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チーズINハンバーグ6つ

「あ、あそこに入ろう」

「いいね、ファミレスならアイドルタイムないもんね。」

紅葉狩りからの帰り道、家族4人でファミレスに寄り道することになった。50代の仲の良い両親と20歳の娘である私。18歳、大学生の弟。仲は良いし、父はドライブ好きなので、大人になってからも休みの日や夜の時間がある時などは父と2人とか父と母と3人で出かけることはある。

でも、家族そろって遊びに出かけるのは、本当に久しぶりだ。

久しぶりの家族揃ってのお出かけの締めくくりは、みんなで楽しく食事をすることにした。

よく見かけるファミリーレストラン、なんならメニューも思い浮かぶほどなじみがある。


まだ車を停める前だというのに、テンションが最高潮のママは「私、デミグラスハンバーグ&唐揚げね!」と早くもメニューを決めてしまった。それを聞いた弟は「じゃあ、俺はチーズINハンバーグ!」と続く。私は…メニューを見ないと決められないけど、肉うどんがあればいいな、と思っていた。

店に着くと時間は午後2時半。

普通の店だったらランチのラストオーダー時間だろう。ファミレスだといつでも食事ができて助かる!


ランチタイムはとうに過ぎているはが、入口付近には人がうようよ。ずいぶん賑わっている店舗なんだなぁ。
しかし、よく見ると、自動精算機を前に困った顔の年配夫婦が操作に手間取っている様子。
帰る前の清算だけでなく、席を決めてもらう受付機の前にも並ぶ組が。
「あれ、混んでいるわけじゃなくて、操作に慣れてないだけか?」と弟が言うと、全員が納得顔で頷く。
私たちはこの手の受付機に慣れているので、父がさっと「大人4名、希望テーブル席」と入力。出てきたレシートには「35番」と書かれていた。

「35番様、こちらへどうぞ!」
リアルな店員さんが席まで案内してくれる。受付番号を見て自分たちで行く形式が多い最近のファミレスでは珍しい光景だった。
「リアルに人が案内してくれるなんて、親切でいいね」と私が呟くと、ママも「こういうの好き!」と嬉しそうに頷いた。

席は全体の1/3ほどしか埋まっていない。別に混雑しているわけではなかった。
だって、ランチタイムはとうに過ぎているんだから。


席に着くなり、弟が一番にタブレット端末に手を伸ばす。
「チーズINハンバーグと餃子セットね!」と迷いなく注文する弟を横目に、私は肉うどんを探す。
ママは宣言通りのデミグラスハンバーグ、パパはチャーハン&餃子セットにするって。
「あ、餃子のクーポンがあるから150番で入力し直して」
「はーい。じゃあ いったん餃子は全部取り消しますよ~」
とやりとりしていると・・・

事件は突然起きた。
「お待たせしました!お先にチーズINハンバーグ2つです!」
そう言いながら現れたのは、キッチンスタッフと思われる男性。

エプロンとマスクとヘアキャップ姿で、ホールスタッフの制服とは明らかに違っている。
そんなに混んでいないのに、ホールスタッフが足りないのかな?

しかも、まだ注文入力が終わっていないので料理が来るはずがない。

「えっと、ウチまだ何も頼んでないんだけど、食べていいなら食べるよ?」
父の冗談に、キッチンスタッフは「あっあれ?!も、申し訳ありません!」と顔を赤らめてハンバーグを持ち去った。

「何これ、めっちゃ面白い!」
「ホールが席案内できるほど手が空いているのに、キッチンの人が運ぶって、逆じゃない?」
家族全員で笑っていると、今度は店内を動き回る配膳ロボットが私たちの目を引いた。その上には、さっきのチーズINハンバーグが2つ載っている。

そして35番テーブル、私たちの席の前で停まった。パネルにも「35番」と表示されている。

「さっきの?俺たちが座る前に誰かここのパネルから注文したんじゃない?」と弟が冗談を言うと、みんなの笑い声がさらに大きくなった。

他の注文した品もたしかに乗っているので、それだけ受け取ってロボットは帰っていく。

私の肉うどんだけまだ来ないな。。。

すると「チーズINハンバーグと肉うどん お待たせしました」と今度はホールスタッフ。

「注文したチーズINハンバーグは1つでもう届いているよ。さっきからロボットがおまけしようとしてくれてるけど」と父が言うと「大変失礼いたしました。システムにタイムラグがあるか2重でオーダーが入ってしまっているのかもしれません。」と深々と頭を下げてハンバーグを下げていった。

「ちょっとオーダー履歴確認して。ウチが間違って注文していたら会計しなきゃいけなくなるじゃん」と父。

「いや、全部一つずつ。注文は間違ってないよ」と弟。

「いやー一つの注文なのにチーズINハンバーグいくつ来るのかな」

「次に来たら受け取って食べちゃおう!会計は変わらないんだしさ」と父が冗談を言うと、ママが「お腹いっぱいになっちゃう~!和デザート食べる余裕がなくなるじゃない!」と肩を落とす。もちろん、笑いながらだ。

最終的に、テーブル会計を済ませようとしたタイミングで、ロボットにによって6つ目のチーズINハンバーグが運ばれてきた。
「チーズINハンバーグに襲われてる?」と父が聞くと、近くにいた店員さんがやってきて、深々と頭を下げ「本当に申し訳ありません!」と謝罪するばかりだった。

けれど、怒る気にはなれない。むしろ、この珍事件のおかげで家族全員が大笑いしながら楽しい時間を過ごせたのだから。

「今日の紅葉も良かったけど、チーズINハンバーグも最高だったな!合計で6つも来たよ!」
車の中でも笑いが止まらない私たちは、次回もまたチーズINハンバーグに出会えるかもしれないと期待しつつ、楽しい一日を終えたのだった。

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