210605 第5回講演及びトークセッションレポート その1
【講演】
小さな一歩からはじまる
まちの魅力を高めるまちづくり活動
【ゲスト】
杉崎和久さん(法政大学法学部教授)
【調布市 まちづくりプロデューサー】
髙橋大輔、菅原大輔
【ファシリテーター】
松元俊介
【記事および写真】
パカノラ編集処 代表 小西 威史
皆さん、お待たせいたしました。
いよいよこの調布市空き家エリアリノベーション事業もフェーズ2が始まり、まずは初回(フェーズ1からの通算で第5回)の講演&トークセッションを、6月5日に「FUJIMI LOUNGE」を会場にしてオンライン配信で行いました。
ゲストは法政大学法学部教授の杉崎和久さんです。都市計画や参加型まちづくりを専門にされており、東京や神奈川、千葉、京都など、全国各地で行われている住民主体のまちづくりに関わられています。
フェーズ2ではまちづくりに参加してくれる方をどうやって増やしていくか、「ひとづくり」がテーマになっています。杉崎さんには横浜市や京都市で行われている、まちの魅力を高めるまちづくりの事例をお話しいただきました。
とてもボリュームのある内容になっておりますので、今回はその1として講演を、次週にその2としてトークセッションをレポートいたします。
1.横浜市・ヨコハマ市民まち普請事業
空間を開くことから地域の魅力を創造する
今回の杉崎さんの講演の大きなテーマは、「小さな活動の積み重ねが、まちを変化させていく」ということでした。
最初に事例紹介されたのは、横浜市で行われている「ヨコハマ市民まち普請事業」について。これは地域の人たちが、まちの課題解決や魅力の向上のために施設整備をして、そのあとも自分たちで管理していくという取り組みに最高500万円の助成金を出すというものです。
杉崎さんは「まちづくりでは、ワークショップまでで終わってしまうことも多いのですが、この事業は具体の場所をつくったり、整備をして、まちづくり活動を前に進めていこうものです」と、その主旨を説明しました。
この事業からは、放置されていた湧き水もある里山を整備して親水と憩いの場にしたり、横浜に来る外国人が滞在でき、地域の人とも交流できる場所をつくる、というような取り組みが生まれています。
「この事業では2回、公開の審査があります。1次の審査ではアイデアと熱意、創意工夫と公共性が評価されます。1次では実現性は問われません。2次の審査へ進んだときに、実現性や費用対効果、地域まちづくりへの発展性が問われます。1次を通過した人たちは、そのアイデアを実現可能なものにするために仲間を集めたり、企画を充実させていきます。行政も『活動懇談会』という場を設けて、事業の先輩の話を聞く機会をつくったり、支援してくれそうな地元企業とのマッチングを手伝ったりします。そして2次の審査に進むのです」
この事例紹介の最後に杉崎さんは「ポイントは1次から2次の間です。1次の通過者たちは自分たちの思いに共感してくれる人を増やし、協力者を募っていきます。仲間の輪も広がるので、結果的に2次の審査を通り、助成を受けられた後、その取り組みが継続していきやすくなります」と話しました。
2.京都市・五条通界隈
まちの隙間からはじまる活動から地域の新たな価値を生み出す
続いては京都市の五条界隈での取り組み紹介になりました。杉崎さんは今、京都市在住なので「地元の話題」ということになります。
五条はJR京都駅の北側、中心部の四条烏丸、四条河原町がある四条通との間に位置する地域になります。まん中に幅員約50メートルの国道1号が通っているエリアです。
「かつては繊維業を中心とした伝統産業に関係する問屋や卸売りの店などがあってにぎわっていた場所だったのですが、繊維業の衰退とともに空きビルが増えていった地域です」と杉崎さん。
ただ、10年ほど前から古い社屋ビルをデジタルクリエイター向けの拠点に変える動きや、手仕事をテーマにしたリノベーションビルなどがいくつか生まれたことで、「五条界隈が今、おもしろいみたいだ」という雰囲気が出てきて、メディアでも取り上げられることが増えていったそうです。
「ビルの軒先を借りたクラフトマーケットが開かれるようにもなりました。我が家も『古本屋』で出店しました。その後も空きビルや空き家などを使ったコーヒースタンドやクラフトビールの醸造所、ゲストハウスなどが次々できるようになって、またメディアに取り上げられる、というような場所になっていきました」
この五条界隈は「行政的にはまったくノープランな場所でした」と杉崎さん。「でも、このエリアがおもしろそうだと若い人たちが集まるようになり、地元の人たちとも連携して地域の『隙間』を埋めていっています。自分たちでメディアを立ち上げて、老舗を紹介したり、盆踊りを復活させたり、買い物弱者向けの支援ビジネスを始める若者もいます」。ここでは今、まちをよくしていこうという個々の思いが集まって、自発的にまちが変化していっているそうです。
3.京都市・松原通界隈
地域にある多様な知恵を紡ぐ対話の場づくり
また、その五条の北側に位置する松原通でもまちの活性化プロジェクトが行われており、その事例も紹介されました。
「『松原通界隈活性化プロジェクト』が2011年から始まりました。中心メンバーは30年前、地域の小学校を統廃合するときにPTAをしていた方たちです。その後、地域のリーダー的存在にもなっていて、地域の歴史などを子どもたちに継承していきたいという思いで活動をされています。ここでも『松原通(みち)の駅』というマーケットイベントを開催しています」
「松原通の駅」では、商店街の店主が出店したり、まちの中にある劇団がこの地区ゆかりの義経と弁慶のパフォーマンスをしたり、児童館を利用している子どもたちがリアルな「お店」を出したりして、より地域と密着した内容になっているそうです。
杉崎さんは「松原通の駅」が始まった経緯について説明をしました。
「2014年のことですが、この地域でワークショップを開いて、まちを元気にしていくアイデアを住民たちで出し合いました。そのなかで『夜市』をやりたいね、というアイデアが出て、その1か月後に『昼の市』『夜の市』が開かれました。すごいスピード感です。その市が『松原通の駅』につながっています。ただ、なぜ1か月後にできたかというと、ワークショップの1年前から準備を始め、地域のいろいろな人に働きかけ、主旨を理解してもらって、参加してもらっていたからです」
杉崎さんは最後に、「まちを変化させていく活動はたくさんあります。それは一人のつぶやきから始まることもあって、誰かの『こんなまちだったらいいな』というつぶやきに共感する人が現れ、『いいね』の輪が次々に広がって、思いが実現していったりします。まずは自分も地域のイベントに参加してみるとか、対話に参加してみることで、まちの未来が変わっていきます。できることから始めていくのがいいのだと思います」と語り、講演を締めくくりました。 (つづく)