【干支水滴 寅】の道行5「9daysと新しい形」
こんにちは。上出惠悟です。
このnoteは有料ですが、今回は無料でお読みいただける冒頭部分をいつもより長くして、本題とは別の「道行」について書いてみます。それは私たち上出長右衛門窯が、このコロナ禍で始めてみた、ある試みについての道行です。
その試みとは新たなオンラインショップのオープンです。ご存知の方もいらっしゃると思いますが、9days Shopと言うショップです。
それは毎月9の付く日(の夜9時に)に1つの商品だけを販売するという少し変わったお店で、売れても売れなくても9日間が過ぎれば、次の商品を掲載します。販売するものは、倉庫に眠る廃盤品やサンプル品など、新商品の試験販売も時々行いますが、基本的には売り先を失くしてしまったものが中心です。ちなみに「9」にこだわったのは九谷焼の「九」に由来します。
一般的にオンラインショップは、店舗や棚のスペースを気にせず多くの商品を並べることができ、お客様はいつでも好きな時間に、商品を比較しながらお買い物できることが特徴です。そんな中で何故こんなコンセプトのショップをオープンしたのか。それは品物の価値について深く掘り下げてみたいと思ったからです。今は埃をかぶってしまっていても、理由なく作られたものは一つとしてありません。品物に付随する様々なストーリーを見つめると、それまで古いと感じていたものでも、みずみずしく捉え直すことができるのではないかと考えました。値下げして在庫処分セールをするのは、職人のことを思うとあまり気持ちの良いものではありません。
「古く見えているフィルターを外す。」それは私が長年、上出長右衛門窯で行ってきた製作のテーマとも言えますが、古典的なモチーフを現代的にアレンジしたり、意外なものと組み合わせて見せたりと、やや搦手(からめて)のような手法だったと思います。しかし、ここではそのような回りくどい方法ではなく、そのもの自体のこと、私が感じたことを素直に皆さんにお伝えすることで新鮮さを感じてもらえるのではないかと考えました。その為に品物は一点に絞ることが必要でした。また先述の通り値引きも極力行わず、その価値を問うてみたかったのです。
一つのものを販売するオンラインショップのアイデアは数年前より長右衛門窯の販売や企画を担う上出瓷藝の面々とも話していたことでしたが、コロナ禍であっという間に変わってしまった環境を機に始めてみることにしました。
店頭の商品が常に新しく入れ替わるという意味と、古さを取り払って新鮮さを感じられるという二つの意味で「みずみずしさ」を表す果物をロゴに描き、当初の予定より2ヶ月程遅れた2020年8月9日からスタートしました。このロゴは2013年に初めて台湾を旅行した時に目にした果物の露天商をイメージしています。雑然とした夜道で煌々と光に照らされた果物たちは本当に美しく、今でも印象に残っています。
9days Shopオープンの1時間前に、インスタグラムでのライブ配信で商品説明を私自身で行うことにしたのですが、始めてみるとフォロワーさんとの思わぬ深い繋がりができました。元々売り込みの営業や接客が大の苦手だった私が、まさか一人でライブ配信を行い、それを続けることになるとは思いも寄りませんでした。9日間に一度、皆さんとコメントを通じての交流は私にとって大きな心の支えになっています。これまではほとんど一方向だったお客様との交流は相互となり、実際にお会いする訳ではないのですが、なんとなく皆さんのお顔が見えて嬉しいのです。
また、この不安定な社会情勢の中で積極的に物を売ることが正しいことなのか、と悩んだこともありましたが、皆さんのコメントや投稿、DMやお手紙などを通じ、私たちの器が皆さんの生活の潤いの一つになっていることを知り、本当に心が救われました。
オープンからおよそ1年が経つこの9days Shopは、私たちにとって掛け替えのないコミュニケーションの場となりました。そして品物に隠されたストーリーを知ることは私自身にも大きな学びや発見をもたらしています。
以上が9days Shopの道行です。そしてこのnote「道行」は、そのストーリーが終わってしまった後に読み返そうとするものではなく、これから生まれゆく過程=「道行」に同行して頂こうという結構スペシャルな試みだと思っています。
ここまでご一読ありがとうございました。道行の皆さんは下記に続きます。
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上出長右衛門窯の道行
現在進行中の新作開発の紆余曲折するストーリーを、テキスト、写真でお伝えしています。旅は道連れ世は情け。これまで秘密にしていた新作とそのアイ…
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