「グランド・ブダペスト・ホテル」( 2014年)
ウェス・アンダーソン監督作品は、絵本のような雰囲気が個人的に好みではなかったのだが、本作は楽しめた。
ストーリーは比較的シンプルで、名門「グランド・ブタペスト・ホテル」の初代コンシェルジュであるムッシュ・グスタヴ(レイフ・ファインズ)と、その弟子であるゼロ(トニー・レヴォロリ)の冒険を描く。
グスタヴは、優秀なコンシェルジュで、宿泊客の中には彼を恋人のように思っている人も多くいた。その中のひとりであるマダム・D(ティルダ・スウィントン[)は、ホテルを去るときに、ひどく不安を感じるので一緒に来てくれないかと頼んだが、グスタヴは断る。
その後、マダム・Dは毒殺される。彼女の不安が的中したのだ。グスタブはゼロとともに、マダム・Dの葬式に向かう。そこには遺産を狙う親戚が勢ぞろいしていた。代理人のコヴァック( ジェフ・ゴールドブラム)が遺言書を読み上げる。そこには、グスタヴの名前も入っており、名画「少年と林檎」を相続すると記載されていた。親戚でもないグスタヴに途方もない価値のある絵画が譲られたことで、その場は騒然となる。暴力沙汰となり、その場を立ち去ったグスタヴは、「少年と林檎」の絵画を取り外して、立ち去った。もちろん、それで済むわけがなく、マダム・Dの息子ドミトリー( エイドリアン・ブロディ)は、殺し屋のジョプリング( ウィレム・デフォー)を差し向ける。
といったもの。
ストーリー展開はかなりスピーディーで、うまくまとめたと思う。
製作費は2500万ドル(37億円)で、興行収入は1億7200ドル(250億円)。30 億円が大ヒットの目安だとすると、めちゃくちゃ売れた、といっていいだろう。
こうして書くと、人気のある監督が、スター俳優を大量に使って撮った個性的で楽しい大ヒット映画、という感じになるのだが、本作で語られるのは「孤独」についての考察だ。
登場人物がみんな孤独なのだ。グスタヴの家族は登場しないし、ゼロは両親を殺されて国を逃げてきた移民。マダム・Dも親戚はたくさんいるのだが、孤独だったからこそグスタヴを愛したのだった。
本当の家族との愛はなくても、孤独な人々がつながり、助け合う。
本作で語られる人とのつながりは、本来つながらないであろう人々のつながりだ。ホテルを統括するコンシェルジュと移民のボーイ、そのコンシェルジュと富豪の老婆、そのコンシェルジュとナチス的な軍隊の司令官、またはそのコンシェルジュと収容所の囚人たち。ボーイと、お菓子屋で働く娘。
こういった、顔は知っているけれど、すれ違うだけであろう人々が、不思議な縁でつながる。
本作が公開されたのは2014年。撮影されたのは2013年。そう考えるとシナリオは2012年あたりの世界情勢が影響しているのではないかと思う。当時は世界の指導者が変わり、ユーロ圏の債務危機、シリアの内戦、といった出来事があり、不安に包まれていたのではないかと思う。
そういう時代に「孤独とは、誰ともつながらないことではない」というメッセージを伝えるのが、この映画の目指したところなのではないか。
映画は人間が作るものだ。そこには作られるための意図があり、メッセージがある。それを自分なりに読み取るというのが大切なことだと思う。