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読み切り「盗人と和尚さん」
あるところに、お寺の和尚さんがいました。和尚さんはとても人の良い人で、毎日お経を唱えたり、お寺の掃除をしたりしていました。
ある晩、お寺に泥棒が忍び込みました。泥棒は和尚さんが寝ている間にお寺の宝物を盗もうと考えました。泥棒は音を立てないように静かにお寺の中を歩き回り、宝物の部屋を探しました。しかし、すぐに和尚さんが目を覚ましてしまいました。
和尚さん:「おや、誰かいるのかい?」
泥棒は驚いて、慌てて隠れようとしましたが、和尚さんの目に留まりました。
泥棒:「す、すみません!私はただの泥棒です…」
和尚さん:「ほほう、泥棒さんか。それなら、せっかくだからお茶でも飲んで行きなさい。」
泥棒はびっくりしました。まさか捕まえられるどころか、お茶に招かれるとは思っていなかったのです。
和尚さんは泥棒にお茶を淹れ、二人は縁側でお茶を楽しみました。しばらくして、和尚さんが泥棒に話しかけました。
和尚さん:「泥棒さん、せっかくだから少しお話をしようじゃないか。君はなぜ泥棒なんかしているんだい?」
泥棒:「私は貧乏で食べる物もなくて…。でも、和尚さんのおかげで今夜は久しぶりに温かいお茶を飲むことができました。」
和尚さん:「それは良かった。ところで、君は何か特技はあるのかい?」
泥棒:「特技ですか…?実は、私は手先が器用で、彫刻や細工が得意なんです。」
和尚さん:「ほほう、それは素晴らしい。お寺には修理が必要な仏像や家具がたくさんあるんだ。君が手伝ってくれたら、とても助かるよ。」
泥棒:「本当ですか?それなら、ぜひお手伝いさせていただきます。」
和尚さん:「お寺で働いているうちに、心が清らかになるかもしれないね。そして、君自身も新しい道を見つけることができるかもしれない。」
泥棒:「そうですね。和尚さん、本当にありがとうございます。これからは、泥棒ではなく、真面目に働いて生きていきます。」
和尚さん:「そうだ、それが一番だよ。」
次の朝、泥棒が起きると、和尚さんは既に庭で草むしりをしていました。泥棒も一緒に手伝うことにしました。
和尚さん:「泥棒さん、もう泥棒という呼び方はやめよう。君の名前は何だい?」
泥棒:「私は太郎といいます。」
和尚さん:「太郎さん、これからはお寺の一員として、皆で頑張っていこう。」
太郎:「はい、和尚さん!」
和尚さん:「さて、まずはお寺の仏像を修理してみようか。君の特技を生かして、立派な仕事をしてくれ。」
太郎:「分かりました。私の手先の技術をフルに活かして、お寺のために頑張ります。」
数か月が経ち、お寺は美しく修復され、村人たちは驚きました。太郎の評判は広まり、村の人々も彼を尊敬し始めました。
ある日、村人が和尚さんに尋ねました。
村人:「和尚さん、太郎さんはとても素晴らしい仕事をしてくれましたね。どうやって彼を見つけたのですか?」
和尚さん:「あの日、太郎が泥棒としてお寺に忍び込んできた時、彼の心の中に善意を見つけたんだ。人は皆、変わることができるんだよ。」
太郎は微笑みながら振り返りました。
太郎:「和尚さん、今日もまたお茶を淹れていただけますか?」
和尚さん:「もちろんさ、太郎さん。今日は特別な茶葉を使って淹れるから、楽しみにしていてくれ。」
太郎:「ありがとうございます。もう泥棒なんかしなくても、心から温かいものが得られるんですね。」
和尚さん:「そうだ、心の清らかさが何よりも大切なんだ。」
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