「呪われた廃村」第1話 #創作大賞2024応募用

あらすじ

システムエンジニアのヒロトと大学院生のマリは、温泉旅行中に地図にない廃村に迷い込む。興味を引かれた二人は村を探索し、不気味な雰囲気と奇妙な現象に遭遇。マリの祖母の言葉を思い出し、この場所が家族と関係していることに気づく。彼らは村を呪いから解放する儀式を行う決意をするが、予想外の困難が待ち受ける。果たして二人は村の呪いを解くことができるのか?「呪われた廃村」は、廃村での恐怖の体験を描くスリリングな物語です。


第1話

東京の朝。高層ビルがそびえ立ち、その間を車の列や人の群れが行き交う。まるで鋼鉄とガラスで作られた巨大な迷路のように見える都会の風景は、まさに現代のコンクリートのジャングルだ。冷たい風がビルの間を通り抜け、街全体が活気に満ちていた。

ヒロトはこの都会の一部として、日々を送る一人だ。29歳のシステムエンジニアとして、彼は大手IT企業のオフィスビルに勤務している。高層ビルの一室にある彼のデスクは、デジタルの海に浸かる彼の小さな領域だ。デスク上にはデュアルモニターがあり、片方の画面には無数のコードが走り、もう片方の画面にはプロジェクトの仕様書が広がっている。

ヒロトの周りでは同僚たちがキーボードを叩き、電話での打ち合わせをしている。オフィスの空気は緊張感と創造性に満ちており、時折笑い声やクリックする音が響く。ヒロト自身も、目を凝らしてコードを確認し、エラーを修正している最中だ。

この一室の中で、彼の心は仕事の忙しさと、日常生活の中での孤独感が入り混じっている。窓の外では忙しい街が広がっているが、その中で彼の心は何かを求めて静かに揺れ動いている。

「ふぅ…今日も仕事が山積みだな。」ヒロトは疲れた表情で画面を見つめながら、小さくため息をついた。

隣のデスクから同僚の佐藤が声をかけてきた。「ヒロト、来週の休みは何か予定あるの?」

「彼女と温泉に行く予定なんだ。最近ずっと忙しかったから、リフレッシュしようと思って。」ヒロトは肩をすくめて答えた。

佐藤はニヤリと笑って言った。「いいねぇ。どこ行くの?」

「山奥の秘湯を見つけたんだ。ネットで評判も良かったし、静かでリラックスできるって。」ヒロトは目を輝かせながら答えた。

「それは楽しみだね。彼女も喜ぶだろう?」佐藤が尋ねる。

「ああ、マリも最近仕事が忙しかったから、きっと喜ぶよ。」ヒロトは微笑みながら答えた。

ヒロトはデスクの上に置かれたカレンダーを確認し、来週の休みに赤い丸印をつけた。デスクの上にはマリとの写真が飾られていた。二人が一緒に映っている写真は、ヒロトにとって大切な宝物だった。写真の背景には、昨年の夏に訪れた海岸での思い出が詰まっていた。

「ヒロト、温泉と言えば、実は俺も最近行きたいんだよな。最後に行ったのいつだろう?」佐藤が回顧的につぶやいた。

「ほんとだ、行きたいよね。忙しいけど、たまにはリフレッシュしないとね。」ヒロトは同じ気持ちになってうなずいた。

「マリと一緒に行くんだろ?お互い忙しいから、いいタイミングだね。」佐藤はヒロトに手を叩いて励ました。

ヒロトは自然に笑顔になり、「そうだな。彼女も大変だから、少しでもストレス解消できればいいな。」と思いを馳せた。

大学のキャンパスは、午後の陽光が気持ち良く差し込む中、学生たちが自由な時間を楽しんでいた。講義を終えたばかりの学生たちがグループで話をしながら歩いており、時折笑い声が広がる。その活気にあふれた空間の中で、マリは一筋の決意を胸に研究室へと向かっていた。

マリは26歳の歴史研究者であり、特に古代日本の民間伝承や失われた村々に関する研究に情熱を注いでいた。彼女の研究室は、大学の中でも特に歴史の息吹が感じられる場所だった。

