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夜を駆けて

長女氏が自粛やら受験やらで色々と煮詰まっていたので夜の散歩をすることにした。自転車で目的地を決めずとにかく進む。我が家は下町なので、暗い住宅地を抜けると明るい繁華街に出て、そこを横切るとまた暗い住宅地が続いている。その繰り返しだ。

こんな時期なのでお店は閉まっているが、色々な人とすれ違う。しばらく家に籠もっていたので、自分の知らない、これから知ることもない人たちが、自分の知らない所で知らない生活を生きている事に違和感を感じる。

遠くのマンションを見ると、暖色や寒色の部屋の灯りが並んでいる。一つ一つに人が住んでいて、それぞれに色々悩んで色々楽しんでそれぞれの人生を生きていると思うと、その物語の無限さに頭の芯が熱くなる気がする。

自分が死んでしまったら、この世界は続いていくんだろうか、それとも消滅してしまうんだろうか。どっちにしても自分の目の前に広がる世界は、自分だけが主人公で、他の人は脇役にすぎないんだよな。という話をポツポツとしながら、自転車に乗った2つの影が、坂道をノーブレーキで下っていく。

橋を渡って、商店街を抜けて、また橋を渡る。黒い水面は風を受けてチラチラと瞬き、街の光に炙られた夜空がぼんやりと白んでいる。

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