フランスでショコラトリー店員になる#3 絶望
2007年6月――私はパリに来ていた。
大きな荷物を持ち、向かったのは今回の渡仏手続きを一緒に手伝ってくれたフランス語の先生の生徒さんのお宅だった。
プライベートレッスンだった為、クラスメイト程の関わりはなかったが、レッスンの時間帯が前後していた関係で、交流が始まった。
私より一足先にフランス留学でパリに来ていた彼女のお宅に、到着後泊めてもらうことになっていたのだ。
そこで聞かされたのが、パリ生活の現実だった。
そこそこ話せるであろう彼女が、大手有名パティスリーの面接に行った際、
「そんなフランス語力じゃ、販売は任せられない。間違えられちゃ困るの。」
とバッサリ切られた、という話だった。
私は、目の前が真っ暗になった。
以前、フランス語の先生の計らいで、3人で会話をしたことがあったのだが、フランス語を初めてから年数はさほど経っていない筈なのに、発音も綺麗でペラペラと話していたので、ビックリしたのを覚えている。それほど彼女は努力家だったし、私は尊敬していたのだ。
こんなに話せるのに、駄目なんだ…。
生活の為、職場を探すのに苦労した話や、お金がギリギリになった話も聞いた。
私はこうして、大きな期待を胸に日本を発ったのに、到着初日に、その期待は消えてなくなり、一気に不安という大きな波が押し寄せてきたのだった。
そうだ…接客は、話せてなんぼなんだ。
接客用語だけ覚えれば良い訳では決してないんだ…。
小さなランプが部屋を照らし、薄暗い部屋の中でベッドに背をもたれて話す彼女をぼんやりと眺め、夜は更けていった――。
その晩は、時差ボケなのか、それともショックが大きかったのか、なかなか眠りに就くことができなかった。
これから、どうなっちゃうんだろう…。
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