研究室のドアを開けると、そこには歴史の宝庫が広がっていた。古い書物や資料が山積みになっており、時代を超えた知識の香りが漂っていた。壁には古びた地図や民具の写真が並び、その一つ一つが失われた文化や過去の生活様式を物語っているようだった。

マリの机の上には、最新の研究成果を記録するためのノートパソコンが置かれていた。古文書から得られた新たな発見や、地方の民話から派生した新しい仮説などが、そのノートにはきっちりと整理されていた。

彼女は研究に没頭しながら、時折目に留まる古い地図や手書きのメモを手に取りながら、深い理解を得ようとしていた。彼女の研究室は静寂に包まれていたが、その静けさの中にも、歴史の謎や物語が息づいているような感覚があった。

マリはこの環境の中で、失われた村の謎や過去の逸話についての理解を深めていきたいと思っていた。彼女の眼には、未知の世界への探求心が宿っていた。

マリは椅子に座り、机の上に広げられた古文書を手に取った。その紙は黄ばみ、年月の経過を感じさせるが、大部分はまだ読める状態だった。虫食いの跡がところどころにあるが、それがむしろ文書の歴史を感じさせ、その価値を増しているようにも思えた。

「この村の伝承、興味深いわ…。でも、どこかで聞いたことがあるような…。」マリは小声でつぶやいた。彼女は古文書を丁寧に扱いながら、その文字を追っていく。文字の世界が、彼女の目の前で蘇ってくるかのように感じられた。

古文書には、かつて存在した村の詳細が詳細に記されていた。その村は平和な日々を送っていたが、突如として災厄が訪れた。マリは興味津々にページをめくりながら、その内容に引き込まれていった。

最初のページには、村の風景や民家の配置が詳細に描かれている。村人たちの日常生活や、彼らが大事にしてきた風習や伝承も記されており、マリはその豊かな文化に息をのんだ。次のページには、村の歴史的な出来事や、伝説的な物語が続く。何世代にもわたる村の歴史が、古文書の中で語り継がれているようだった。

マリは文章を読み進めながら、気になる点をメモに取りながら考え込んでいた。この古文書が自分の研究にどのように関連しているのか、そしてその背後に隠された物語が、彼女の興味をさらに引き立てていた。

マリは古文書を手にしたまま、机の上で振動するスマートフォンに気づいた。画面には「ヒロト」という名前が表示され、彼女は微笑みながら電話に出た。

「もしもし、ヒロト?」

「やあ、マリ。来週の温泉旅行だけど、行き先を決めたよ。山奥の秘湯なんだって。」ヒロトの声が電話越しに響いた。

マリはヒロトの言葉に興奮しながら、古文書を机の上に広げたままで話を続けた。「本当に?それはすごく楽しみ!最近忙しかったから、リラックスできるといいね。」

「うん、僕もだよ。じゃあ、来週の朝に迎えに行くね。」ヒロトは優しく約束した。

「了解。楽しみにしてる。」マリは満足げに電話を切り、再び古文書に目を落とした。彼女はページをめくりながら、村の歴史や伝承についての新たな発見を期待していた。

彼女の手に握られた古文書は、今後の研究の鍵を握っているように思えた。マリは興奮と期待が入り混じった心境で、深く読み進めていく。その中には、彼女の知らない世界が広がっているようだった。

彼女は机の上に広げられた地図を見つめながら、考え込んだ。古い地図には、失われた村々や廃墟が点々と記されており、その中の一つが特に彼女の興味を引いていた。

「この場所、もしかして…」マリは小声でつぶやき、ノートにメモを取り始めた。彼女の手は丁寧に地図をなぞり、村の位置を確認しようとしていた。その村が、彼女の研究のキーポイントになる可能性を感じていたのだ。

その夜、マリは研究室で遅くまで古文書と向き合っていた。明かりが弱くなる中、彼女の頭の中には新たな発見と未解決の謎が交錯していた。古文書から得た情報が、次第に彼女の心を捉えていった。

来週訪れる温泉地と、この廃村に何か関係があるのだろうか。マリは自問しつつも、その可能性を追求することが彼女の情熱であり使命であることを感じていた。彼女の心は、期待と不安で揺れ動いていた。未知の世界への一歩を踏み出すその瞬間が、彼女にとっての重要な岐路になることを彼女は知っていた。


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