小説『冬の記憶』
一月のコーヒーショップは暖かったけれど、いつまでもいるわけにもいかない。
多少寒くても、家に帰ればぐうたらな君を見れるし、ぐうたらな僕でいられる。そう思うと、すぐにでも帰ろうかと思う毎日だった。
歩いて数分もしない家に、帰ろうかと提案したら帰ろうかと返事が来た。
外気は冷えて、澄んでいた。不純なもののない空気。
「雪のにおいがする」
コーヒーショップを出たところでそう言った僕に「ほんとだ」と同意してくれた。君と同じ感性を持てたみたいで、無性に嬉しくなった。
冬の空気が、鼻をすーっと抜けていくたびにあの冬を思い出す。去年の一月、雪の降ったあの日のこと。
ついに今年は雪を見なかった。君と見た雪が、また記憶の最後に残ってしまう。
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