心のゆたかさと精神科

多くの地域で緊急事態宣言が解除されましたね。私の地域も解除され、学校や経済活動が徐々に動き出し、通行する人や車が増える一方で、マスクをする人は少しずつ減っている印象があり、何となくコロナの影響が薄くなっている雰囲気があります。
とは言え、おそらく来るであろう第2波を出来るだけ抑えることが、これからの日本の行末を左右するのではと感じています。

noteを初めて2ヶ月近く経ちました。私の拙文を少ないながらも読んで頂けているようで、最近は有難いことに「スキ」やフォローまでして頂いた方もいます、思いがけず嬉しく感じながら、もっと良い文章が書けるようにと気を引き締めています。

そこで今回は思い付きで、noteの企画「#ゆたかさって何だろう」に乗っかってみようと思います。もちろん、精神科にまつわる話という事で、今回のタイトルにしてみました。

・精神疾患は「心の病」ではない

根本的な話になるのですが、知らない人は多いと思っています。実際、私自身も今の仕事をするまではそう思っていました。数年前に流れていた某製薬会社のCMでも「うつ病は心の風邪」と謳っていて、精神科業界(という言葉が適切かどうかは分かりませんが)の一部から避難されたこともありました。

精神疾患は脳の病気です。

私は医師ではないため正確に説明は出来ませんし、するべきではないと考えているので詳細は書きませんが、精神疾患とは、内的・外的要因によって脳の機能が変調することです。病名によっては、脳内物質の過不足が原因で症状が出現することが分かっているものもあります。

ところが世間では、精神疾患を「頭がおかしい」「キチガイ(あえて書かせて頂きましたが、不適切であれば修正します)」と差別的に言いながら、うつ病や発達障害の人をつかまえては「心が弱い」「気持ちの問題」といったマウント発言を浴びせることも少なくありません。矛盾してますよね?でも、現実です。精神科病院で働く私にもその感覚はありますし、そういった感情を抱くことも少なからずあります。

・それでも患者は「心の安寧」を求める

身体科の治療と異なる点の1つとして、精神科にかかっている患者は「脳の働きを正常化したい」と思って、通院・入院している人はいません(幻覚や妄想でそう考えている人はいるでしょうが…)。シンプルに「楽になりたい」「日常生活を平穏に暮らしたい」と考えている人がほとんどです。

その目的を達成させるために、薬を飲んだり、電気けいれん療法を受けたり、学習会や家族会や自助グループに参加したり…と、医療は脳に対してアプローチします。脳の機能が少しずつ戻ることによって、患者は少しずつ心の落ち着きを取り戻します。もちろん、かかる時間は人によって様々ですし、途中で治療を辞める人もいれば再開する人もいますし、再燃する人だっています。

ここでもう1つ、精神疾患は相反するベクトルが存在します。先ほど例に挙げた「楽になりたい」という感情は、例えばうつ病なら、極端ではありますが「生きたい」という正の方向にも、「死にたい」という負の方向にも働きます。これは、統合失調症でも発達障害でもアルコール依存症でも、欲求の内容は変わりますが、相反ベクトルは存在します。でもどちらも、ゴールは「心の安寧」なんです。

先にも書きましたが、私は医師ではないのでこの考え方が正しいかどうかは分かりません。あくまでも経験から来る個人的意見です。ただ、この辺りが精神科のファジーさの所以では無いかと、私は思っています。

・私が考える、精神科的「心のゆたかさ」

そろそろ本題に戻らないと、タイトルやハッシュタグの意味がなくなりますね…。という訳で、これまでの話を踏まえた上で、まとめに入ります。

私が考える精神科的「心のゆたかさ」とは、「マイナスの軽減」だと考えています。

生きていれば誰でも、良い事・悪い事が存在し、大なり小なり一喜一憂します。ずっとフラットな人生なんて無いと思います。上り下りがあって、同じ状況でも苦楽が分かれたり、結果が逆転する事だってあるのではないでしょうか。

それでも前進を迫られるのが現代社会です。

でも、どうしても前に進めない、進みたくない時はあります。私なんてしょっちゅうです。だから私は、前に進むために「マイナス要因」を可能な限り減らすようにしています。
嫌な事があれば、それを避ける方法や改善する方法を考えます。辛い事があれば、気を紛らわすために違う事をしたり、誰かに相談したりします。マイナスをプラスにできなくても、絶対値を出来る限り小さくする事は可能だと思います。

精神疾患の治療も、似ているように思います。うつ病の人が気持ちが落ちるリスクを避けたり、アルコール依存症の人がアルコールがある場所を避けたり、発達障害の人が他の人とは違うやり方を身につけたり…といった具合でしょうか。

どうしても避けられない状況もありますが、できる限りリスクを背負わない=マイナス要因を減らす事で、心的ストレスを背負わなくて済むし、もし避けられなかった時でも、完全でなくても事前に想定できているので、若干ショックは和らげることができるかな、と思います。

マイナス要因が減れば、プラス要因を受け入れる余裕ができます。例えプラス要因がすぐに入らなくても、フラットな状態を保つことができるし、今まで自身に存在しなかった要因が入る事だってあります。
それが趣味や特技、仕事や生き甲斐などの、生活の一部へと変わっていけば、プラス要因が増え、マイナス要因を解消できる手段にもなります。時には凹む事があるでしょうが、リカバリーもできるでしょう。

それが続けば、少しずつ心はゆたかに育てられるのではないかな、と思っています。

正しいかどうかは分かりませんが、とりあえずやってみて、合えば続ければ良いし、合わなければ止めれば良いし、途中で違うものに変えても良いと思います。

精神疾患にかかってしまわないよう、無理はせず、自分のペースで、ちょっとずつ。

それでも精神疾患にかかってしまった時は、精神科にかかってください。

それが他人でも、自分でも。

出来るだけ沢山の人が、いわゆる「平穏な日常」に戻れるよう、少しでも「心ゆたかな生活」が送れるよう、精神科病院の事務室で祈念しています。

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精神科病院の事務員(元医事課員)
ありがとうございますm(_ _)m精神科の風評向上のために使わせていただきます。