「獣の国」第1幕 第23場(トレジャーハンター)
トレジャーハンター
■ 光量を絞ったフラッシュライトで前方を照らしながら歩くイツァーク。
(イツァーク)(部屋に残っていた女の血と汗と小便のにおい……)
(イツァーク)(そして もう一つの強烈な悪臭……)
■ イツァークはゴーグルを掴み、額まで引き上げる。
(イツァーク)(喰うために攫ったのか…… それとも……)
■ 地面の上、何かがライトの光を反射する。
■ 拾い上げて掌に乗せると、それは十字架を模した意匠のペンダントヘッドだった。
■ ペンダントヘッドが落ちていた地面の横を見るイツァーク。
■ ライトの光を当てると、丸い光の中で、腰ほどの高さに人一人が通れる大きさの穴が開いているのが見える。
(イツァーク)(ここか)
■ 穴の中を照らすとトンネル状になっており、緩やかに下方向へ続いている。
■ ライトのスイッチを切り、イツァークは身を屈めて斜めに下る穴を進む。
■ 前方が微かに明るくなっている。
■ 穴の終端で、先の状況を窺うイツァーク。
■ 人の手により作られた古びた通路が左右に広がり、左に向かう通路はすぐ先で崩れている。
■ 音を立てず、通路に降り立つイツァーク。
■ イツァークは、右に向かう通路に目を向ける。
■ 通路は苔に覆われ、天井には千切れかけた管が何本も張り付いている。
■ 所々に裸電球がぶら下がり、その小さな光が通路を僅かに照らしている。
(イツァーク)(随分と古い施設のようだが…… なぜ照明が生きているのか……)
■ ゴーグルを再び装着し、ナイフをタクティカルベストの肩口のシースから引き抜くイツァーク。
■ イツァークはナイフを手に歩き出す。
■ 通路が左へ分岐している。
(イツァーク)(においはこっちに続いている……)
(イツァーク)(しかし…… この不快な音は何だ…… ?)
■ 通路を進むイツァーク。
■ 通路の先、左側の開口部から明るい光が漏れており、中から人の声が聞こえる。
(声)…… っと残念! 惜しいなぁ…… ここが欠けてなかったらなぁ……
■ ナイフをシースに戻すイツァーク。
■ やや広めの四角い部屋の中、天井からぶら下がった裸電球の下に、1人の男が壁を向いて座っている。
■ 声を掛けるイツァーク。
(イツァーク)何をしている?
■ 振り向く男、ボサボサの髪に、丸眼鏡を掛けている。
■ イツァークの胸の文字を見る男。
(男)お 真紅護社か
■ 男は、また壁の方へ向き直る。
(男)少し前にアレが何か引き摺って奥へ戻って行ったよ
■ 手元を見ながら、少し笑いを浮かべ話す男。
(男)気を付けるんだな
(男)奥には多分ウジャウジャいるぞ
■ 部屋の入り口に立ったまま、男に質問するイツァーク。
(イツァーク)ここで何をしているんだ?
■ 壁に向いたまま男は話す。
(男)あんたと同じさ 金稼ぎだ
(男)ここは恐らく皇国軍の監獄として使われていた場所だね
■ 男の手には、古びた軍用水筒がある。
(男)皇国軍の軍用品……
(男)幻の兵士のオリジナル物は凄く高値で売れるんだよ
(男)ここら一帯は 俺にとっちゃあ黄金郷だ
■ チラリとイツァークを見る男。
(男)あんたらも アレの死骸一つ持って帰れば5,000ドルにはなるんだろう?
(男)まあ…… 割に合ってるとは到底思えんが……
■ 質問するイツァーク。
(イツァーク)ここにいて なぜ襲われない?
■ 答えない男。
(男)……
■ 答えを待つイツァーク。
■ 面倒臭そうに男が話し出す。
(男)喰っても不味そうだからじゃないか? 多分
(男)そろそろ一人にさせてくれないか
(男)あんたはあんたでやることあるんだろ?
■ 男の言葉を受け、踵を返すイツァーク。
■ イツァークは、再びナイフを手に通路を進む。
(イツァーク)(この照明はあの男が……)
■ その時、イツァークは何かに気付く。
■ ナイフを構えるイツァーク。