『ニューヨエコ』というドーパミン
復帰アルバム『ニューヨエコ』
2023年9月20日。
「倉橋ヨエコ」さん改め「ヨエコ」さんが15年振りにアルバムをリリースされました。
たくさんの人に惜しまれつつも2008年に音楽活動を引退された倉橋ヨエコさん。
そんな方がまた音楽活動を再開するというニュースが今年の7月に発表され、大きな話題となりました。
私自身は倉橋ヨエコさんが活動休止した後に存在を知りファンになりました。リアルタイムで倉橋ヨエコさんの活動を応援していた人にとって、ヨエコさんの活動再開がどれほど喜ばしいことだったのか計り知れないです。
私でさえ「生きていればこんな良いことがあるんだ。神様、ありがとう…!」という気持ちでいっぱいでした。
ですが、ヨエコさんの新しい音楽を聴けることは楽しみ半分、不安半分という感じでした。
今回の復帰アルバムは過去作のセルフカバー+新曲1曲という構成。
私の好きな曲たちはどんな風になるのだろう?
現在のヨエコさんはどんな歌詞を書き、どんな歌声なのだろう?
そんなことばかり考えていました。
感性は自然と変化していくものなので、かつての作品に思い入れが強いからこそ作品が更新されていくのはちょっと怖かったのです。
しかしリリース日を迎え、いざ新譜を聴いてみたら全部杞憂だったと悟りました。
セルフカバーは新しいアレンジにより音の深さと魅力が増大し、心が何度も震えました。新曲は涙なしに聴けないほど今のヨエコさんが詰め込まれた素敵な1曲でした。
これ以上ない、珠玉の復帰アルバム。
何度も繰り返し聴きながら、込み上げてくる気持ちを拙いながらもまとめてみたいと思います。
セルフカバーの魅力
セルフカバーされたのは全部で6曲。
1、友達のうた
2、夜な夜な夜な
3、卵とじ
4、昼の月
5、今日も雨
7、楯
どの曲も好きなので再録を聴けること自体がとても嬉しかったのですが、なかでも「卵とじ」と「昼の月」のアレンジがとても気に入りました。どれも本当に良かったのでこれはもう好みの問題だと思います。
一曲目の「友達のうた」をはじめて聴いたときには、ヨエコワールド全開な音楽に「ヨエコさん、本当に帰ってきたんだなあ」と思わずにやけました。
全体的にストリングスが本当に綺麗で、音の厚さを広くし、凝り固まった頭の中が解放されていくような繊細な美しさがありました。
ヨエコさんの歌声も健在で、原曲キーで見事に歌い上げられていて感動しました。歌詞ひとつひとつに感情を乗せ、丁寧にメロディーを織りなしていく歌い方が心の奥底にまで突き刺さりました。
既存曲の良さをこれでもかと堪能できる内容でしたね。
アルバムの最後に収録された「楯」はこれまでの既存曲のアレンジと異なり、ピアノ伴奏のみだったのがまたぐっときました。
楯が新曲「ドーパミン」の次に収録されたことも加味してこの曲を味わうと、最後の歌詞が新たな意味をもって生まれ落ちたような気がしました。
ヨエコさんが15年という長い歳月を経て帰ってきました。
後述のインタビュー記事に記載されているのですが、『音楽を通して自分も「社会や人に貢献したい!」』という気持ちでヨエコさんは帰ってきてくれました。
このアルバムでの「楯」には、
歌声と活動を通して、辛い世の中を頑張って生きている人々の楯になりたい。また音楽を聴いてくれますか?聴いてくれたら嬉しいな。
そんな気持ちもこの歌詞に込められているような気がしました。
インタビュー記事と新曲「ドーパミン」
復帰アルバムを発売する5日前に、公式HPでインタビュー記事が公開されました。
Xでも前置きされているようにインタビューの内容は重いものでしたが、これを読んだうえで新曲「ドーパミン」を聴くと真に迫るものがあり、涙せずにはいられませんでした。ぜひ読んでみてほしいです。
もちろん、鑑賞の仕方は自由なので作者の背景を知らずに作品を楽しむのも良いんですけどね。
インタビューではヨエコさんが音楽活動を辞めた後の15年間についてが語られています。想像を絶する辛い体験が綴られており読み進めながら胸が張り裂けそうになりました。
