211009 まちの「つながり」プロジェクト 第7回講演及びトークセッション レポート
【講演】
暮らしと商いと地域の拠点
【ゲスト】
平田 悠さん
(月刊 商店建築 編集部)
【調布市 まちづくりプロデューサー】
髙橋大輔、菅原大輔
【記事および写真】
パカノラ編集処 代表 小西 威史
皆さん、こんにちは。
フェーズ2の第7回講演&トークセッションを10月9日、FUJIMI LOUNGEからオンライン配信で行いました。
(この第7回は当初、8月7日に予定されていましたが、新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から10月9日に延期開催となりました。)
ゲストは「月刊 商店建築」編集部の平田悠さん。テーマは「暮らしと商いと地域の拠点」です。
「月刊 商店建築」は1956年創刊の店舗デザインを紹介する専門誌で、平田さんは発行元である商店建築社に2017年入社、編集を担当しています。
「店舗のデザインや形態をとおして、まちを考えることは『商店建築』の大きなテーマの一つ。店のあり方からそのときの社会情勢や状況が見えてきます。コロナ禍において、商業空間がどのように変わってきているのか。また、ウィズコロナ、ポストコロナの時代に向けて、これからの店とまちの新しい関係性についてお話します」
そんなお話から始まった平田さんの講演を紹介します。
1.「不要不急」の中、必要不可欠な店とは?
創刊から65年の歴史を持つ「商店建築」では、高度成長、バブル期など、時代ごとの店舗デザインを世相とともに切り取り、紹介し続けています。
そして2020年から蔓延した新型コロナウイルス感染症。「商店建築」で普段紹介している店舗も、運営や経営面で深刻なダメージを受けました。
「『商店建築』ではコロナ禍に対し、どういうスタンスを取るべきかを考え、昨年7月号から『ウィズコロナ/ポストコロナを考える』という特集を4号連続で組みました。まずは建築家やインテリアデザイナーにアンケートをとり、どういう状況にあるのか、どんなふうに仕事を進めているのかを取材しました。その2号目でテーマにしたのが『〈職住一体〉と〈小商い〉の空間づくり』です」と平田さん。
「不要不急」という言葉がクローズアップされるなか、自分が暮らす地域にあって日常に根ざした店、暮らしの延長線上にある店、働き手にとってもお客にとっても、切実に必要不可欠な店とはなにかを考える特集でした。
2.コロナ後の「お店」を考える4つのキーワード
また、その後も切り口を変えて特集は続きました。
「その後の号では、『オープンエアな空間デザイン』をテーマにしました。『小商い』がどういうスタンスで店を開くかということだとすれば、『オープンエア』は手法に寄った特集です。ただ、小商いもオープンエアも、もともとコロナ前からあったスタイルで、コロナ禍でより注目されたと感じています」
そんな取材も踏まえ、コロナ後の商業施設がどんな特徴を持つようになっていくのか、平田さんは以下の4つのキーワードを挙げました。
①ショールーミング
②ディスティネーションストア
③キュレーションストア
④多目的店舗/無目的店舗
①ショールーミングとは「ショールーム化する店舗」のこと。Amazonや楽天市場などのネット通販に競合するのではなく、ECサイトでの購入を前提に、商品やブランドの世界観を伝えることを主題にした店舗です。買い物の体験が実空間だけで完結しないため、店の床面積あたりいくら売り上げないと採算がとれない、という考え方からも解放されます。
②ディスティネーションストアは、その店自体が目的地になる店。平田さんはその例の一つとして広島県にある「瀬戸内醸造所」を挙げました。このトークイベントの主催者側であるまちづくりプロデューサー・菅原大輔さんが設計を手掛けたワイナリーです。そこにしかない商品や体験を目的に、「わざわざ」行くプロセスまでもが価値になるような場所です。
③キュレーションストアは、店の人の「顔」が見える店です。「今やマスメディアより、個人のインフルエンサーのほうが説得力を持つことも多くあります。店主の顔が見え、『この店にあるんだったらきっと良いものだろう』と思ってもらえるような店です」と平田さん。
④多目的店舗/無目的店舗の多目的店舗は、個性的なお店がいくつも集まることで、「あそこに行けば何かに出会える」という期待感が生まれるような施設のこと。大型商業施設というより、コンセプトを共有して、プレイヤーが自然と集まるイメージです。
