「獣の国」第2幕 第1場(廃墟にて)
廃墟にて
■ シャワーヘッドから激しく吹き出す水。
■ 壁に手を突き、俯き加減でシャワーを浴びるイツァーク。
■ イツァークの全身には生々しい傷跡が幾つも残っている。
■ 首から下げた革紐の先の小さな革袋が、イツァークの胸の上で水に濡れながら揺れている。
■ハンドルを回し、イツァークは水を止める。
■イツァークの長い睫毛の先から滴が落ちる。
■ スチールラックに積まれたタオルを手にしてシャワールームを出るイツァーク。
■ ロッカールームでは、1人の小柄な男が汚れた戦闘服を脱ぎ、脱いだ戦闘服をランドリーバスケットへ投げ込んでいる。
■ イツァークは、ロッカー下段から予備の戦闘服を取り出して身に着け、右腰のホルスターに拳銃を差し込む。
■ ゴーグルとフェイスマスクを装着し、ヘルメットは腰のベルトに吊り下げたイツァークがロッカールームを出ようとした時、下着姿になった小柄な男が話し掛ける。
(小柄な男)…… マイルズが病院送りになったって知ってるかい?
■ 振り返るイツァーク。
■ 人懐っこい目でイツァークを見ながら小柄な男が早口で続ける。
(小柄な男)いい気味だよ本当に
(小柄な男)そのままくたばっちまえば良いのに
(小柄な男)お仲間のソルノックの野郎は マイルズをやった男の喉を掻っ切るって息巻いているそうだ
(小柄な男)奴はマイルズに色々と依存してたからなぁ……
■ 塵芥が散乱し、投棄された廃品が堆く積み上げられた街路は暗く、人の気配もない。
■ 何かを探すかのようにゆっくりと歩を進めるイツァーク。
■ 壁が崩れた建物と建物の間に分岐路を見つけ、イツァークは立ち止まる。
■ 人1人がやっと通れる程度の細い分岐路を進んだ先に、人の手で掘り広げられた空間が現れ、廃材と不揃いの石で造られた粗末な小屋がある。
■ 小屋を見つめるイツァーク。
■ ゆっくりとイツァークは小屋に近づき、朽ちかけた壁に手を当てる。
■ 暗闇で揺れ動く小さな2つの光点。
■ 目の端に小さな光を捉えて、銃把に右手を添えるイツァーク。
■ 通り抜けてきた細い分岐路の先から、2つの光が近づいてくる。
■ 細い路から、ライトを手にした男が2人現れる。
■ 男の1人は大柄で、その肉体が鍛え上げられているのが分かる。
■ もう1人の細身の男は、光沢のある臙脂色のスーツを身に纏っている。
■ 臙脂色のスーツの男は、手にしたライトの光量を落としてイツァークの胸の「C.G.C.」の文字に当てると、柔らかい口調でイツァークに話し掛ける。
(臙脂色のスーツの男)巡回ですか ご苦労様
■ 銃把に手を添えたまま、イツァークは答える。
(イツァーク)散歩には向かない場所だ
(イツァーク)早々に立ち去った方が良いと思うが
■ 笑顔で返す臙脂色のスーツの男。
(臙脂色のスーツの男)そうですね
(臙脂色のスーツの男)でも今はあなたが居るのだから安全なのでは?
(臙脂色のスーツの男)それにこちらも 身を守れる程度の腕の者なら連れていますから
■ 答えるイツァーク。
(イツァーク)そうか
■ 小屋に近づきながら、話を続ける臙脂色のスーツの男。
(臙脂色のスーツの男)この場所では十数年前……
(臙脂色のスーツの男)痛ましい事故があったと…… 聞いています
■ 窓枠だったと思われる横木に手を掛け、臙脂色のスーツの男は静かに話を続ける。
(臙脂色のスーツの男)ここで生きる人々は
(臙脂色のスーツの男)戦火や迫害に苦しめられ
(臙脂色のスーツの男)安住の地を求めて世界中からやって来た不幸な人々だ
■ 臙脂色のスーツの男はイツァークの方に振り返る。
(臙脂色のスーツの男)真紅護社は文字通りこの不幸な人々の赤い血を……
(臙脂色のスーツの男)命を護るために作られた組織だそうですね
■ 穏やかな顔で続ける臙脂色のスーツの男。
(臙脂色のスーツの男)あなたにも その責務を十分に果たしていただきたい…… そう思っていますよ
■ 連れの大柄の男が、臙脂色のスーツの男に耳打ちする。
■ ライトの光量を上げながら、イツァークに暇を告げる臙脂色のスーツの男。
(臙脂色のスーツの男)そろそろご忠告通り立ち去ることとしましょう
(臙脂色のスーツの男)では これで
■ 歩き去る2つの影を見送るイツァーク。
■ イツァークは再び小屋の側に寄る。
■ 小屋の壁を背にし、腰を下ろすイツァーク。
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