化学系博士課程学生が考える:化学と運命
なんとなく久しぶりにnoteを開いた。
最後の更新から3年も経ったことにびっくり。
M1だった私も今やD2となりました。
振り返ると色々なことがありました。
そして、色々なことを考えました。
今回はその一つとして、化学と運命というタイトルで書いてみたいと思います。
まず、運命と聞くと、どんな印象を受けるでしょうか。
スピリチュアルな怪しいイメージを抱く人もいるかもしれませんね。
逆に、化学、今は科学と言い換えてもいいです、と聞くと、どうでしょうか。
何か無機質な、それこそ運命なんてものは排除するような絶対的なイメージでしょうか。
現在ならば、スマホを代表とするようなテクノロジーを思い浮かべる人が多いかもしれないですね。
結局、私が何を言いたかったかと言いますと、一般的に科学と運命は相容れないものという印象が強いのではないか、ということです。
でも、私は思う。
本当にそうか、と。
科学は、どのようにという疑問に効果的なアンサーを出します。
有機化学ならば、この反応はどのようにして起こるか。
その答えは、電子密度かもしれないし、構造の立体的な要因かもしれない。
しかし、科学はなぜという疑問には答えられません。
つまり、なんで電子密度が低いところが求核攻撃を受けるの?という疑問には答えられないのです。
だってそうじゃないですか。
別に電子密度が高いところが攻撃を受けてもいいじゃないですか。
今の体系が逆になるだけです。
別の例を出しましょう。
なんで、磁石に鉄はくっついてアルミはくっつかないんですか。
もちろん、それを説明する理論があるのはわかります。
でも、それ自体がなんでか、つまり、存在に関することは説明できないのではないでしょうか。
この、なぜという疑問に答えられない以上、全てはただそうだったから、というほかありません。
ただ、電子密度が低いところが攻撃される世界だった。
ただ、磁石が鉄にくっつく世界だった。
で、これって運命と言い換えても一緒じゃないですか?
ただ、そうなだけなんだからそういう他ないでしょう。
私は化学を専攻して5年目でそうとしか考えられなくなりました。
私の専攻は錯体化学です。
錯体の基本的な構造は有機化合物の配位子と、中心の金属イオンから構成されます。
私がよくやる合成法は、まず有機配位子、金属イオン源、塩基、溶媒をフラスコの中に入れて温度をかけます。
そして、落ちてきた粉末を単離精製するというものです。
そして、落ちてきた錯体の構造はその構造が強い場合は、1つです。
ここはちょっと語弊があるのですが、わかりやすくするためにあえて目を瞑ると、最安定の一つになります。
少なくとも私の系はそうでした。
なんどやってもその構造になる。
そして、その構造になる理由はそれっぽい説明ならいくらでもつけられる。
しかし、結局なんでその構造になったかと言えば、そうなったからとしか言いようがない。
私はここに錯体化学の神秘、強さを感じました。
そうなるしかなかったんだ。
これは運命ですよ。
だから、これって人生もそうだよなと思ったんです。
私という基質が世界という系に入っている。
私はエネルギー的に安定なところに落ちていく。
なにをしても無駄な時は無駄なんです。
錯体の合成でも、一旦強い構造が出来上がれば、塩基を入れても、他の配位子をいれてももう変わんないんです。
そして、その強い構造になるための配位子が、人の世界ではその人の思想なんじゃないでしょうか。
ちゃんと考えたら、そうとしか考えられない。
そこまで考えたら自信なんかあるに決まってるじゃないですか。
だって、そうとしか考えられないんだから。
もちろん、考え続けなければそれは本当でなくなってしまうので、あくまでその時のという話になりますけどね。
私は、導かれるように今の研究室に入り、今のテーマを選び、博士課程に進学した。
こんなの、説明不可能ですよ。
ただ、自身の純粋な直観に従いここまできた。
私にifはないです。
そうとしかならなかった。
私の実験の進め方をみても、こうなるしかなかったと強く思います。
だから、後悔などあるはずがないのです。
私はおそらく強いエネルギーの流れに身を任せていますので。
それでは。