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鳥取旅行をするなら智頭町はいかが?④ ―美味しい・美しい・あたたかいにあふれた町での3泊4日の旅の記録―

こちらは連載記事です。
①〜③はこちら!

最終日のこと

智頭にさよなら

 最終日はゆっくり起きて、チェックアウト時間ぎりぎりに宿を出た。そこから10〜15分ほど歩いて智頭駅に向かう。
 四日目はほぼ移動日となっていたので、朝にはもう智頭町ともお別れとなった。3日間で色んな人に出会えて貴重な体験ができたこの町をもう去らなければいけないという事実に、朝からセンチメンタルになってしまった。
 智頭駅から鳥取駅まで汽車で移動し、揺られて約1時間。あっという間に鳥取駅に到着した。
 飛行機の時間は夕方だったので、私たちは鳥取市内を観光することにした。

灼熱の砂丘と砂の美術館

 私は鳥取旅行については今回が初めてだったので、「初めて来たのならやっぱり砂丘は見に行かないと!」と名和さんに言われ、まずは砂丘に向かうことになった。私自身も鳥取といえば砂丘とゲゲゲの鬼太郎と大山くらいしか知らなかったので、定番の場所を訪ねることが出来ることは嬉しかった。
 鳥取砂丘まではバスに乗って移動した。砂丘の最寄りのバス停に着いて少し歩くとすぐに、写真や映像でしか見たことのなかった砂漠地帯が現れた。
 この日は雲も少なく、カンカン照りの太陽がずっとお出ましだったので、砂丘の砂はとっても熱く、私たちはその灼熱の砂がスニーカーにうっかり入りこまないように気をつけて歩いた。
 本当に暑い日だったけれど、意外にも観光客の人は多くて、みんな日傘をさしながら海の見える丘の方まで歩いていた。当の私たちはこの暑さで歩くと戻ってこれなくなるのでは…?と判断し、10分もしないうちに砂丘をあとにした。

青空と砂丘のコントラストが美しかった
熱々の砂と私の影

 その後は涼を求めて砂の美術館というところに向かった。ここは砂で作った美術作品が展示されていて、年に1回作り変えて入れ替えているのだという。今年はパリオリンピックにちなんで、フランスをテーマにした作品が制作されていた。
 チケットを購入して中に入ると、私はまずその作品たちの大きさに驚いた。てっきりサンドアートがガラスの中に飾られているような展示なのだろうと勝手に想像していたので、何メートルにもなる高さと幅のある作品たちを見て圧倒されるしかなかった。
 そこに飾られている作品たちは、本当に砂と水だけで固めて作られたもので、1年経って次の作品を作る時は、作品は壊してまた一から作るのだという。あんなに精巧に作られた作品が、たった一年しか残されないというのは、なんとも儚いものだなと寂しい気持ちにさせられた。

 その後は少しお土産屋さんを見てからバスに乗って鳥取駅まで戻り、次は鳥取民藝美術館を訪ねた。

布やレースの質感も全部砂だけで再現されている
展示会場の2階からの景色


木工ランプのあたたかさに惚れる

 鳥取民藝美術館は、吉田璋也という人が民藝に魅了され、民藝を普及させたり新たに創造させたいという思いから創設されたものだという。建物はそこまで大きくないものの、展示品は2階までたくさん飾られており、吉田璋也の民藝への愛を感じる場所だった。そこには二日目に購入した牛ノ戸焼やテーブルや椅子、吉田璋也が身につけていたという服や鞄など、私たちのまわりにある身近なものたちがたくさん展示されていた。
 その中でも私は木工ランプに大変目を奪われてしまっていた。木と和紙で作られ、優しい光を灯すランプは、みたき園や牛ノ戸焼の窯元など、実は色んな場所に飾られ使われていたのだが、どの場所にも馴染むとっても素敵なランプだった。鳥取民芸木工の一つとして有名だそうで、こちらも職人さんの手で一つ一つ作られている。
 自分の家にこのランプがあったらどんなに素敵だろうか…と妄想を膨らませてしまうほど惚れてしまった木工ランプ。民藝美術館の隣にあるたくみ工芸店になんと売られていたのでもし手が届くなら買ってしまおうかと値段を見てみたのだが、やはりふらりと来ただけで買えるような代物ではなかった。
 でもやっぱりそこにあると目がいってしまうほどに気に入ってしまったので、次に鳥取へ来た際に買って帰れるくらい働いてお金を貯めておこう、とひそかに心に留めておくことにした。