無目的店舗は、広場などを併設している店を指し、平田さんは例として群馬県前橋市の「JINS PARK 前橋」を挙げました。店の真ん中に大階段があり、店の横にも広場があります。「買い物が目的ではなくても、ふらっと立ち寄って、そこで自由な時間が過ごせる空間になっています。とりあえず来てもらうことで、コーヒーを買ったり商品を見たりと、事後的に購買活動を引き起こすことができます」と説明しました。
3.店づくりは、まちづくり
これからのウィズコロナ/ポストコロナの時代に、そんな特徴の店が増えていくという予測を踏まえ、地域と店の関係についての考察を平田さんは深めていきます。
「これまで鉄道網の敷設に始まり、生産地と消費地を分け、住宅から電車で1時間かけて職場に行くというような暮らしは、国や都市、社会全体の効率性から考えて特化してきたあり方だと思います。それで国全体、社会全体が成長できたわけです。でも人口が減少し、経済の成長も速度を落とし、一方で、SNSなどを通して多様な価値観が認められる時代に、これまでどおりに『社会』を主語に効率性を追い求めていていいのか? 『個人』を主語にした場合、通勤に1時間もかけることは、効率がいいとは言えないわけです」と指摘します。
そして豊かさの尺度も変化していくだろうと平田さんは言います。
「年に1回、特別なホテルのレストランで食事をするよりも、毎日のコーヒーをちょっといいものにするみたいな、ハレの日だけじゃなくて、ケを豊かにすることのほうが、最近の豊かさとして、リアリティが高いんじゃないのかなと思うんですね。非日常ではなく、日常の豊かさ。そうなったときに、自分が住むまちには家しかない、という状況よりも、心地よく過ごせる空間があったり、小さくても楽しい店があるほうが豊かだと思います。そうなったときにいい店をつくることって、いいまちをつくることに直結するだろうと思うのです。そのまちにしかない店が何店かあると、そのまち自体が唯一無二の場所になって、店の魅力がまちの魅力に直結していくのです」
最後に平田さんは「観光」についてもふれ、講演を締めくくりました。
「まちづくりを考えるときに、店と観光は無視できないと思います。例えば自分がどういうまちに観光に行きたいかというと、地元の人たちが生き生きと楽しそうにしている場所です。観光客のために観光案内所をつくるのではなく、地元の人が楽しめる場所があって、そこが結果的に『観光地』になっているような。目的が一つではない店のあり方にも、これからの可能性があるのではないかなと思います」
4.トークセッション
平田さんの講演後、平田さんと菅原、髙橋によるオンライン・トークセッションが行われました。その一部を紹介します。
菅原:今回は「暮らしと商いと地域の拠点」というテーマで、小規模な店舗のお話をお願いしたのですが、一方で、大きな商業施設の流れはどうなのか、まずは尋ねてみたいです。高級なホテルや百貨店、いわゆるブランド系の店舗などでは、人口減少やコロナ禍も含め、どのような変化が見られるでしょうか。
平田:コロナ以前から「ものが売れない時代」ということは、いろいろなところで言われていました。百貨店などは今、本当に厳しい状態だと思います。
その中で最近、傾向として出てきているのがOMO(Online Merges with Offlineの略、オンラインとオフラインの融合)で、新宿のマルイにメルカリの実店舗ができていたりします。ある程度、資本があるところはショールーミング化に乗り出していると思います。
今回のこのトークイベントもオンラインで配信されていますが、フィジカルな体験とデジタルな体験は相反するものではなく、リンクする時代になり、リアルとバーチャルが等価になってきています。百貨店などは、それに対応し始めています。
ホテルはやはり、コロナ禍で大変な状況です。客室をリモートワークで利用してもらうとか、サブスクの宿泊プランを始めたりという動きも耳にします。単なる対症療法的な取り組みで終わらず、社会状況に柔軟に対応することによってビジネスの持続可能性を高めるという意識は大事だと思います。
