「獣の国」第1幕 第25場(アンドロギュノス)
アンドロギュノス
■ しなやかな指に握られたフラッシュライトが前方を照らす。
■ ライトの光の中に横穴がある。
■ 横穴を見つめるライラ。
(ライラ)(イツァークはここから……)
■ 腰に付けた無線機からドルジの声が響く。
(ドルジの声)ライラ 今どこにいる?
■ 無線機を手に取り、応えるライラ。
(ライラ)西スラムの獣被害現場よ
(ライラ)女性を攫った獣を追って イツァークが一人で街の下へ潜ったの……
(ライラ)私もこれから後を追うつもり
■ 無線機から響くドルジの声。
(ドルジの声)完徳者だ
■ 目を見開くライラ。
■ ドルジが続ける。
(ドルジの声)レベッカが襲われた
(ドルジの声)アロの見立てじゃ 恐らくゴミの廃棄穴か何かから遺構エリアに落とされたらしい
(ドルジの声)レベッカを拾いに行く
(ドルジの声)お前も合流しろ
■ 眉を顰めるライラ。
(ライラ)…… でも……
■ ドルジが続ける。
(ドルジの声)優先順位の問題だ
(ドルジの声)レベッカの方が恐らく脆い
(ドルジの声)それにさっきの立ち回りは見ただろ?
(ドルジの声)獣相手の泥臭い殺し合いなら お前よりあいつの方がよっぽど上手だ
■ 考え込むライラ。
(ドルジの声)なぜレベッカをあっさり殺っちまわなかったのか……
(ドルジの声)そこら辺に何かあるかもしれん
■ 無線機からアロの声が聞こえる。
(アロの声)16J西の廃工場にもう一度侵入する
(アロの声)工場内に恐らく遺構エリアに出入りする手段が残されていると踏んでいる
(アロの声)それからライラ
(アロの声)君も我々があそこで目にしたものを見ておくといい
■ 答えるライラ。
(ライラ)…… 分かったわ
■ 薄明かりの中、歪んだ錆だらけの鉄柵に囲われた廃工場。
■ ガスマスクを着けた3人、アロを先頭に、ドルジとライラが続く。
■ ライラに説明するドルジ。
(ドルジ)お前が来る前に催涙ガスをぶち込んどいた
(ドルジ)そろそろ頃合いだろう
■ フラッシュライトを照らし、工場内に侵入する3人。
■ 壁のスイッチを入れる。
■ 天井の照明の一部が点灯する。
■ 作業台を見下ろす3人。
■ ガスマスク越しのライラの目が大きく見開かれる。
(ライラ)…… アンドロギュノス……
■ 作業台の上に横たわる奇妙な死体、臍の下で切断された裸の女の上半身と、裸の男の下半身とが太い糸で荒く縫合されている。
(ドルジ)チンポを持った女か はたまたその逆か
(ドルジ)こんなの作って何の意味があるんだ?
■ 周辺を探りながら話すアロ。
(アロ)原初への回帰だ
(アロ)神に創造された最初の人間……
(アロ)アダムは両性具有だったという
(アロ)グノーシスのシンボルでもあったというが……
■ 横たわる死体の顔、青ざめたその女の顔は長い金髪に縁取られている。
(ライラ)…… この女性…… 見覚えがあるわ……
(ドルジ)いい女だったろうに…… チンポの方には見覚えないのか?
■ 冷ややかな視線を投げ太腿のナイフに手を伸ばすライラ、サッと両手を上げるドルジ。
■ アロの声にドルジが振り向く。
(アロの声)あったぞ
■ 鉄の蓋が開かれ、下へと続く梯子が見える。
■ ドルジとライラに話すアロ。
(アロ)ここから潜入する
(アロ)ドルジと私が先行だ
(アロ)レベッカの発見が最優先だが 途中の障害は全て排除する
(アロ)ライラ 君は無線でレベッカに呼び掛けてみてくれ
■ 頷くライラ、凝りをほぐすかのように首を回すドルジ。
(ライラ)分かったわ
(ドルジ)仰せの通りに