探しものの依頼
家を出て何ヶ月たったかしら。アメから返脚してもらいたいものがあった。
カギだ。玄関とかではなく、ちょっとしたカギ。なくても大問題ではない、その程度のカギだ。
「わかったわかった、今度持って行く」と返事があってから、いつまでたってもやってこない。音沙汰ナシ。ナシのつぶて。
んんん?
アメはクライアントである。クライアントとしないと書きづらくなるので、そのような形式をとらせていただいている。
クライアントのことを知り尽くしたプロとしては、察知する。
さては、なくして見つけられないのだな?
で、探すのも、連絡するのも面倒になって、ダンマリを決め込むいつものアレだな。
カギは鍵だ、これがメインのカギじゃないからいいようなものの、宙ぶらりんでは…。
ないならない、見つけられないなら見つけられない、なんでもいいけど途中経過を報告していただかないことには…。
新居で見た記憶はあるが、どこにも見当たらないのだと言う。
もの探しの能力が、人並外れて乏しいクライアント。
ふつうにカバンのポケットに入っていたりするのが、見つけられない、ということがこれまでにも度々あった。今までの経験から、ポケットを集中的に探せば出てくるとは考えないのだろうか、と思うけれど、見えないものは見えないし、気付けないことは気付けない、昔から変わらないので仕方ない。
そんなわけで、クライアントの探しものは、ほぼほぼわたしが見つけてきた。
現地に探しに行かせてくれたら見つける自信あるんだけどな~いやがるだろうな~でもな~
ともじもじしていたら、
「探しに来ていただけますか?」とのこと。
一人暮らしをしたら、君ん家の敷居は絶対にまたがねぇ!と心に決めていたんですよね。敷居をまたがせねぇ、じゃなくて、自ら「またがねぇ」なんです。
子離れしなきゃな、ってのと、親離れもね、ってのと、
家を出る前にはぶつかり合って、だいぶ険悪な関係になっていたこともあって、一筋縄ではいかない複雑な心境からそのように宣言していたわけです。
でも、まぁカギも気になるし、ご本人からの申し出もあったので、とっとと反故にしました。なんせヤツはクライアントで、わたしはコンサルタントなので。
*
引越の時以来、久しぶりの訪問。
げっっっっっ。
部屋中に隈なく、均等に、
複数のペットボトル、複数のお菓子の箱、複数のビニール袋、複数の紙袋、箱の形のままの段ボール、開きにされた段ボールなどの大物がばらまかれ、細かいものは、パンの袋を止める四角のやつとか、金や銀のひねってとめるネジネジ、輪ゴム。その他ダイレクトメール、広告、なにかの割引券、レシートなどが、部屋のここかしこに・・・
うわぁ・・・・・・・・・なんという眺め。
動画だったらアイテム多すぎて、きっとバグる。
どんなことになっとんじゃいーとこぶしを握りしめていたら、
ご本人は「今日まだマシ」みたいなことをおっしゃって、
これでマシってますますどんなことざますー!?
探し物だけして帰るつもりだったけど、残骸がチラチラ目について、捜索の邪魔をして・・・わたしもバグる。
探すどころやあらしまへん。片付けさせてもろてもよろしいですやろか?完全にバグったー
クッキーの箱どれも全部からっぽじゃん〜(パキパキ開きながら)
これら(10本近くあるペットボトル)洗って、捨ててきて。あとでじゃない、今わたしがいる間にだー
これいつの?着たやつ?いるやつ?(洗濯機に放り込む)
この段ボールは敷物として使っているの?これからも使っていくの?(直ちに捨てに行かせる)
このカゴ邪魔だけど、なに入れ?(とりあえず入れとけ、の堆積だった。即分類)
すると、卵の空きパックが大量に出てきた・・・こわいんですけどー
クライアント曰く、スーパーのリサイクルボックスに持って行こうと思って集めていたらしいが、
ペットボトルすらアレ状態の君がー
どうして卵のパックまで手をつけたー
それはレベル高すぎだろー
と、心の中で遠吠えをした。
うんうん、そうかそうか。卵のパックのリサイクルボックスがあるのは、この辺じゃ○○スーパーか、コープくらいなんだよね。どこでもあるわけじゃないし、主婦でもなかなかできないわけよ。
リサイクルに回そうって気持ちはよろしくても、部屋がこんなになってるのに、出すあてもなく溜めておくのは、なんというか建設的ではないのでは?
建設的ってなに~と内心思ったけれども。
エスディージーズって、持続可能がミソなんだな。それぞれがそれぞれの身の丈に合った継続できる範囲のことをやりましょうよ、ってそんなゆるい対策で間に合うのかは知らないが、身を崩しては元も子もないからなー
と、クライアントの行いを見て貴重な教訓を、密かに得る。
さらに、いつか渡した排水口掃除用のブラシも出てきた。もちろん使った形跡はない。ってことは、排水口はいったいどうなっているのだろうか…。
パンをとめるやつ、ネジネジ、輪ゴムを方々から拾い集め、発掘されたビスコの空き缶にまとめる。
幾多の雑多をかきわけて、床が見えてきた。
今だ、今しかない(かもしれない)掃除機かけて~布団も干すのだ〜
おりゃ〜とぅ~
*
カギは、本腰入れて探し始めたら、秒で見つかりました。だって謎はすでに解けていたから。
カバンやリュックのポケット、一つ一つさぐっていったらあったという、いつものアレです。
ちなみに、リュックのポッケからも例のネジネジが発掘されて、各カバンにもネジネジは入っていた。どこまでも蔓延るネジネジよ。
さ、帰ろうかな、と思って見まわしたときに、ふと目に入ってしまった。
病院でもらった薬の紙袋、このふっくら束感、なんか違和感。
減ってなくね?
「薬、飲んでないの?」「飲んでないこともないけど」「え、あれ、ここにも、まだある・・・あなた全然飲んでないよね?」
何十日分も、ためこんでおられたのでした。
つづく。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?