鳥取民藝美術館の入り口


鳥取感じるほろほろランチとこだわり万年筆

 民藝に心打たれたあとは、お腹も空いてきたのでランチにすることとなった。伺ったのは駅からも民藝美術館からもほど近い、たくみ割烹店というところで、しゃぶしゃぶ発祥のお店だという。
 高級料理店のような佇まいではあるが、ランチはリーズナブルで、そしてとても美味しいと評判らしい。私は鳥取和牛のすじ煮込み定食を注文した。
 店内にはやはり鳥取の民藝品がたくさん飾られており、壁には民藝や鳥取に関する書籍が沢山置かれていた。
 書籍を楽しんでいると、ほどなくしてすじ煮込み定食がやってきたので早速いただく。だしの効いた甘辛いつゆと、ほろほろに煮込まれた牛すじは本当に美味しく、ほっぺたがとろけ落ちるような気分になって、思わずほかほかの白米を口にかき込んでしまった。そして、この牛すじ煮込みを家族や恋人にも一度食べて欲しいなぁと思った。
 食べ終わったあとは、あたたかいお茶とデザートのすいかもいただいて大満足のランチとなった。
 鳥取駅でランチに悩んだらぜひ、たくみ割烹店をおすすめしたい。

鳥取和牛のすじ煮込み定食


 ランチの後は、ある場所に行く以外にはもう空港に向かうだけとなった。
 その「ある場所」というのは、万年筆のフルオーダーができる『万年筆博士』という専門店だ。
 ここも名和さんがぜひ連れて行ってあげたい、と紹介してくださり行くことになった。名和さんはこちらでオーダーした万年筆をもうずっと愛用しているのだという。

万年筆博士の入り口


 店に入ると、お若い店主さんが出迎えてくれた。店内には宮本輝や角田光代、所ジョージなど多くの著名人がオーダーした万年筆で書いた署名が沢山飾られており、代々続く職人技に多くの人が魅了されているのだということを知った。
 有名な作家さんやタレントさんだけでなく、海外からもわざわざこのお店にやってきて万年筆をオーダーして帰る方もいらっしゃるらしく、注文してから1年ほど待つこともあるそうだが、それでもお客さんは後をたたないようだった。

 フルオーダーでは、書く時の文字の太さを選ぶだけでなく、持った時のペンの角度や持ち方によってペン先の最適な角度を見出して、これ以上にないという書き心地を実現してくれるのだそうで、左利きかつ万年筆は書きにくいと長年思っていた私は、ぜひともフルオーダーで作っていただきたいと思ってしまった。
 今回はこちらも予算の関係でその日すぐにお願いします、とは言えなかったものの、一生モノの万年筆をいつかここで手に入れようと心に決め、お店をあとにした。


 その後は駅近くの百貨店とその周辺を少し歩き回り、お土産を買ったりして過ごしたが、まだ空港まで行くバスの時間には少し早かったのでかの有名な「すなば珈琲」で少し休憩もした。
スタバがないから作られたと言われているすなばコーヒーは、店内はコメダ珈琲のような雰囲気で、スタバというよりは昔ながらの喫茶店のほうに近い感じがした。注文したアイスココアは思ってたよりも大きくて、少し困惑しながらも冷たく甘い、美味しいココアに満足した。

 その後は空港に向かい、追加でお土産を買ったりして過ごしたが、あっという間に鳥取空港を旅立った。

美味しい 美しい あたたかい旅

 飛行機の中ではうとうとしながら、この旅のことをたくさん思い出した。
 鳥取で多くの素敵であたたかい方々に出会えたこと、職人技の光る美しい工芸品に出会い、焼き物やフルオーダーの包丁を注文して少し大人な気分になれたこと、大自然に囲まれて、これ以上ないというくらいの美味しいものをたくさん味わえたこと…

 新しく出会った人やものが、今後の私の人生をより豊かにしてくれるだろうという確信を得られたこの旅を、これからもずっと大切に抱きしめていきたいと思いながら、私はいつの間にか羽田空港まで眠り込んだ。

 次は私が案内人になって、私の大切な人たちを、この素敵な場所に連れていきたい。

 そしてまたここに来たい。

 このnoteを残したことで、私の忘れられない、愛しい旅の記録が、誰かの忘れられない旅の思い出の手助けになればいいなぁと思う。


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