菅原:まちづくりと店の話に戻りますが、今回、このトークを視聴されている参加者のみなさんは、職住一体のまちづくりや、小商いに興味を持たれている方が多いです。そこで、小商いをした時の収益性のことなのですが、どこを目指しながら収益を確保し、生活の豊かさを実現すればいいのか。そのバランスのとり方などで参考になる話があれば聞きたいです。
平田:収益に関して言うと、やはり小さな店だと、そこで生まれる利益をスケール化させることはなかなか難しいことだと思います。ただ先ほどの例とつなげて話すと、週に1回、店を開くだけではなく、それをメディアとして、「ECでもやっているから、こっちでも買ってね」という、ファンを増やしていくことがこれからの小商いなのかなと思います。共感ベースです。
ただ、収益を第一の目的にしていない方も多いと思います。電車に乗って都心の会社に行くライフスタイルから、自分の好きなことをやりつつ会社にも行くというふうに、暮らしを自分の手に取り戻すための手段として、小商いがあると考えてみるのもいいのかもしれません。
菅原:それは講演の中で話されていた、主語の変化の話につながっていきますね。社会の効率性を主語にしたまちづくりを、個人を主語にして考えてみると、まちのあり方が変わってくるという。
マーケティングや効率性からではなく、自宅の駐車場が空いているから店を出してみるとか、個人の延長線上にある場所が立地場所になる。そこで週末だけ自分の趣味のコーヒーを振る舞うというような。その店でその人の個性やキャラが出せれば、それがその地域の特徴的な店になり、平田さんが言う「店づくりがまちづくりになっていく」ということにつながっていくのでしょうね。
髙橋:店の個性がまちの個性につながっていくということで言えば、コロナ禍でどこにも行けなくなって、ふと自宅の周りを見回したときに、実はいい店が近くにあって、うまい料理が食べられることがわかったとか、歩いて行ける場所におもしろみのある場所を見つけて、自分のまちを再発見するということも広がってきています。
平田:その土地のローカルを楽しむ、その土地の日常を楽しむことが、観光のトレンドにもなっていますが、それがその土地、街の人にどう還元されるかというと、「自信」なんだと思います。自分たちは何とも思っていなかったことが、外から来た人は楽しんでくれるという状況で、シビックプライドが醸成されます。自分たちがやっていることに自信を持てるようになると思うんですね。
髙橋:そしてそんな店が増えるようになると、地域の人の雇用も増えますよね。そうすると、その地域への愛着も育まれます。
あとは回遊性が生まれることも大事なことで、まちの中に商業店舗が分散していけば、まちへの貢献につながると思います。
菅原:その店舗同士がネットワークでつながったりすると、その地域が活き活きしてきて、外の人もわざわざそこに行ってみたくなる、そんなまちになるのでしょうね。
さて、オンラインの参加者の方からチャットで質問が来ています。「商業店舗が果たす“まち”への貢献について、どういうことを考えられていますか」という趣旨のご質問です。
平田:先ほどの話に絡めると、店舗ができると、働く人が必要になり、食材を仕入れたり、そこで使われるお金があって、その店舗一つで完結する話にはなりません。ちゃんとお金が動いて、ちゃんと地元にお金が入ってくることをもっと評価したほうがいいんじゃないかと思います。それでそのまちが持続的になります。
菅原:もうお一方、オンラインの参加者から質問が来ています。「自宅の駐車場を使って週末はカフェをしてみるという話が出ましたが、住宅用の用地や地域でもできますか? 行政の方に、空き家を住居として貸すのは問題ないが、コワーキングスペースやテレワークオフィスとして使うためには、いろいろ調べないといけないと聞きました」という趣旨の質問です。
実際に場所探しで動かれている方からの質問ですね。これは私か髙橋先生からお答えしたほうがいいと思います。
法的な制限はたしかにあります。面積だとか、どういう業態の店なのか、そういったことが確認事項になります。
もし富士見町でチャレンジしようとお考えであれば、調布市住宅課を通して我々にご相談ください。
コワーキングスペースでいえば、住宅の規模にもよりますが、上に住んで、下の1階をスペースとして住み開いて貸すというようなことはできます。
この「調布市空き家エリアリノベーション事業」で進めたいと考えているのが、まさにそんな使い方です。「自分もやってみたい」という方は、ぜひお問い合わせをください!
平田さん、ありがとうございました!