
後日談小説のChaos;Child -Children’s Revive-では、根気強く手紙を送り続ける泉理の熱意に対して折れるような形で、獄中の拓留からも返信の便りが送られ始めている旨が綴られています。
家族のことを想えばこそ、一度は家族との繋がりを断とうと決意した拓留。
そんな拓留に訪れた心境の変化——本編の最後から後日談小説に至るまでの――を補完するものになるのが、LCCで泉理が見せた覚悟ある姿だったのではないでしょうか。
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