「獣の国」第1幕 第10場(地下の街へ)
地下の街へ
■ 真っ直ぐに伸びた巨大なトンネルの中、街路の両側には出鱈目に積み上げられた今にも崩れ落ちそうなビルが建ち並び、大小様々なネオンサインが毒々しい光を放って、濡れた路面はそのネオンの光を反射している。
■ 様々な言語の音楽が無秩序に鳴り響き、後部座席に人を乗せた三輪自動車が騒がしい音を立て人々の間を縫うように走る。
■ 街路を行き交う人々の視線が、周りとは違う雰囲気の男女の一団に向けられている。
■ ドルジとライラを先頭に、イツァークとレベッカが続き、最後尾に丈高いアロの姿がある。
■ 心配そうな顔で、レベッカは隣を歩くイツァークの顔を見上げる。
(レベッカ)痛いところはないですか?
■ 答えるイツァーク。
(イツァーク)大丈夫だ
■ 振り返り、イツァークに問い掛けるドルジ。
(ドルジ)にいさん ありゃ何の魔法だ?
■ イツァークが答える。
(イツァーク)……
(イツァーク)魔法 などというものではない
(イツァーク)人間の身体には…… 致命的な部位が幾つかある
■ アロが口を挟む。
(アロ)経穴 というやつだろう
(アロ)知らんのか 東洋人?
■ 前に向き直り、苦笑いするドルジ。
(ドルジ)所謂 ツボ か
(ドルジ)にいさんと遣り合うことになったら なるべく近付かんようにしないとな
■ ライラが振り向き、イツァークとレベッカに話し掛ける。
(ライラ)あなたたち タブーな食べ物はある?
■ 答えるイツァークとレベッカ。
(レベッカ)何でも食べます
(イツァーク)大丈夫だ
■ 周囲は飲食店が数多く建ち並び、人通りも増えている。
■ 薄汚れた暖簾には「川菜」「Chuān cài」とある。
■ 円卓に運ばれる四川料理の数々。
■ 料理を前に嬉しそうに手揉みするドルジ。
■ 悪戯っぽく微笑みながら、ライラがイツァークに話し掛ける。
(ライラ)それ 付けたままお食事するの?
(ライラ)そういえば彼氏さんのお名前も聞いてなかったわ
(ライラ)私はライラ
(ライラ)隣の騒がしいのはドルジ
(ライラ)背高のっぽはアロよ
■ ライラのその言葉に、イツァークは両手を顔に上げ、ゴーグルを掴む。
■ ドキドキした表情でイツァークを見つめるレベッカ。
■ 外されたゴーグルとフェイスマスクがテーブルの上に置かれる。
■ 名乗るイツァーク。
(イツァーク)イツァーク・イヌカミだ