抗うように晴れ

 情動の在処を探していた。
 前情報はそれがどこからともなくやってきて、僕に羽を与えてくれること、一度空に発って着地した後は跡形もなく消えてしまうということだけ。
 どこを探しても見つからない。

 などと世迷言をほざくのはもうやめだ。情動?ふざけたことを言うな。ただの責任転嫁だろ。ひたすらに、曖昧に御託を並べてはその度に悩む振りをする。僕はだめだと自分を落とす真似をする。そうして見かけの矮小な人形を作っては、手のひらで転がせられるくらいに立たせておいて時に縋り、時に踊らせる。

 本当がどこにあるのかは知らないが、少なくとも俺の見てきた人の世の常理では、もっと厳しい現実を生きている人間が大勢いる。それと同じくらい逆境に立ち向かう人間がいる。大体そういうありふれて、しかしながら美しい物語というのは日の目を浴びないものだ。少なくとも虚飾を重ねた俺の目にありありと、ただ素直にその事象が写ることはもうない。

 都合が良い。都合が良い。都合が良い。そうなるようにこの喉を開くのは得意で、立ち振る舞いは「それらしい」。自分では気づいてないかもしれないが、もう限界だぞ?すでに見抜かれている。周りより抜きん出ているからではない、俺が空っぽだからだ。積み重ねできたものがない。

 社会の構造っていうのはどうにも人の本質を見抜く仕組みにはなっていないようだが、人の営みというのは実に正直で時に化けの皮に手を掛ける。

 ということ実に上から目線で書けるくらいには他人に傲慢で、本当の慈愛なんてものは持ち合わせていない。打算だ。素直になんてなれやしない。

 これまでの精算はできない。お前の人生だ。消えてしまいたい、死んでしまいたい、全部無くしてしまいたい。そう願うのは自由だが、他人を贄とする資格は絶対にない。理由なんてあるはずもないが、納得する必要の方がもっとない。お前が言ったんだろ?何を信じるかだって。結局自分に都合が良いことしか選べないのか?魂と魂の紡ぎ合いなんだよ、この目の前に広がる景色は。それだけなんだ。
 
 この命無くして、別次元の自分が在ったとして。きっと碌でもないものだったろうことは俺が一番わかっているだろう?あるのは二つだ。 
 無いものを与えられた、チャンスをもらった。
 変える時間を得た、変革の時だ。
 大言壮語並べて捲し立てるのはもうやめて、この文ももうやめて、明確に想像しろ。
 無いものを信じるな。お前の中にあることだけを信じろ。言葉なんていらない。頭も役に立たない。現せ。表現しろ。思考の雑踏に抗え。
 俺の信じるものは、それは影に濡れた地面じゃない。言葉になって落ちたゼロが見たいんじゃない。何者でも無いって、言葉を忘れて羽ばたく様を見たい。日の上る晴れた空を想像したい。

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