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スコープセレクター#NISHINA

三崎との馴れ初め

仁科誠が三崎杏奈と初めて出会ったのは、彼が専門学校に通っていた頃のことだった。当時、造園の勉強をしていた彼は、カフェでアルバイトをしていた。場所は地元にあるカフェチェーンの一店舗。

ある日、季節キャンペーンの販促作業に本社から来た社員がいて、それが三崎杏奈だった。
特別な容姿というわけでも、仕草が派手なわけでもないが、7歳年上と納得させる落ち着きと目線に感じる意思の強さが印象的だった。
仁科がバイトしている2年間、ずっと三崎が広報担当だった。
キャンペーンや新商品の発売など常に新しい仕掛けが続く会社だった。
準備と結果検証の聞き込みに、と何度も店で顔を合わせるうちに仕事中に見せる冷静さや揺るがない客観性とは逆の、自然が好きな優しさや、好奇心があるけれど慎重すぎて足を踏み出せずにいる弱さなどが垣間見えるようになった。
仕事中は有能すぎてかなわない、近づきがたい存在だが、休憩中や思い切って誘ったプライベートでの食事の時などは年齢差を感じさせない、対等な立場で素直に感情表現をしてくる。
それがとてもキラキラして見えた。

仁科が造園に興味を持っていること、そして将来は自分の手で多くの人に感動を与える風景を作りたいと恥ずかしそうに語ったとき、三崎は「それは素敵な夢だね」と素直に笑顔で言ってくれた。

そして社会人4年目の社会人である彼女は「私は文化を創り出すカフェをやりたい。皆が新しい意見を言えて、違う意見に耳を傾けて、いつものメンバーに新たな人が加わる。そんな風景が店の片隅で起こるような店」と言った。
この意思を感じさせる瞳の正体はこの夢か!と仁科は納得した。
二人はメールや電話を通じて少しずつ親しくなり、やがて交際を始めることになった。彼にとって、忙しい仕事をこなしながらも自分の夢をしっかり持って、経済的に自立できている彼女は尊敬できる大切な人だ。

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