「獣の国」第2幕 第2場(悪夢)
悪夢
■ ウサギのぬいぐるみを抱き締め、穏やかな表情で静かな寝息を立てている娘。
■ 壊れたガラスの替わりに板が打ち付けられた3階の窓の隙間からランプの光が漏れる。
■ ランプの薄明かりの中、ベッドの上に身体を起こした医師の男は眉根を寄せ、隣のベッドを見つめる。
■ 人の形に盛り上がったシーツ、微かに震えている。
■ 震えが次第に大きくなっていく。
■ ベッドを抜けて隣のベッドの脇に立ち、声を掛ける医師の男。
(医師の男)志乃! 志乃!
■ 震えは止まらない。
■ 医師の男はシーツをそっと引き剥がす。
■ ベッドの上で身体を丸め激しく身体を震わす妻、志乃。
■ 目を固く瞑り、両手を額の前で固く握り合わせた志乃は、ガチガチと歯噛みしている。
■ 硬く握り合わされた両手の隙間から溢れた銀の鎖も同じく激しく揺れている。
■ 妻の首筋に手を当て、顔を曇らせる医師の男。
(医師の男)待っていろ
(医師の男)今 薬を持ってくる
■ 階下に降りようとする医師の男の腕を掴み、志乃が言葉を絞り出す。
(シノ)…… お…… お願い……
■ 振り返る医師の男。
■ 顔を歪ませながら、志乃は言葉を繋ぐ。
(シノ)…… 司祭様の……
(シノ)…… 司祭様のところへ…… 私を……
■ 困惑した顔で問い返す医師の男。
(医師の男)司祭? 司祭様とは誰のことだ?
■ 譫言のように話し続ける志乃。
(シノ)…… お願い…… お願い……