倉橋ヨエコさん時代の歌詞は悲観的で暗い描写が多い印象でしたが、引退後も現実世界でこんなに苦しみもがき生きていたことに衝撃を受けました。そして、これまでのヨエコさんにとって音楽活動がいかに人生の困難を昇華する術であり、必死に生き抜いてきたのかを思い知らされたように思います。
私が倉橋ヨエコさんを好きな理由のひとつに、寄り添ってくれるようなまっすぐな歌詞があります。
塞ぎこんだ心を代弁して気持ちを楽にしてくれるような。
立ち直れないほどに落ち込んでしまっても、また歩き出せるように背中をさすってくれるような。
そんな歌詞に何度も救われました。
これらの一見暗い歌詞から感じられる"それでも生きていかなきゃ"と思わせてくれる活力のようなものは、まさにヨエコさんが人生で得た経験を素直に歌詞に落とし込んでくれたからこそ得られるものなのだと、インタビュー記事を通して知ることが出来たように思います。
今回のアルバムに収録された新曲は「ドーパミン」と名付けられていますが、ヨエコさんの存在自体がまさに私にとって生きるための活力を与えてくれるドーパミンだなと思います。
新曲「ドーパミン」はこれまでのヨエコさんらしさを残しつつも、新しいヨエコさん(まさにニューヨエコ!)から発せられる清々しくて心地よい風に心を洗われるような楽曲でした。力強い歌声と相変わらずの素直な歌詞にまた私達は救われて、一緒に生きていけるんだなあと嬉しく思いました。
「この傷達と生きていこう 私達も生きてみよう」という歌詞で締めくくられるように、これまでの苦難があったからこそ生まれた歌詞、そして音楽なのだと思います。
「私達も生きていこう」じゃなくて「私達も生きてみよう」というのが、優しさを感じました。
余談ですが、新曲「ドーパミン」では「痛い」と連呼する歌詞があります。それが過去作「薬箱」の歌詞・メロディーに似せている気がしました。
インタビュー記事によると、ヨエコさんは活動引退後に「音楽は医療だ」と思う場面に出会ったことや、自身が統合失調症であることが判明し向き合うことになったということが記載されていました。
「ドーパミン」というタイトルにはそういった医学的な視点をもって人生および音楽を見つめるようになったということを、過去作「薬箱」の歌詞・メロディーを使って表現しているのかな、なんて思ったりもしました。
たくさんの人にこの素敵な新曲が、このアルバムが届くといいなと心から思います。
さいごに…『ニューヨエコPartⅡ』を切望!
私自身が倉橋ヨエコさんの音楽に出会ったのは、大学時代の先輩がおすすめてしくれたことがきっかけでした。
その人は大学1年生の時につらい思いをして、もう人生を終えてしまいたいほどだったけれど倉橋ヨエコさんの音楽に救われて生きられたのだと言っていました。
おすすめされるがままに聴き私もすぐに好きになったのですが、社会人になってから、よりヨエコさんの音楽に救われていったように思います。
私は社会人1年目の時に上手くいかないことが続き、今思えばうつ状態になっていました。人と比べて仕事ができず、ミスばかり繰り返して自己肯定感が底を尽きた日々。頼れる人もおらず、収入も低く、楽しみが何もなく、自分がどんな人間だったかも忘れ始め、生きている意味が本当に分かりませんでした。そんなときにヨエコさんの音楽を聴いていると、楽になれたのです。
倉橋ヨエコさんを教えてくれた大学時代の先輩は今では夫なのですが、私達夫婦がそれぞれの辛い時期にヨエコさんの音楽に救われたおかげで、今も生活を紡いで生きているのだと思うと本当に感謝してもし切れないなと思います。
ほかにも大学時代の友達や今の職場にもヨエコさんのファンがいて、私の大切な人たちがヨエコさんの音楽に支えられて生きてきたこと、だから出会えたのかもしれないということがとても嬉しいです。
だからこそ、ヨエコさんのインタビュー記事を読んでからはヨエコさんに音楽があって良かった、支えてくれる人がいて良かった、ヨエコさんが希死念慮に負けずにいてくれて良かったと心から思いました。
今回のリリースを機にまたヨエコさんが少しずつ活動できるようになったらぜひ次のアルバムも出してほしいですし、また色鮮やかな楽曲やセルフカバーを聴きたいと願うばかりです。